特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

9-14・ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-04-12 00:05:07 | 日記

さて前のページでは「J-PARCの実験はフェルミ研での実験結果を支持しない」と主張しました。

そうしてその根拠は「9-12」で示した(1)式 の第二項が計算上ではゼロにならない、と言うものでした。

ωa = − e/mµ[aµ*B" −(aµ − 1/(γ^2 − 1))*( β" × E")/c] ・・・(1)式 

再確認しますと所定のaµ=25/21584=0.0011582653817642698・・・の値に対して

(aµ − 1/(γ^2 − 1)) の部分をゼロにするγの値を「マジック運動量」であるとし、今のaµの値の設定の場合はγの値はγ=29.4となっています。

そうして確かにaµとγに上記の値を代入すると(aµ − 1/(γ^2 − 1))はゼロになるのです。

というよりもγ=29.4に対して(aµ − 1/(γ^2 − 1))をゼロにするようなaµの値を決めたのですからそうなります。

で、「何故その様な設定をしたのか」といいますれば「計算上は上記の様に確かにaµとγが打ち消し合って第二項がゼロに落ちる」のですが、その計算が成立している前提条件を明らかにする為でした。

と言いますのも上記の計算が成立する為には「地球が静止系である」という条件が必要なのです。

 

それは「地球が客観的に存在している静止系に対して0.001Cでドリフトしている」という条件を入れて計算する事で示すことが出来ました。

その様なドリフト条件で計算すると(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分はゼロにはならず、ゼロからずれてしまう、という結果でした。

そうであれば「実験室系で見た時にγ=29.4に設定できた」と思っていた条件では実は(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分はゼロにはなっておらず、したがってフェルミ研の実験では正しいaµの値は測定できていない、という事になったのでした。

 

もともと(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分をゼロにする必要があったのはこの項の後に続く( β" × E")/c という項の為であり、そうして「何故この項が必要になっているのか?」といいますれば「ミュー粒子のビームの縦方向へのドリフトを規制するために静電四重極が必要だったから」が答えになります。

その静電四重極が作り出す電場E"の影響が出ないようにするために所定のビーム速度での測定が必要となっていたのでした。

しかしながら「静止系に対して地球がドリフトしている為に、原理的に(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分はゼロにはできない」と言うのが答えになるのです。

さてそうであればこそ (aµ − 1/(γ^2 − 1))*( β" × E")/c の項の影響をゼロにする為にE"の値をゼロにする、というJ-PARCの実験方針は正しいという事になるのです。

それはつまり「原理的に(aµ − 1/(γ^2 − 1))*( β" × E")/c の項の影響を無くす」という事であります。

さてそれはまたコトバを変えますれば「J-PARCの実験結果とフェルミ研の実験結果に無視できない程の差が生じた」ならば「それは地球が静止系に対してドリフトしている」という事を暗に示している一つの実験事実となるのです。(もちろんこの主張は現状では当方の「とらぬタヌキの皮算用」であります。)

 

さてそれでここでは上記とはまた別の観点からフェルミ研での測定がうまく行っていない、という事を示します。(注1

引用する資料は

「Measurement of the anomalous precession frequency of the muon
in the Fermilab Muon g − 2 Experiment」: https://journals.aps.org/prd/pdf/10.1103/PhysRevD.103.072002 :というフェルミ研の最終レポートです。

その4ページ目に『The last term,which corresponds to the additional magnetic field component that the muon experiences in its rest frame from E(Eベクトル) ,vanishes for a muon with momentum p0 =3.094 GeV/c,or γ ∼ 29.3.』というマジック運動量を示す記述があります。(注2

速度vで動いているミュー粒子の運動量pは

p=γmv

ここでmはミュー粒子の静止質量で105.66Mev/C^2です。(注3

そうであればγvは

γv=P/m=(3.094 GeV/c)/(105.66Mev/C^2)

=29.28260458・・・

γ=1/sqrt(1-V^2)

従って

γv=v/sqrt(1-V^2)=29.28260458・・・=A

とすると、これは手計算で解けて

v=A/sqrt(1+A^2)=0.999417399384・・・

そうであればこの時にγは

γ=1/sqrt(1-V^2)=29.29967457034・・・

さてまあマジック運動量が3.094 GeV/cと4桁でしたからγも4ケタにすると

≒29.30=29.3

とレポートはしているのでした。

さてそれはつまり「フェルミ研ではマジック運動量が実現できてγは29.3となり従ってミュオン異常磁気モーメント測定時の静電四重極が作る収束電場の影響はなくせた」と主張しているのです。

ただしこの報告のどこにもデータから計算したγの値は出てきてはいません。

 

さてそれでその時のミュー粒子の寿命γτμはおおよそ

Muons stored at this momentum possess a boosted lifetime of γτμ ≈ 64.4 μs.

であるとこれも4ページに書いてあります。そうしてこの値のもっと正確な測定値は19ページのTABLE II.(The (blinded) fit results for the asymmetry-weighted event analysis for the Run-1d dataset. The fit used the model and parameters described in Eqs. (25)–(30) and Eq. (34).)にあり

γτμ (μs)= 64.4478± 0.0023

となっています。

さてそれでフェルミ研はγ=29.3で測定できた、と主張しています。

さてそうなりますと

64.4478=τμ(0)*29.3 である、と主張している事になります。

ちなみにここでτμ(0)は静止している時のミュー粒子の寿命です。

そうであれば

τμ(0)=2.199583617・・・(μs)

となります。

 

さてそれでここで別の実験から明らかになった「静止している時のミュー粒子の寿命」を持ってきます。

そうしてこの実験では実際にミュー粒子を静止させて崩壊までの寿命を測定しているのです。

「正のミューオン寿命の測定とフェルミ定数の百万分の1の精度での決定」

Measurement of the Positive Muon Lifetime and Determination of the Fermi
Constant to Part-per-Million Precision: https://arxiv.org/pdf/1010.0991.pdf :

2010年のこの実験によれば

VALUE(1.0*10^-6秒)  DOCUMENT ID  YEAR  TECN     CHARGE
2.1969803 ±0.0000022  MuLan   2010 MuLanコラボ  +

となっています。

 

さてこのMuLanコラボが行った測定は静止ミュー粒子の寿命についての現在の確定版といえます。(注4

それに対してフェルミ研での計算値は大きい方にずれています。

MuLanコラボ 2.1969803(μs)<2.19958(μs) フェルミ研

このずれが発生した原因は何でしょうか?

このずれを無くすにはどうすれば良いのでしょうか?

 

フェルミ研での静止ミュー粒子の寿命の計算は

64.4478=τμ(0)*29.3 という式を変形した

τμ(0)=64.4478/29.3=64.4478/γ から計算しています。

そうして実はτμ(0)は2.1969803(μs)だった。

そうであればγは実は

γ=64.4478/2.1969803=29.334719・・・

となるのです。(注5

これはフェルミ研が主張しているγ=29.3に対して0.118%だけ高い値になっています。

しかしながらフェルミ研は「γ=29.3だから静電四重極がつくる電場の影響はキャンセルできている」と主張して

aμ(FNAL)=116 592 040(54)×10^−11

という数字を出してきているのです。

 

さてこのフェルミ研の出した数値は信頼性があるのでしょうか?

当方の見る所フェルミ研の実験は「γが想定より実際は0.118%だけ高い方にずれていた」のです。

さてそうであれば「ミュオン異常磁気モーメントの精密測定実験としてはフェルミ研の実験は致命的なミスを犯している」と言えます。

 

注1:同様の理由でBNLの実験もうまく行っていない、という事が示せるのですがそれはまた後述となります。

注2:和訳では「最後の項は、ミュオンの慣性系からは電場E から追加の磁場成分を経験することを示していますが、運動量 p0 = 3.094 GeV/c、または γ ∼ 29.3 のミュオンでは(電場の影響は)消えます。」となります。

注3:「ミュー粒子」: https://archive.md/ZJnZz :から引用。

『静止質量は105.66MeV/C2(電子の約200倍)』

注4:MuLanコラボが行った実験詳細についてはページを改めて「正のミューオン寿命の精密測定の歴史的経緯」にて記述する事と致します。

注5:下記に示すBNLの数値

γ=29.314 その時のミュー粒子の寿命τμ=64.4084(μs)

を信用するならば、フェルミ研のミュー粒子の寿命τμ=64.4478(μs)から計算されるγの値は

γ=29.331932・・・

となり本文での計算値

γ=29.334719・・・

と整合性がとれる値になっています。

つまりは

BNL     γ=29.314~29.317 (aμ(Expt)=11659208.0(5.4)(3.3)×10^−10)

フェルミ研  γ=29.332~29.335  (aμ(FNAL)=116592040(54)×10^−11) 

という事になります。

こうして「本来はBNLもフェルミ研もγ=29.30で測定を行う必要があったのですが、その条件をいずれの実験の場合も満たしてはいなかった」という事が分かります。

 

追記:フェルミ研のレポートではγの値が明示されていませんが、BNLの実験ではγの値が計算され、示されています。

・「ブルックヘブン国立研究所のミューオン一時リングでのミューオンの寿命の正確な測定」: https://archive.md/RJoGS :

出版物: 博士号論文  公開日: 2006年 概要部分の日本語訳

原典は: https://www.sas.upenn.edu/~tqian/thesis.pdf :

γの詳細は128ページ表6.7に

その時のミュー粒子の寿命の計算値は144ページ表7.2にあります。

サマリによれば

γ=29.314 その時のミュー粒子の寿命τμ=64.4084(μs) でτμ(0)=2.197301(μs)

しかしこの数値もまたMuLanコラボ 2.1969803(μs)を基準にすれば

γ=64.4084/2.1969803=29.3167854・・・

≒29.3168 となるのでした。

これはBNL計算のγよりも0.01%程高いものになっています。

しかしγだけをみるならばBNLの計算値はよほどフェルミ研よりも実態に近かったと言えそうです。

しかしながら魔法運動量のγ=29.3に対しては

29.3168/29.3=1.000573・・・と

0.057%ほど高い方にずれています。

さてこうして分かる事はBNL~フェルミ研の実験のいずれもが魔法運動量のγ=29.3を正確には実現できずに実験を行っていた、という事です。

従いまして「魔法運動量の縛りがないJ-PARCの実験結果がとても重要になってくる」という事になるのでした。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/Cr5De