あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

ジュリー・オオツカ著・小竹由美子訳「あのころ、天皇は神だった」を読んで

2018-12-09 09:52:15 | Weblog


照る日曇る日 第1173回

大東亜戦争についての研究書かと思ったがさにあらず、(どころか天皇についての記述は数えるほどしかない)、日帝による真珠湾攻撃の仕返しに、財産も地位も取り上げ、1世も2世も味噌くそ一緒くたに強制収容所に放り込まれたある日系人一家の運命を、始めは処女の如く淡々と、終わりは活火山の大爆発のように音吐朗々と描いた中編小説でありました。

序章となる「強制退去命令一九号」以下最後の「告白」まで、全部で5つの章で構成されたこの小説は、章毎にあえて語り手を切り替えるなどの創意工夫を施していますが、名翻訳家の小竹由美子さんによって精妙に邦語に置き換えられたその語り口は、当時の歴史的事実に依拠しながらも、見事に抑制された知的なもので、随所に詩的なニュアンスを湛えて読む者を飽かせません。

ようやく戦争が終わると、この物語の主人公たちは無事に加州バークレーの我が家に戻って来ることができました。悲惨の極みとはいえ、これがもし日米彼我の立場が逆転していたら、彼らのような移民の一家は、どのような運命をたどることになったでしょうか。

自らも移民の子でありながら、トランプ大統領は、極端な移民排斥政策をとって世界中から顰蹙を買っていますが、私たち日本人ならナチの強制収容ばりの、それ以上に過酷で残酷な対応をするのではないでしょうか? 

関東大震災の折の朝鮮人虐殺事件を知る者にとっては、想像するだに恐ろしいことです。


 「今度生まれてきたら国境なき医師団の看護師さんになりたいな」と妻が言う 蝶人

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