アインシュタインが「同時と言う概念は同じ慣性系の中でしか通用しない」と気が付いたのが特殊相対論の始まりでした。
それは今では「同時性の相対性」というコトバで言われています。(注1)
さてこの時にアインシュタインが見つけたのが「棒の時間」でした。(注2)
しかしながらアインシュタインはそれに名前を付ける事はしませんでした。
その必要がアインシュタインにはなかった様です。
さてその「棒の時間」ですがそれはローレンツ短縮と関係をもっています。
というよりも実はこの「同時性の相対性」=「棒の時間」という話と「ローレンツ短縮の話」は「関連がある」というよりは「起きている状況は一つでありそれを2つの別々のコトバで表現にしたにすぎない」のです。
つまり「その二つの事はいつも同時に起きている事」なのです。
しかしながらその事を直接的に言及した記事はういきの記述を含めてネット上には見当たりません。
そうであればその事は当方にとっては「不思議な事」なのであります。
ちなみにここで言うローレンツ短縮は「静止系に対して運動している棒の長さは静止系から観察すると縮んで見える」という「本来の意味でのローレンツ短縮」を指しています。
まあ余談はさておいて本論に入りましょう。
まずは少し前に投稿したローレンツ短縮の説明を振り返ります。
『・本来のローレンツ収縮に対する理解の仕方
その有様はそこに示されたイラスト: https://archive.md/32DeU :でよく確認できます。
黒座標が静止系であってそこに対して速度Vで右方向に移動している慣性系が青座標で示されています。
この青座標での時刻0の時に長さLの棒が左端を原点に位置する様に置かれています。(青座標は動いている座標ですから実は青座標と黒座標の原点が重なった時にその状況を写した写真という事が出来ます。)
それでもちろんこの時の長さLは青座標で計った時の棒の長さです。
でその棒は青座標の上ではもちろん静止していますから単に青座標の時間経過にしたがって青座標の上を青座標+Y方向に移動する様に表されます。
その時にその棒がMN図上に作る軌跡が薄青色の右上方向に延びるバンドとしてイラストでは示されています。
さてこのバンドの幅が棒の長さを示すのですが、イラストにあるように青座標読みでは常に長さはLとなります。
しかしながら静止系である黒座標から計りますと「その長さはsqrt(1-V^2)の割合で縮んで観測される」のです。
というのもMN図上で黒座標での同一時刻線は水平であるのに対して、青座標の同一時刻線は右上方向に傾いているからです。
しかしながら黒座標上の観測者にはその傾きは観測されず、観測されるのは「棒がもともとの長さに対して縮んでいる」という内容です。』
イラストでは青座標のX’ 軸上に置かれた長さLの棒が黒座標のX軸を横切る時にそこに射影される長さがsqrt(1-v^2)の割合で短く観測される様子が描かれています。
ここでVは青座標が静止系に対して持っている相対速度(但し光速Cで規格化)を示します。
さてそれでこのイラストにある様に「まずは棒の先端が黒座標のX軸を斜め左下から右上方向に横切る」のです。
そうして最後に棒の終端がX軸を横切ります。
でこの棒の終端がX軸を横切ったその時にそこの点を青座標と黒座標の原点とするのです。
そうしてまたそこで青座標と黒座標の時間をゼロリセットします。
そういう状況をそのイラストは示しています。
でその時には当然棒の終端に設置された時計は原点位置にありますから「t=0」となっています。
そうしてその時には当然青座標のX’ 軸上に置かれた長さLの棒のどの位置に置かれた時計の針も「t=0」となっています。
そのことは「青座標のX’ 軸というのは青座標にとっては同時刻ラインである」という事を言い換えたに過ぎないのですから「自明である」と言えます。
さてそれで問題なのは「棒の先端が黒座標のX軸を横切った時にそこに置かれた時計の針は何時を指していたか?」という事です。
これはそこに描かれているMN図を正確に描くならば分かる事なのですが、答えは
t=0-V*L
になっていたのです。(注3)
ここでt=0はもちろんそのMN図が表している状況の時の時刻です。
でその時刻よりV*L秒だけ前に棒の先端が黒座標のX軸に到達していたのです。
さて黒座標上の観測者にはX軸に到達した棒しか観測できません。
イラストでは黒座標上の観測者はt=0のときに棒の長さが
L*sqrt(1-v^2) になっていた事を観測します。
と同時にその時に棒の先端と終端に置かれた時計の針の位置を黒座標上の観測者は記録する事が出来るのです。(これがこの観測者にとっては棒の長さが本来の長さよりも縮んで見える理由でもあります。)
そうすると
棒の先端ではt=-V*L
棒の終端ではt=0
と記録する事になります。
これは黒座標の観測者にとってみれば「棒の終端から先端に向かうに従って棒の時間が前に戻っていくように見える」という事を示しています。
というのも最初に棒の先端が黒座標のX軸上に現れて、あとから棒の終端が現れる、しかし黒座標上の観測者には「棒の先端と終端が同時に現れた」と見えるのです。(注4)
「t=0の時に黒座標上の観測者が棒の長さを計る」という事はそういう事なのです。
あるいは「静止系の観測者にとっては『移動している棒を観測する』ということはそういう事である」とも言えます。
そうして「この訳のわからない、摩訶不思議な状況」が「棒が縮んでいる=ローレンツ短縮が発生している」という状況なのです。
注1:「同時性の相対性」についてはポアンカレがアインシュタインと同時かあるいはアインシュタインよりも前に理解し公表していた模様です。
注2:キーポイントの「棒の時間」はローレンツ変換の導入にともなってローレンツが初めて「局所時間(Local time)」として業界に導入した概念でした。
これらのポアンカレとローレンツが特殊相対論成立に対して行ってきた仕事・貢献については後日、改めて触れる事とします。
注3:棒の時間軸方向への回転について: https://archive.md/7tQaB :
このイラストは静止系に対して0.6Cで移動している棒の様子をそれなりに正確に表現したMN図になっています。
本来の棒の長さは目盛り読みで5目盛り、ローレンツ因子は
sqrt(1-0.6^2)=0.8
従ってローレンツ短縮によって
5目盛り*0.8=4目盛り が静止系で観測される棒の長さになるのですが、イラストでは確かにそうなっています。
で、注目すべきはその時の棒の先端と終端の時間の差です。
A’ が棒の終端で動いている方の慣性系の時間軸読みでt=0
B’ が棒の先端で動いている方の慣性系の時間軸読みでt=3
「B’ の時刻の動いている方の慣性系の時間軸読み」は「B’ を通って静止系X軸と平行に引いた線が動いている方の慣性系の時間軸ct’ と交わる点のct’ 軸の目盛りの値」です。
そうしてその値は
V*L=0.6*5=3(秒)
となっているのです。但しこの時にVもLも光速Cで規格化した値です。
そうであれば棒の先端は棒の終端が静止系のX軸に到達する3秒前に(この3秒というのは棒の時間で3秒前である事に注意)静止系のX軸に到達していたのです。
この棒の先端の時刻(3秒前)は黒座標のt=0の時の観測者には見えています。
従って観測者は「棒の先端の時刻tは3秒前である」と記録する事になります。
でその時には棒の終端は先端と同じ時刻(3秒前)を示していましたが、その時の棒の終端の時刻(3秒前)は静止系からは観測されず、棒の時間で0秒になってようやく棒の終端が静止系のX軸に到達して、そこで静止系の観測者の観測にかかったのです。
そうであれば静止系の観測者は「棒の終端の時刻tは0秒である」と記録する事になります。
注4:「現れた」と言う表現はおかしいのですが、上記イラストにあるようなMN図を使った説明ではその様に表現する事になります。
しかしながら実際の状況を考えるならば黒座標上の観測者は左から事らに近づいてくる棒については横に並ぶ前からすでに見えていました。
そうであればこの棒は観測者の前に突然現れた訳ではないのです。
実状はそうなのではありますがMN図を使った説明となると、しかも棒の時間と黒座標上の観測者の時間がずれていますので、「静止系時刻t=0で棒が観測者の前に現れた」という様な「おかしな表現をする事」になってしまうのです。
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