あの『チョコレート』以来になる(人によっては『アルティメット・エージェント』以来の)パンナー・リットクライ師匠のアクション(指導)映画、『SOMTUM』(08)が一月前にタイでDVD/VCD化されたので購入して鑑賞したのだが、これが中々の個人的傑作でした。
主役は『トム・ヤム・クン!』(05)でトニー・ジャーと闘い、強いインパクトを残した元プロレスラーのネイサン・ジョーンズ。その彼が図体だけはデカイが、気は小さいアメリカからタイに来た旅行者で、偶然食べたソムタム(パパイヤの皮の入ったパタヤ名物の激辛サラダ)の力により馬鹿力を発揮し周りの敵をぶっ飛ばすというマンガちっくな役を結構繊細に演じている。へぇ~思ったより演技力あるんですね、彼。
彼は劇中、女の子コンビと友人になるのだが、ひとりは友人思いのコソ泥で英語が話す事が出来るため常にネイサンとコミュニケーションを取っていたナワラット・テーチャラタナプラスートという少女。もうひとりは自らが会得したムエタイを武器に家族に楽な暮らしをさせたいと考えているサリッサー・チンターマニーという少女で、特に今作ではネイサンのド迫力アクションと共にこのサリッサーのムエタイ・アクションが売りになっている。
彼女を見るのは今回が初めてではなく『七人のマッハ!』で老人からムエタイを習っていた村の少女役ですでにお目にかかっている。その彼女が身長も伸びて大人顔負けの切れ味鋭いムエタイ・アクションを披露してくれているのでまるで親戚の叔父さんが「大きくなったなぁ」と思うがごとくだ。
この作品のムエタイ・アクションを観て思ったことは(もちろん前作の『チョコレート』も観て)、パンナー印のムエタイ・アクションは完成されてしまったのではないか?と言う事。
『マッハ!』で初めて披露された時には格闘アクションと言えばクンフー型かマーシャルアーツ型しか知らなかったので凄く斬新で危険に思えたものだった。特に膝や肘など人体で一番硬い部分を殺陣とはいえ叩きつけるのでその衝撃は計り知れない。次に続く『トム・ヤム・クン!』では蹴りや肘・膝に立ち関節技を加えてますます古武道的な動きになり、より実践的な感じとなった。
そして今回の『SOMTUM』では今まではトニー・ジャーやダン・チューボンといったスタントマン畑しか出来ないと思われていた(『チョコレート』ジージャも四年間の訓練を受けていたし)ムエタイ・アクションを中学生くらいの女の子が披露しているのだ。
これは演出方法(見せ方)を含めパンナー印のムエタイ・アクション、つまりパンナー式アクションのノウハウが完成した証拠ではないか?
見た目にはトニーやジージャが披露したアクションと大差はないが、受け手のスタントマンの技術向上や撮影テクニックやワイヤー、CGといった補助技術も使いこなし「このレベルであれば高度のアクション・スキルをもつ者でなくても見せる事が出来る」というパンナー師匠のアクション監督としての自信の表れのように感じる。
また劇中には他に小道具を使用したジャッキー式のアクションも披露されていてパンナー師匠は今作では冴えまくっている。ネイサンもトム・ハワードやプレデターといった《ZERO-ONE》OBとプロレスチックなアクションを見せてくれ、ギロチンドロップやフランケンシュタイナー等のハードコアなプロレス技の応酬はその筋の人でも納得できる仕上がりになっている。
この『SOMTUM』、『チョコレート』同様日本公開を強く希望する!とはいってもDVDリリースされるんだろうな、きっと。