┌───今日の注目の人───────────────────────┐
「いまがその時、その時がいま」
外尾悦郎(サグラダ・ファミリア主任彫刻家)
『致知』2012年12月号 特集「大人の幸福論」より
└─────────────────────────────────┘
【記者:スペインへ移住されてから今年で34年目になるそうですね】
はい。私自身の気持ちとしては昔から何も変わっていませんが、
ただはっきり言えるのは、34年もあそこで
仕事ができるとは一度も思わなかったということ。
いつもいつも「これが最後の仕事だ」と思って取り組んできました。
【記者:いまだにそうなのですか】
はい。私は長らくサグラダ・ファミリアの職員ではなく、
一回一回、契約で仕事をする請負の彫刻家でした。
教会を納得させる作品ができなければ
契約を切られる可能性がある。
命懸けという言葉は悲壮感があって
あまり好きではありませんが、
でも私自身としては常に命懸け。
というのも命懸けでなければ面白い仕事はできないからです。
ただ本来は生きているということ自体、
命懸けだと思うんです。
戦争の真っただ中で明日の命も知れない人が、
いま自分は生きていると感じる。
病で余命を宣告された人が、
きょうこの瞬間に最も生きていると感じる。
つまり、死に近い人ほど生きていることを
強く感じるわけで、要は死んでもこの仕事を
やり遂げる覚悟があるかどうかだと思うんです。
この34年間、思い返せばいろいろなことがありましたが、
私がいつも自分自身に言い聞かせてきた言葉がありましてね。
「いまがその時、その時がいま」
というんですが、本当にやりたいと思っていることが
いつか来るだろう、その瞬間に大事な時が来るだろうと
思っていても、いま真剣に目の前のことを
やらない人には決して訪れない。
憧れているその瞬間こそ、実はいまであり、
だからこそ常に真剣に、命懸けで生きなければ
いけないと思うんです。
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