特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

その1・正のミューオン寿命の精密測定の歴史的経緯

2024-04-27 03:39:38 | 日記

「ブルックヘブン国立研究所ミュオン蓄積リングでのミュオン寿命の正確な測定」:A Precise Measurement of Muon Lifetime at Brookhaven National Laboratory Muon Storage Ring」2006年/8月: https://www.sas.upenn.edu/~tqian/thesis.pdf :のP21からの引用から始めましょう。(注1

『1.2 ミュオン寿命測定 – 歴史と困難

1937年、宇宙線中でミューオンが発見され、それは湯川がパイ(π)メソンの存在を仮定した直後でした。ミューオンの質量は、電子の約200倍であり、パイメソンと類似しています。その後、ミューオンが弱い相互作用を介して崩壊することがわかりました。それ以来、ミューオンの崩壊とその生成物の測定は、電弱相互作用の研究において重要な役割を果たしています。

この研究は、ミューオンが加速器で人工的に生成されるようになったことで大幅に向上しました。高強度のミューオンビームは、スイスのポール・シェラー研究所(PSI)、カナダのTRIUMF、およびイングランドのラザフォード・アプルトン研究所(RAL)で利用可能です。すべてのミューオン寿命実験は、Particle Data Book [3] にリストされているものよりも20年以上前に実施されたことに留意する価値があります。寿命の世界平均値は、2.19703±0.00004μs です。図1.1は、正のミューオン粒子と負のミューオン粒子の過去の寿命測定を示しています。それらの値と参照文書は表1.1にリストされており、それらの実験は次のセクションで議論されます。

1.2.1 正帯電ミューオンの寿命測定
停止したミューオンの最後の正帯電ミューオンの寿命測定は、1970年代後半から1980年代初頭にかけて行われました。1つの研究グループは、バンクーバーのTri-University Meson Facility(TRIUMF)で働き、もう1つのグループはフランスのSaclayリニアアクセラレータで働きました。2つの実験で使用された技術はかなり類似していました。パルス状のπ+ビームが標的で停止し、崩壊した陽電子が検出されました。参考文献[8]では、140 MeV/cのパルス状π+ビームが硫黄標的で停止されましたが、これは他の材料よりもミューオンの偏極をより速く失わせることが知られています。停止したパイ粒子が標的内で偏極していないミューオン源を提供しました。ビームの約5%は、パイ粒子の飛行中に偏極した崩壊ミューオンで構成されていました。崩壊陽電子は、ビーム軸に沿って標的を囲む6つのプラスチックシンチレーターテレスコープによって検出されました。これらのテレスコープは、75%の立体角をカバーしています。数年間で合計125.4億のイベント(陽電子)が取得されました。そのうちの約16%のイベントは液体水素標的で取得されましたが、これについては1.2.2節で議論されます。測定された陽電子は指数分布で記述され、
R(t)=R(0) [exp(−λ t)+A⋅r exp(−2A t)+B]となります。

ここで、レートに依存した項 r が含まれ、物理的なバックグラウンド B は主に宇宙線から来ました。
B=B0+B1 exp(−t/T) ここで、T=160 ps 最終的なレート効果への補正は、高レートから低レートまでの推定から得られました。実験からの最終的なミューオン寿命は、
τμ+ =2.197078±0.073 nsで、表1.1にリストされています。最終的な誤差には、統計誤差とシステマティック誤差の両方が含まれています。偏極効果は、システマティック誤差に0.06 ns の上限を寄与しました。

TRIUMFの他のグループは、同じ年(1984年)に彼らの正帯電ミューオン寿命実験結果を発表しました。エネルギーが150 MeV/cから170 MeV/cの間の正パイオンビームが約10 mの長さのチャネルを通過し、水タンクに入りました。ビームは主にパイオンで構成され、少量のミューオンと電子が含まれていました。ビームは2-5 nsのバンチでした。粒子は、長いチャネル内の時間差で識別されました。水タンクの手前にある2つのシンチレーションカウンターが入射ビーム粒子を検出しました。約5%のパイオンが核反応を介して除去された一方で、残りの95%の入射 π+ が水中で停止し、μ+ に崩壊しました。水中を非常に短い距離移動した後、娘の μ+ が停止し、e+ に崩壊しました。これらの崩壊 e+ は、ステンレス鋼シリンダー水槽内のチェレンコフ放射によって検出されました。シリンダーの両側に設置された直径12.7 cm の光電倍増管2本が、放射からの光を収集しました。2つの PMT からの合計信号が、はるかに小さい信号を持つ μ+ と π+ から e+ を区別するために使用されました。崩壊イベントの時間情報は、入射シンチレーションカウンターからの開始時間とセレンコフ信号からの停止時間の間で20 μs の時間間隔で記録されました。中程度のエネルギー範囲の時間ヒストグラムは、崩壊関数形
R(t)=N exp(−t/τ)+B でフィットされました。ここで、B はバックグラウンド項でした。フィットの開始時間はパイオンの寿命の11倍以上であったため、ミューオン集団の初期成長の記述はフィッティング関数で必要ありませんでした。最終的な結果は
τμ+ =2196.95±0.06 ns で、表にリストされています。』

『VALUE(1.0*10^-6秒)  DOCUMENT ID  YEAR  TECN  CHARGE
2.197078 ± 0.000073   BARDIN     1984  CNTR  +
2.197025 ± 0.000155   BARDIN     1984  CNTR  -
2.19695 ± 0.00006    GIOVANETTI   1984  CNTR  +
2.19711 ± 0.00008    BALANDIN   1974  CNTR  +
2.1973 ± 0.0003     DUCLOS     1973  CNTR  +
表1.1:Particle Data Groupによるミューオン寿命測定の歴史的記録、2004年 [3]。』

ここにセルンが行った結果を追加します。

「円軌道上の正および負のミュオンの相対論的時間遅延の測定」1977 年 7 月 28 日: https://www-nature-com.translate.goog/articles/268301a0?error=cookies_not_supported&code=8868aa4e-8ae3-40d0-a956-febb2d8ba851&_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc :

『正および負の相対論的ミュオン ( γ = 29.33)の両方の寿命がCERN ミューオン保存リングで測定され、結果は τ + = 64.419 (58) μs、τ − = 64.368 (29) μsでした。』

ここから静止時のμ粒子の寿命が逆算され結果は

τμ− = 2.1948(10) μs

さらにこの値から逆算されるτμ+の値は

τμ+=2.1965 μs となります。(注2

そうして上記ブルックヘブン2006年/8月の報告数値は

τμ+=2 197.301 ± 0.200 ns (89 ppm)

τμ−=2 197.655 ± 0.152 ns (69 ppm)

となっています。(注3

さてセルンもブルックヘブンもストレージリング内を円運動しているμ粒子の崩壊の様子をモニターする事で光速に近い速度で運動しているμ粒子の寿命を測定しました。

それから円運動の速度を出して相対論の時間遅れの式から「止まっている時のミュー粒子の寿命を逆算した」のでした。

そうしてもちろんセルンの実験よりもブルックヘブンの実験の方が精度及び解析手法に於いて改善が図られた事と推察できます。

そうしてブルックヘブンの実験の前のτμ+の世界平均は2.19703±0.00004μs でした。

それに対してブルックヘブンは「それは精度が悪い。精度が良いブルックヘブンの実験ではτμ+=2 197.301 ± 0.200 ns (89 ppm)である。」と2006年/8月に主張したのです。

さてこの主張は正しかったのでしょうか?

ちなみにこの数字はDUCLOS( 1973)と同じものになっています。

 

注1:論文の冒頭部分はここからコピーできます。: https://www.proquest.com/docview/305306042 :

注2:上記ブルックヘブンのレポートのP167にセルンの結果を加えた図8.1があります。その図の中でg-2と記された点がブルックヘブンの得た「静止ミュオンの寿命」となります。

それを見るとよく分かるのですが、セルンの実験からブルックヘブンの実験では相当に精度の向上が図られたのでした。

注3:ブルックヘブンの概要から引用

『ブルックヘブン国立研究所で、正のミューオンと負のミューオンの寿命が同じ装置、すなわちg-2蓄積リングで測定されました。実験は、2000年および2001年に正のミューオンと負のミューオンに対してそれぞれ行われました。ミューオンの静止状態での寿命を測定するために、主に2つの主要な解析が行われました:ミューオンの減衰時間スペクトルから拡張された寿命を抽出すること、およびサイクロトロン周波数とミューオンの運動量分布から相対論的拡大因子を取得すること。

逆比率法と呼ばれる新しい手法が開発され、ミューオンの時間スペクトルの減衰定数を適合させました。得られた拡張された寿命はτμ+= 64 408.4 ± 2.3 ns(stat) ± 5.2 ns(syst)および、τμ−= 64 421.0 ± 2.8 ns(stat) ± 3.3 ns(syst)です。ミューオンの損失、ゲインの安定性、およびパイルアップイベントという3つの主要なシステマティックエラーが存在します。引用注:もちろんそれらの系統的な誤差要因は修正された上で寿命計算は行われています。)ミューオンの平均運動量は、注入直後の時間におけるミューオンビームの高速回転構造を分析することによって得られました。運動量分布を抽出するためのシミュレーションモデルが開発されました。

この研究におけるτμ+と静止状態で測定されたτoから比較すると、(τo-τ/γ)/τo = (12.4 ± 9.3) x 10^-5となります。アインシュタインの時間拡大因子は、γ = 29.314(速度がβ = 0.9994cに対応)の95%信頼範囲で、実験と一致します。その範囲は(-6.2から31.0) x 10^- 5です。』

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/9M6J7

 

 


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