1,「横ドップラー効果の測定で赤方偏移が観測された」という事実そのものが「横ドップラー効果の測定で青方偏移が観測される条件がある事を示している」という事について。
それは「横ドップラー効果の測定で赤方偏移が観測された」という状況を「時間反転して再解釈すること」で明らかになりました。
それでそのような認識はこれまでやってきた「光学時計による単振動の時間遅れの測定」の報告を吟味し解読した事に触発されて気が付いたものです。
さて横ドップラー効果を使った「時間の遅れの測定」では「原子あるいは原子核が出す光を基準光源として使う事」になります。
その理由は「周波数がわかっている光を使わないと時間遅れの測定ができないから」ですね。
さてそれで歴史的には「電離させた水素ガスが発する基準光の周波数(=波長)が時間遅れが発生する事で基準光の値から変化する事を使ったもの」が最初に登場しました。
そうしてこれはアインシュタインが「運動しているものは時間が遅れる」という事を検証する為に提案した実験でもありました。
1-1、歴史的な経緯としては一般には
『HE Ives と GR Stilwell、「移動原子時計の速度に関する実験的研究」、J. Opt.社会午前。28ページ 215–226 (1938)。JOSA 31ページ 369–374 (1941)。
この古典的な実験では、移動する原子の横方向のドップラー効果を測定しました。』(注1)
とされていますが、この実験は「横ドップラーの実験」ではなく「W縦ドップラーの実験である」という事はすでに説明した通りです。
従って本来の意味での横ドップラー効果で確認できる「時間の遅れの測定」は
『ハッセルカンプら、Z. Physik A289 (1989)、151ページ。
実験室では実際に90度の測定値が得られます。SRと数パーセントの精度で一致します。』(注1)になります。
それで「ハッセルカンプが行った横ドップラー効果の測定」の状況は例えば: https://archive.md/wq23K :の「受信機はソースが最も近い点にあると見なします」にある図3に示されている様なものです。
まずは
・基準光源が左から右へ速度Vで移動しています。
・観測者は静止していて90度真上を見ています。
・その観測者の真上に基準光源が達したときに出した光が光源の真下にある観測者に届きます。
・そうしたときに観測者は基準光源の本来の色、それは黄色で示されているのですが、その光を赤色と認識します。
・つまり「光は赤方偏移した事になる」のです。
・それで注意しなくてはならないことは「観測者が静止していて光源が観測者に対して移動している」ので「光源側の時間が遅れる」、その時に「光源と同じ速度で移動している観測者にはその光源が出す光の色は黄色のまま」なのですが「静止している観測者にとってはその光の色は赤色になる」というところにあります。
そのことはつまり「光源側の観測者からみれば静止系の観測者の時間は進んでいる」という事になります。
それで図3では空間を進む光の色は黄色で描かれていますが、それはあくまで光源側の観測者の認識です。
静止系から見るならば「光源から空間に出た光の色はすでに赤色になっている」という所がポイントです。
さてそれで、ここで主張したい内容は「この物理現象は時間に対して反転可能である」という事です。(注2)
つまり「ハッセルカンプが行った横ドップラー効果の測定の状況」は「そのまま時間反転して考えても良い」ということになります。
さてそうなりますと図3で時間反転した場合は次のような説明になります。
・「光源」が右から左に移動しています。
・その「光源」が「静止している観測者の真上にくる少し前」に「静止している観測者から赤い光が真上に発射されます。」
・この「赤い光」は「光源」が観測者の真上に来た時に「光源」に吸収されます。
・この時に注意すべきは「時間反転によって光が進む方向は逆転する」のですが「光の色(=赤色)そのものは時間反転しても変わらない」という所にあります。
さてそれで通常は「光を出すほう」を「光源」と呼びます。
そうして「光を吸収する側」を「観測者」と呼びます。
そうすると上記の説明はこの置き換えによって次のようになります。
・「観測者」が右から左に移動しています。
・その「観測者」が「静止している光源の真上にくる少し前」に「静止している光源から赤い光が真上に発射されます。」
・この「赤い光」は「観測者」が光源の真上に来た時に「観測者」に吸収されます。
さてこの時に「赤い光を吸収した観測者」とは何でしょうか?
「ハッセルカンプが行った実験」に戻るならば「基底状態にある水素原子」ということになります。
その水素原子が「赤い光を吸収」して「励起状態に遷移した」のです。
そうしてこの水素原子は本来は「黄色の光を吸収する事で励起状態に遷移する」のですが「移動している水素原子は空間を伝わってくる赤色の光を『これは黄色の光である』と認識し、その光を吸収して励起状態に遷移した」のです。
さてなぜ水素原子は「赤色の光を『黄色である』」と認識したのでしょうか?
それは特殊相対論が言うように「静止系に対して移動している水素原子は時間が遅れていたから」ですね。
そうであれば「移動している水素原子」にとっては「空間を伝わってくる赤色の光は黄色に見えた」のでした。
これはつまり「観測者が移動している場合の横ドップラー効果では観測者は青方偏移を観測する」という事を示しています。
以上より横ドップラー効果の測定において「光源が移動している場合に赤方偏移を観測した」という実験事実の存在そのものが「観測者が移動している場合の横ドップラー効果では青方偏移を観測する」という事を保証しているのです。(Q.E.D)
さて、以上のような「時間反転した横ドップラー効果の測定」についての認識が「光学時計による単振動の時間遅れの測定の報告」がなされる前に指摘できていれば「さすがである」となるのですが、「実験事実が先行した」のですから「まあ悪くはないね」程度のものとなりますか。
注1:「4. 時間遅延と横ドップラー効果のテスト」: https://math-ucr-edu.translate.goog/home/baez/physics/Relativity/SR/experiments.html?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc#Recent_Tests :
注2:物理現象でもエントロピーがらみで「時間反転が必ず起きる」とは限らない現象もあります。
しかしながら「原子による光の放出と吸収の過程」については「時間反転が可能である」=「可逆反応である」として良いかと思われます。
追記:以上の考察によって「W横ドップラーの測定では何が観測されるのか」が明確になりました。
それはつまり「W横ドップラーの測定では一方が赤方偏移を観測した」のであれば「他方は必ず青方偏移を観測する」が答えになります。
そうしてそれは「時間の遅れはお互い様」が「我々の宇宙では成立していない事」をしめしています。
その代わりに成立している法則は「時間の遅れは一方的」です。
それはまた「客観的な存在としての静止系の証明になっている」という事になります。(Q.E.D)
おっと、以上の結論についてはすでに: 2-26・時間遅れの測定:光学原子時計を使った実験の3 :で到達していたものでした。
さてこのシリーズ「静止系が客観的な存在だと何が困るのか?」の第2章で取り上げたテーマ「W横ドップラーテスト」の結着について、それについては「その実験はむつかしくてなかなか実行できないだろう」と想定されていたものでしたが「実はすでに実行されていた」、そうしてその結論は「W横ドップラーの測定では一方が赤方偏移を観測した」のであれば「他方は必ず青方偏移を観測する」が答えでありました。
さてこの結末(=W横ドップラーテストの結果を示す実験結果の存在)は当初は予想だにしていないものでしたが当方にとっては「うれしい誤算」となったのであります。
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