特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

9-13・ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-04-06 02:35:42 | 日記

1,J-PARC実験の狙い

J-PARC実験の狙いは次の記事によく表れています。

「新物理に挑む」: https://g-2.kek.jp/new-physics/ : https://archive.md/hnbNJ :

要するに『J-PARCの実験の意義と独自性
理論計算と実験のズレの理解を目指して世界中で研究が行われています。

理論側では、より標準理論の予測を正確にするために、難解な量子補正の高精度の計算の研究が行われています。

実験側で重要となるのは、これまでの測定結果に予期せぬ系統誤差が含まれていないのか注1)、の検証になります。その検証を目指してJ-PARCにおいて全く新しいミュオンg-2測定実験が進行しています。』という訳です。

そうして『このプロジェクトではこれまでの、そして現行のg-2測定とは異なる全く新しい方法でのg-2測定を目指しています。

異なる測定手法でも同じ結果が得られれば、それは実験結果の信頼性をより確かなものにし、新物理が存在しているという可能性が一層強まります。ミュオンg-2を議論するために欠かせない実験になっています。

この実験の特徴は、数meV程度まで冷えたミュオンを用いて実験を行うことで、高品質なミュオンビームを実現し、現行の手法に比べて圧倒的に系統誤差が少ない実験が行える点にあります。

・・・これまでにない新しい手法を用いたこの実験は非常に挑戦的ですが、世界中から注目を集めています。』と結んでいます。

 

BNLの実験、フェルミ研の実験ではいずれも「あまり質の良いミュオンビームを使っていなかった」のです。

そのために「縦方向にビームを収束させるための四重極電場が必要」でした。

そうしてそのおつりが「マジック運動量指定での実験」になっていました。

それに対してJ-PARCの実験では「高品質なミュオンビームを実現できた」ので「縦方向にビームを収束させるための四重極電場が不要」となり、したがって「マジック運動量を気にする事なく」測定が行えるという事になっています。(注2

 

2,J-PARC「ミューオンg − 2/EDM実験」の設備概要

上記資料「新物理に挑む」および: https://archive.md/MmDX0 :で紹介されているイラスト、そうしてより詳細には「ミューオンg − 2/EDM実験」: https://www.jahep.org/hepnews/2012/12-3-5-g-2-Mibe.pdf :を参照願います。

特にストレージリングに導入されるミュー粒子の軌道については最後の資料のP6の図6にて示されています。

 

3,「J-PARCのg-2/EDM実験」の結果についての予想

「J-PARCのg-2/EDM実験」の結果については以下の5つのケースが想定できます。

まずは現状フェルミ研の実験と理論計算の間のギャップは+5σです。

で「J-PARCのg-2/EDM実験」結果と理論計算とのギャップについての想定は

1,+10σ -->ギャップがさらに増えるーー>混乱

2,+7.5σ -->ギャップがさらに増えるーー>混乱

3,+5σ フェルミ研の結果を支持 -->期待通り!(注3

4,+2.5σ 有意差が消える -->混乱

5,+0σ 理論と一致 -->フェルミ研は何を間違えた??-->混乱

 

考えられるシナリオ詳細

1,と2,であるとすると「混乱がますます大きくなる」という事になる。しかしながらそのようになる確率は低いだろう、とは個人的な読みです。

3、フェルミ研の結果と同じ結果を得る。-->新しい物理のはじまり(期待通りで皆喜ぶ)

4、フェルミ研の結果よりも理論計算に近い結果(中間くらい)をえる。-->実験と理論計算の差分の有意差がきえるーー>何が正しいのかわからなくなるーー>混乱ーー>5-2に行く

5、ほぼ理論計算に近い結果をえる。ーー>2つの実験の有意差が3σを超える程度になるーー>2つの実験に生じている有意差の方が問題になるーー>新たなテンションーー>なぜそんなに差が生じたのか?を探求する、というよりは「J-PARCのg-2/EDM実験」を正しいと認識するか?されるか?-->また新たなミュー粒子実験が考え出される?

5-2、電子のaeの測定精度向上での検証に期待が移る。

5-3、「J-PARCのg-2/EDM実験」を正しいと認識した場合は「フェルミ研の実験がうまく行かなかった理由の探究」が始まるーー>「客観的に存在する静止系の探求が始まる?」

それともフェルミ研とJ-PARCの差は中性子の寿命の様に「百年のなぞ」としてあつかわれる事になるのか?

 

当然皆さんは3の結果を期待しています。

そうして当方の読みは4~5ですね。

「5だ」と言い切れない理由は「J-PARCの実験でもまだ客観的に存在する静止系の影響は完全には排除できないであろう」という、これもまた個人的な読みにあります。(注4

 

4,当方の結論

いずれにいたしましても大方の予想に反して「ミュオン異常磁気モーメント測定では新物理は検出されない」が当方の結論となります。(注5

 

注1:やはり何といっても従来の手法は「マジック運動量を用いて収束電場の影響を打ち消した・・・つもり」という所が一番の弱点になっていると思われます。ー->この内容は下記の追記に続きます。

注2:BNL/フェルミラボとJ-PARCの実験状況の違い

  実験         保管条件               ビーム
BNL/フェルミラボ   R  = 7.1 m ストレージリング、B  = 1.45 T   3.1GeV/c
J-PARC       R  = 0.35 m ストレージ リング、B  = 3.0 T    0.3GeV/c

「Muon g  − 2: レビュー」: https://archive.md/r6LZo :より引用

測定しているωaの違いについては「muon g-2 の理論」: https://indico.ipmu.jp/event/164/contributions/2417/attachments/2070/2499/dnomura-slides.pdf :のP54を参照の事。

BNL/フェルミラボとJ-PARCでの測定している対象の違いが判ります。

注3:以下に示すように、いろいろな方がこの3番目が実現するだろう、という事を期待しておられます。

「ミューオン異常磁気モーメントから見る素粒子理論の進展」: https://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/77-208_overview%20articles2.pdf :

「ミュオン異常磁気能率の精密測定による新物理法則の探索」: https://www.jsps.go.jp/file/storage/grants/j-grantsinaid/12_kiban/ichiran_27/j-data/h27_j3742_saito.pdf :

「「米フェルミ国立加速器研究所などのチームが、素粒子「ミューオン」が素粒子物理学の基本である「標準理論」では説明不可能な性質を示したことを発表した」と最近のニュースがつたえていますが、一体何を?」: https://archive.md/ZXps2 :

「素粒子物理学が変わる? 標準理論に反する粒子の挙動」: https://archive.md/Y1sMS :

「ミュオン g-2 が最新の測定で倍増、新しい物理学を求めて未知の領域を探索」: https://archive.md/petRQ :

「未知の粒子の証拠を'最後の望み' の実験で確認」: https://archive.md/QgT8b :

「科学者たちは、自然の第 5 の力の発見に近づいています。それは本当に素粒子なのでしょうか?」: https://archive.md/Ul4VV :

「ミュオン異常磁気モーメント測定」: https://archive.md/1nDfP :

注4:とは言いながら「J-PARCの実験は客観的に存在している静止系に対して運動している地球上での実験である」という点を除けば「ほぼ理想的な実験になっている」と言えそうです。

それに対して理論計算は「客観的に存在している静止系の上でJ-PARCの実験を行った場合の結果を示している」のであります。

そうであれば「J-PARCの実験が理論計算と一致しない」となった場合は「地球上での実験を記述している様にみえるトーマスBMT方程式には修正が必要となる」という事になります。

そうしてもちろんその修正には「地球が静止系に対して0.001C程度でドリフトしている」という情報が入る事になります。

注5:今後のタイムスケジュール

・Q:2025年までにハドロン効果含めて理論値の統一見解を整えていくことになるのか?

 A:ホワイトペーパーには考え得る全ての効果は含まれています。格子QCD、スーパーコンピューターを用いた手法は、これをさらに検証しようという趣旨で始まったことですが、最初に出てきた結果は理論予想とはずれたところに値が現れました。他のチームが同じところに計算結果を出すのか、ホワイトペーパーに近い結果を出すのか注目されており、2025年には決着がついていると予想しています。Belle II実験でも、2024から2025年の間に、従来の理論予想と新しい結果のどちらが正しいか言えると考えています。(三部)

↑三部さんによれば「2025年が次のマイルストーンである」とのこと。

そうして「2028年からJ-PARCの実験ではデータが取られ始める予定」である。

そうであれば「実験によってこのテーマに一応の白黒が付くのは2028年以降」という事になります。

また「電子の異常磁気モーメント測定」でも多分その頃には何か結果を出している可能性があります。

さあそうなりますと「2028年は新しい物理が始まる歴史的なタイミングとなる」のかどうか?

本当に興味が尽きない所であります。

ちなみに「全く先が見えてこない地上でのダークマター検出実験」と比較すれば「こちらのテーマによる『新物理の探索』についてはよほど先が読める状況にある」と言えますね。

 

追記:「新物理発見に迫るミューオンg-2研究の最新情報」2023年8月11日: https://www2.kek.jp/ipns/ja/news/4860/ : https://archive.md/7M7AG :

『最後に、今年7月までMuon g-2実験共同代表を務めていたシニア研究者のBrendan Casey氏(FNAL)から今回の実験結果(注:フェルミ研の最終報告)へのコメント、J-PARCでのミューオンg-2/EDM実験への期待を込めたメッセージをもらいましたので、ここに紹介します。
Brendan Casey氏は9月13日に素粒子原子核研究所の招聘セミナーの講師として登壇していただく予定です。

■今回の実験結果(注:フェルミ研の最終報告)へのコメント
“This result comes close to making the final statement about what we can do with a large storage ring. We’ve almost eliminated all the systematic uncertainties we were worried about.”
和訳:今回の結果は、(ミューオンの磁力を測定する)大型蓄積リングを使用して何ができるか、最終的な見解に近づいてきたことを意味します。私たちは心配していたほぼすべての系統的な不確かさを取り除くことができました。

■J-PARCで行うg-2/EDM実験へのメッセージ
“The one problem with our result is it shares many fundamental assumptions with the Brookhaven experiment because it uses the same techniques.  The J-PARC g-2/EDM experiment is very exciting because it will be the first time in decades that a collaboration tries to make this measurement with new techniques.”
和訳:我々の結果の問題点は、ブルックヘブン国立研究所で行ってきた実験と同じ手法を使っているため、多くの基本的な仮定や考え方がブルックヘブンでの実験と共通していることです。J-PARCのg-2/EDM実験は、この数十年で初めて新しい手法でこの測定を試みる共同実験であり、非常にエキサイティングなものです。

ミューオンg-2/EDM実験

世界10カ国から約110人の研究者が携わり、J-PARCでミューオンのg-2およびEDMの超精密測定を行う実験です。g-2は先行実験によって理論予想値からの乖離が示唆されており、J-PARCでこれを検証します。世界初のミューオンの冷却・加速装置、従来と比べて20分の1の大きさの蓄積磁石を用いて、1千万分の1の精度でg-2を測定することを目指しています。』

追記の2:J-PARCの実験結果が理論計算と一致しない場合は今度はトーマスBMT方程式に疑いの目が向く事になります。

その結果はつまりは「トーマスBMT方程式では地上で行われたミュオン異常磁気モーメント測定の実験を記述する事はできない」という事を示しているからです。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/JPnpA