■【経営コンサルタントのお勧め図書】 2025年7月号「再浮上する日本」に希望を 『悲観バイアスを排す「シン・日本の経営」-再浮上する日本には希望がある-』
■ 今月のおすすめ
『悲観バイアスを排す「シン・日本の経営」-再浮上する日本には希望がある-』
』 (ウリケ・シェーデ著 渡部典子訳 日経プレミアシリーズ)
発売日 : 2024/3/9
新書 : 224ページ
ISBN-10 : 4296118773
ISBN-13 : 978-4296118779
![]()
■ 「シン・日本の経営」企業は、21世紀の「Japan as No1」へ(はじめに)
紹介本の著者の略歴を簡単にご紹介します。略歴を紹介する理由は、著者の提言・理論の背景に、著者の「生まれ育ち」と「職歴」があるからです。
著者はドイツで生まれ、ボンのライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学で日本語を学んで、卒業後、一橋大学大学院博士課程を経て、1989年、独・マールブルクのフィリップ大学にて日本学と経済学を専攻して、最優秀で博士号を取得。
1990年にはアメリカへ。カリフォルニア大学バークレー校客員助教授をスタートに、ハーバード・ビジネススクール准教授を経て、2008年から、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授、“サンディエゴと日本をつなぐ研究所(Japan Forum for Innovation and Technology )”の、ディレクターとして活躍中です。
2010年、日本政策投資銀行設備投資研究所の海外客員研究員として招かれ、「日本の高収益企業の戦略」をテーマに研究。その後、一橋大学経済研究所客員助教授、日本銀行金融研究所客員研究員、三菱総合研究所アドバイザーを歴任し、日本の在住は9年。現在も1年に数回来日しています。
この様に、ドイツ、アメリカ、日本に於ける、生活・研究を背景に、高収益企業の研究で得られた知見と、後で詳述する、「タイト・ルーズ理論」の視点で、「失われた30年」を「再浮上するための準備期間」と捉えているのです。
つまり著者は、日本経済について、『30年も停滞し、否定的な見方だらけだけれど、しかし日本は、人口では世界で12位、国土面積では61位にも拘らず、GDPでは4位に留まっており、しかも困窮していないのは何故』と肯定的な問いをし、その答えとして、『「失われた30年」は、社会の安定というバランスを取りながらの準備期間』であり、『バランスを取り乍ら変革への備えをし、進化し、これから更に繁栄するのが「シン・日本の経営」企業であり、その日本には希望がある』とし、「シン・日本の経営」企業は、21世紀が理想とする経済社会における「Japan as NO1」への道を歩んでいると言います。
それでは、著者の「タイト・ルーズ理論」の視点を、以下で、見てみましょう。
【タイトな文化とルーズな文化とイノベーションの関係性】
嘗て、米・文化人類学者のルース・ベネディクトは「菊と刀(1946年出版)」の中で、日本の文化を、“相対的な空気を意識する”「恥の文化」と定義し、欧米の文化を、“自律的な良心を意識する”「罪の文化」と定義し、後者を良しとしました。
これに対し、著者が引用する「タイト・ルーズ理論」(ミシェル・ゲルファンドの2011年の論文)は、「菊と刀」が示す様な倫理的な“良し悪し”ではなく、タイトとルーズは、それぞれ一長一短があり、トレードオフ(両立できない)の関係にある、“違い”と位置付けます。
タイト・ルーズは、人々が“正しい行動”だと感じる強さ(合意)と、“正しい行動”からの逸脱に対する寛容・非寛容(強度)、により測られるとします。因みに、日本は、正しい行動(多数のルール)に対する合意があり、逸脱に対し余り寛容ではない、タイトな国に分類されます。一方、アメリカは、個人主義が良しとされ、変な行動をとる人がいてもやり過ごす、ルーズな国に分類されます。
タイト文化日本とルーズ文化アメリカで起きている、イノベーション関係の、“違い”の具体例を見てみましょう。
ルーズ文化のアメリカのシリコンバレーでは、高速・流動的・魅力的な「アイデア市場」という長所の内側では、ウエルビーイングに関し、大きな犠牲を強いる環境や、公平性・多様性・包摂性に欠けていること、さらには、所得格差は悪名高い、と著者は指摘します。
一方、日本では(ヨーロッパと同じく)安定と予測可能性が重要視され、それがイノベーションに対する慎重な姿勢に繋がり、製品の発売前の完璧性を確認する必要性に加え、個人の自主性や安全第一に配慮する結果、イノベーションは遅くなり、また検証を繰り返す結果、イノベーションの進展を阻んでしまう、と著者は指摘します。
著者は、このテーマについて、次のように結論付けます。『シリコンバレーと比べ、“日本が遅い”というのは間違いである。日本は国民の夢や希望、社会全体の志向性に合った独自のシステムを構築している。他国に比べればはるかに穏やかで、治安も社会秩序も素晴らしく良好に保たれている。その様な日本ならではの良さを、評価すべきである。21世紀において重要なことは、経済大国になる事ではなく、経済成長と、社会の安定とのバランス、経済的な生産活動と、持続可能な環境とのバランス、企業の進歩やイノベーションと、人々の共存が重要になっている。日本は、この新しいバランスをとり、21世紀の「Japan as NO1」への道を歩んでいる』と。
加えて、著者は、「タイト・ルーズ文化」に関連して、重要な提言をします。『同じ国の中でも、生まれ育ち、地理的条件、世代、社会的階級、職業、性格特性などによって、個々人は、生まれつき、タイト寄りであったり、ルーズ寄りだったりする。企業、家庭、学校などの集団単位に於いて、個々人のタイト・ルーズの“差異・違い”があることを認識すべきである。21世紀の競争に欠かせない新しいイノベーション戦略や手順を構築し、この変革を上手く進めるために、広く分布する人々を一つに纏める、「企業カルチャーの変革」が必要である』と。
以上の詳細は、【図表1】『33ヶ国の「タイトの度合い」』&『「タイトな国」で変革を進めるに必要な「企業カルチャーの変革」』(下記URL)を参照ください。
URL; http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai202507-1nihonnokeiei.pdf
著者は、日本の企業経営について、1991年のバブル崩壊と1998年から2004年にかけての金融危機による、大不況を経験し、またその後の、行政による構造改革や、組織再編とイノベーションに向けた新しい戦略を可能にする“法改正”などを経て、先頭企業は変革(ピポット)を遂げ、グローバル・バリューチェーンに於いて、欠くことのできない存在である、「シン・日本の経営」企業に育っていると指摘します。
一方、未だ日本の多くの企業は、JTC (Japanese Traditional Company-伝統的な日本企業、昭和時代の企業文化が色濃く残る企業-)であると指摘します。
ピポットを遂げた状況を、【図表2】『「シン・日本の経営」企業が生み出す「世界市場における優位性」』(下記URL)から、参照ください
URL; http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai202507-2nihonnokeiei.pdf
著者は、今は、「シン・日本の経営」企業が20%、JTCが80%(パレートの法則)で、日本の国力を支えているが、将来、この比率が40:60になることを期待したいと言います。
それでは次項で、著者が提言する、JTCが「シン・日本の経営」にピポットするための戦略フレームワークについて見てみましょう。
■ 「シン・日本の経営」企業へピポットする為の戦略フレームワーク
著者が、先頭企業である「シン・日本の経営」企業を分析し、JTC企業が先頭企業の仲間入りするための2つのフレームワークを提言します。
一つは、それぞれの領域の先頭ランナーになり、収益性を高める「7P」です。二つ目は、現在の主力事業を“深化”により生かし、方や、将来のビジネス機会を“探索”(両利き経営)し、システム・イノベーションや新技術による新規事業を生み出し、企業の持続的成長を図る戦略(著者は「舞の海戦略」と命名)を設計するツールとしての「イノベーション・ストリーム・マトリックス」です。この2つを以下で見てみましょう。
【それぞれの領域の先頭ランナーになり、収益性を高める「7P」】
著者が高収益な特定領域の先頭企業を研究・聴取をし、共通項として抽出したのが「7P」です。一般的経営管理理論と違い、実践的・具体的であるところが貴重です。
「7P」は、Profit(利益)、Plan(戦略)、Paranoia(危機意識)、Parsimony(効率性)、Public Relation(情報の透明性)、People(リーダーシップ)、Pride(幸福感)の7つです。
一般的経営理論と最も異なるのは、「常に新しい事業を探索し、技術変化に注意を払っているか」を問う、Paranoia(危機意識)です。
また、著者が最も重視するのは、「7P」を導き、深化と探索の両者を行う組織力を生み出す「企業カルチャーの変革」を生み出す、リーダーシップ・Peopleです。更なる、詳細は、下記【図表3】P2、P3及び紹介本をお読みください。
【未来戦略を設計する「イノベーション・ストリーム・マトリックス(ISM)」】
著者は「イノベーション・ストリーム・マトリックス」(以下ではISMと表記)を以下のように定義します。『企業は既存事業を深化させ、それによって利益やキャッシュフローを生み出すと同時に、絶えず新しい事業領域を探索する必要がある。その為には、①自分たちはどの様な企業で(アイデンティティ)、現在のコア・コンピタンスは何か、②このコア・コンピタンスをユニーク且つスマート(「賢い」「高性能」「高効率」の意)で、他社が、作るのも、模倣するのも難しい新規事業に、どの様に広げられるか、この2つの重要戦略についての意思決定が重要である。ISMはこの2つの答え、つまり、将来的にどの技術で勝負するか、を出すためのツールである』と。
加えて次のように言います。『ISMは、、どうすれば現状の技術・資産・組織能力を新規事業に応用して、新技術リーダーになれるかの、将来の事業成長のロジックを示すものだ。』と。
ISMとアンゾフの成長マトリックス(下記【図表3】P6を参照)は、共に企業の成長戦略を視覚化するためのフレームワークですが、一番の違いは横軸です。アンゾフの成長マトリックスが「製品」であるのに対し、ISMは、「技術・資産(コンピテンス)・組織能力」です。
この横軸の違いと、イノベーションのタイプ(深化<改善>と探索<革新>を両立して行う「両利きの経営」)が特徴のISMこそが、競争相手が、作るのも模倣するのも難しい、新規事業への拡張を可能にするのです。
詳細は、【図表3】『「7P」と「イノベーション・ストリーム・マトリックス」』(下記URL)を参照下さい。
URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai202507-3nihonnokeiei.pdf
■ JTC企業から脱却し、それぞれの分野の先頭企業を目指そう(むすび)
「失われた30年」と言われた時代に、着実に変革し、世界市場で不可欠の存在となり、高収益を上げている「シン・日本の経営」企業を見て来ました。
「シン・日本の経営」企業から、日本の強みを改めて認識し、希望を以って、それぞれの領域の「ナンバーワン」を目指しましょう。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
![]()






















