特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

その1・電子の異常磁気モーメントの精密測定

2024-05-13 01:13:27 | 日記

電子の異常磁気モーメント ae についてはその測定のやり方がミュオンの場合と異なり「静磁場の中に電子を打ち込んで回転させる」と言うようなやり方をとってはいません。

測定対象となっている電子は静磁場の中では「古典的な回転運動はしておらず静止しているのです。

にもかかわらず電子はサイクロトロン周波数を持っていて、なおかつスピンも回転してる、とされています。

さてこれはとても奇妙な様に聞こえます。

それでそのあたりの状況は「電子g 因子の“anomaly”」: https://www.jahep.org/hepnews/2021/40-3-3-g.pdf :で説明されていますので、そこから引用します。

『先の節で Penning trap 中での運動は図 2 のようになると言ったが,cyclotron 振動に関してはこの古典的な軌道描像は実は間違いである。というのも,cyclotron振動周波数は νc = 150 GHz だが,希釈冷凍機によりPenning trap は T = 50 mK 程度に冷却されるため,熱平衡での平均量子数は
n¯c =[exp ( ¯hωc/kBT)-1]^-1
= 1.2 × 10^−32 ≈ 0
と,ほぼ完全に量子基底状態にいる。そのため古典的な軌跡ではなく量子的な準位での描像が必要になる。』

ここで図2の電子軌道イラストについては上記PDFにて確認されたい。

そのイラストで上下に波なみ運動して大きな円運動で表されているのは「サイクロトロン運動」ではなくて「マグネトロン運動」とされ、そこで小さな円が描かれているのが「サイクロトロン運動」です。

そうであれば「静磁場の中に導入された時に電子が持っていた運動エネルギーで静磁場内で回転運動しているのはこのイラストではマグネトロン運動」となるのです。

ちなみにこの「マグネトロン運動」については『磁場と残留電場によるmagnetron 振動 νm である。』と説明されています。

そうしてまた測定に使った装置は低温に保たれている為に「電子は磁場内でサイクロトロン振動数で回転運動している」のではなくで『古典的な軌跡ではなく量子的な準位での描像が必要になる。』と説明されています。

さて「これは一体何を言っているのか?」といいますれば「この時の電子の状態は水素原子で陽子のまわりを回っている電子と同じような量子状態にある」と言っているのです。

そうしてそのときの磁場にトラップされた電子の回転運動に相当する周波数をここではサイクロトロン振動数と表現しているのです。

 

さて水素原子について「陽子のまわりを電子がまわっている」という古典的な描像ではその時の電子の有様を十分には記述できていない、という事は現在では明らかな事であります。

そうしてまたPenning trapにトラップされた電子についてもこの水素原子の様に「陽子にトラップされた電子の様である」とここでは言っています。

ちなみにこの状態を指して「g-2実験  量子電磁力学の精密テスト と 標準理論のかなた」: https://slidesplayer.net/slide/15404475/#google_vignette :のP10~12:電子の歴史:についての記述の中で

『1976年  Dehmelt (Washington) ペニングトラップを用いてより正確な測定を行った。4Kに冷やしたペニングトラップに1個の電子を閉じ込めることに成功した。(注2)』の11ページに

『電子状態はあたかも電子が原子に束縛されているかのようにふるまう。それをデメルトはgeoniumuと名づけた』とあります。

そうしてこのジオニウム原子については「ういき:ペニングトラップ」: https://archive.md/iI5wD :にて「ジオニウム原子」として

『ジオニウム原子は、残りの地球に「結合」されているペニングトラップに蓄積された単一の電子またはイオンで疑似原子系であり、そのため「ジオニウム」という用語が付けられています。】この名前はHG Dehmeltによって考案されました。[9]

一般的なケースでは、トラップされたシステムは 1 つの粒子またはイオンのみで構成されます。このような量子系は、水素原子と同様に、1つの粒子の量子の状態によって決まります。という 2 つの粒子で構成されていますが、原子核に対する電子の運動は外部場における 1 つの粒子に相当します。・・・』と説明されています。

 

さてそれでここでのポイントは「電子の異常磁気モーメントの精密測定実験では電子は外部磁場によって古典的なサイクロトロン回転運動はしていない」という所になります。

そうではなくて「水素原子の電子の様に磁場に捉えられてその時の電子は古典的な軌道イメージで説明するならば『回転運動している』のではなくて『静止している』」のです。

 

そうであればこの事はミュオンの異常磁気モーメントの精密測定実験とは対照的な事です。

ミュオンは実際に磁場内でサイクロトロン周波数で回転運動しており、それを利用して異常磁気モーメントの測定を行いました。

しかしながら「ミュオンを回転運動させなくてはならなった」という理由の為に、それはつまり「ミュオンは地球に対して運動していた」という事ですが、地球が静止系に対してドリフトしている影響を異常磁気モーメントの測定の時にミュオンは受ける事になるのです。

しかしながら電子の異常磁気モーメントの精密測定実験では「地球に対して電子は静止状態で測定している」のです。

そうであればこの状況は「MuLanコラボがミュオンの寿命を測定した時と同じ」と言えます。

従って「MuLanコラボの実験が静止系での実験になっていた」のと同じ理由で「電子の異常磁気モーメントの測定実験は静止系での測定実験になっている」という事が出来ます。

 

以上の事は「電子の異常磁気モーメントの測定実験はミュオンの異常磁気モーメントの測定実験に対して本当に独立した検証実験になっている」という事を示しています。

つまりは「J-PARCの実験結果がフェルミ研での実験結果を支持しない」となった時に「それではどちらの実験を信用したら良いのか?」という話になります。

それでその場合に「電子の異常磁気モーメントの測定実験がその答えを与える事になるであろう」とは当方の読みであります。

あるいは「J-PARCの実験結果が出る前に電子の方が先に結果を出す」可能性すらあります。

さてそうであれば次のページでは電子の異常磁気モーメントの測定実験の現状と展望を見ておく事と致しましょう。

 

追記:ペニングトラップを用いた電子のトラップについての状況については以下の様なイラストが参考になるかと思われます。ご参考までに。

: https://slidesplayer.net/slide/11232933/#google_vignette :の8ページ あるいは

: https://slideshowjp.com/doc/73350/ :の5ページ

追記の2:レプトンの異常磁気モーメントの検証については電子の方がその測定はミュオンに比べてより高精度である必要があるものの、その条件を満たしたならば「理論計算と実測値との突合せ」と言う面では「ほぼ理想的である」という事が出来ます。

その理由は2つあります。

一つ目は「電子の方が異常磁気モーメントの理論計算が明確に出来る」という事です。そうしてこの理論計算は「静止系がベース」になっています。

二つ目は「電子の測定は静止系での測定になっている」という事です。

そうであれば理論と実測の突合せが完璧に行えるのです。

他方でミュオンの場合は「理論計算が難しい」と言う点に加えて「実験が静止条件ではできない」という弱点を持っています。

そうであれば「レプトンの異常磁気モーメントのアノマリーの検出」という意味では「電子で行う」のがベストであって、その次が「J-PARCの実験」であり、あまりお勧めできないのが結果的には「BNL~フェルミ研での実験」という事になってしまいます。

とはいえ「レプトンの異常磁気モーメントのアノマリーの検出」というテーマを長年に渡ってリードしてきたセルンから始まってBNL~フェルミ研に引き継がれてきている関係者各位の熱意と努力には敬意を表す必要があります。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/KGtF7

 


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