ブログ「かわやん」

森羅万象気の向くままに。

日曜新聞読書欄簡単レビュー

2010年05月30日 13時37分13秒 | Weblog
日曜読書欄からの恒例の記事だが、話題作は同時に書評が複数でることがある。産経、日経に掲載された小川国夫『弱い神』(講談社、3999円)もそうだ。書評はいずれも名だたる文芸評論家だが、日経の方が優れている。それは根幹にある小川文学のテーマを抽出しているからだ。暴力と愛。評者高橋英夫は小川文学の核心をこう表現する。作品は小川作品でおなじみの藤枝、大井川河口周辺である。紅林鋳造所の3代記だが、登場人物に確執や喧嘩が多いこれまでの作品のように、この作品もそうだ。高橋は「太陽の光、海の波が原初このかた変わりないように、人間も肩をぶつけあい、痛みを感じ、様々交わりつつ生きているので、読者にそう感じさせる文体と語感がその力を生んでいる」との趣旨の文を書き、暴力と愛、これが人間行動の原型であり、本書にもその原点をみる。小川が書き続けることで何を求めたかは、最終章「未完の少年隊」のウエートが重いかもしれない。救いの問題である。3代目の與志は文学や思想に目覚めるが結核により夭折する。キリスト教の私塾を開く人物が登場するが、そこに救いがあるのかを投げかけてもいる。

細田衛士『環境と経済の文明史』(NTT出版、1800円)ー日経ーは、経済成長と自然破壊がテーマだ。現代思想をとくカギは欲望でもあるが、この欲望を保障するのものは、本書のキーワードである余剰生産物である。豊かさの裏返しでもある余剰生産物は自然破壊をして人間がほしいものを産み出してきた。しかしこのまま自然破壊を続けていいはずはない。如何にして「成熟した社会」を作り出すのか。それは知識や美に余剰を感じる欲望を求める社会であると説く。「余剰生産物の増加を求める豊かさの中身を転換する必要があり、自然環境への負担をかけずに余剰生産物をつくる」と評者植田和弘はまとめている。

 毎日では丸谷才一、山崎正和による井上ひさし論が展開されている。毎日は太宰治、松本清張らが生誕100年を迎えたことから見開きの作家論のページを2人の論者により組む特集をしたが、その手法が今回の井上ひさし特集に反映された。ほかにはない読みごたえのある欄となっている。井上における「やさしさ」「母なるものの憧憬」を感じていた私は、両者の評論に感じるものが多かった。

 池澤夏樹個人編集『世界文学全集』がギュンター・グラス『ブリキの太鼓』でⅠ、Ⅱの刊行すべてを終えて、ギュンター・グラスの作品の訳者池内紀との公開対談を紹介している(毎日)。池澤の世界fだという池内に池澤はドキュメントがないとⅢの6巻を加えた話が掲載されている。文中敬称略


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