16期田代です。最近、「人を大切にする経営」を行っている会社を見ていると、以前の投稿で紹介した未来工業などもそうですが、ファミリー企業(同族経営企業)が多いような気がしています。今日の投稿内容は、「日本のファミリービジネス研究」という浅羽茂氏(早稲田大学ビジネススクール教授)の論文を読み、同族経営の強さの源泉について考えるきっかけとなりましたので、その一部について所感を述べます。
ファミリービジネスは、経営の所有と分離という概念において、原始的な形態であり、非ファミリー企業と比較すると劣後するというのが一般的な認識ですが、この論文では、ファミリー企業のほうが財務指標において非ファミリー企業に優る数値を示しているようで、その強さの源泉が研究されています。
一般的に同族経営の強みは、意思決定の速さや事業継続を重視し、短期的成果よりも長期的な企業成長や人材育成を重視していることだと言われています。
この論文で述べているファミリー企業の一つ目の強みは、リスクを冒さず、手堅いところでしっかりと特許を押さえて事業継続を優先しているということです。
研究開発への投資において、同族経営は規模が小さく、不確実性の高い投資に消極的ということが数値でも証明されていますが、一方で特許の数では劣っていません。つまり非ファミリー企業は経済的価値の高い特許取得によって莫大な成果を手にする研究開発に投資をしているのに対し、ファミリー企業は確実性を高めるために比較的経済的価値の低い研究開発に投資して特許を取得しているためと考えられます。
次に、同族経営であるがゆえに、従業員の士気が上がらないという指摘もある一方で、経営者が優れていれば、その一族が経営を引き継いでいくことに対する安心感や信頼感というものもあります。
一方、同族企業の弱みと思うのは、創業経営者であれば、非ファミリー企業と比較しても財務的な数値は高いものの、2代目以降となると、その数値は非ファミリー企業に劣ることです。マキャベリの「君主論」関連書籍にも同様な記載がありますが、創業社長・経営者は、自ら修羅場をくぐり抜けた経験と、その成長過程で培った技術や経験、知識や人脈に加えて、利害関係者との人間関係をコントロールする力が養われています。これは強い使命感を持って事業を起こした創業社長・経営者に特有のスキルですが、これが2代目などすでに出来上がったものを受け継いだ人間にははじめから備わっていないため、数値が劣るのだと考えます。しかし、ゼロからスタートするその他一般の人間に比べれば、2代目は十分に恵まれた環境にあります。地盤・看板・カバンといわれるように、表向きは必要なものがすべてそろうため、あとは本人の力量次第です。しかし、このスキルは恵まれた環境ではなかなか身に付かないため、関連のある企業などへ武者修行に活かせて、ある程度の経験を外部で積ませてから、本家に戻るというのが一般的なようです。
以上のことから話をまとめますと、ファミリー企業は短期的な利益の追求よりも長期的に存続することを目的として堅実な経営をし、「利他の精神」で社員、取引先、顧客、社会、株主など多くのステークホルダーの幸せや利益を優先していることで、社会から信頼・尊敬される企業となることが強みとなる。一方ガバナンス面においては、同族企業は会社を私物化するような不祥事が起こりやすいことが弱みであり、常に身ぎれいにし、2代目以降の経営者も人間関係をコントロールするスキルを養い、「利他の精神」で経営することが求められるのだと思います。
長文お読みいただきありがとうございました。