薫るクロニクル。

日常生活で思ったことや、趣味の山歩きの話しなど、思いついたことを綴る記録です。

クライマーズ・ハイ

2006年08月26日 14時57分38秒 | 本。
横山 秀夫さん著書の本が文庫コーナーに並んでいたのを一ヶ月ほど前くらいに見つけて購入していた。
しばらく忘れかけていたのだが、ふと手に取り読み始めてからは、早かった。
面白かったからだ。

「山をなぜ登るんだ」の問いかけに、衝立岩を一緒に登るはずだった同僚が応えた。
「降りるために登るんさ。」
その意味が、読み終えるころにはなんとなく理解できるようになってくる。
 難関な衝立岩の登山の前夜、御巣鷹山航空機墜落事故は起こった。
そして、一緒にその衝立岩に登るはずだった同僚のくも膜下出血による入院も同じ日。
御巣鷹山航空機墜落事故を背景に、仕事場である新聞社内の慌ただしさと会社内の派閥、自分の家庭の息子に対する接し方と、入院した山仲間の息子との接し方。
ひとりの人間が抱え込む問題は、この小説のように同じ時間軸に幾つもあると思う。それが絡まり合い、悩み一歩ずつほぐしていく。

 私はちょうどこの日航機墜落事故の時は、忘れもしない高校の夏休みに工場でアルバイトをしていた。もちろん学校には無許可である。
その頃は今のように景気も悪くなく、うるさくない時代で、朝9時から夜11時ころまでお金を稼ぐために、働いていた。仕事が忙しく人手が必要だった時代だろう。
そんな夏の蒸し暑い時期の仕事から帰ったテレビで、この衝撃的なニュースが放映されたことを今でも覚えている。一瞬にして500名以上の人命が消えてしまったのだ。
そのニュースを見て、それが自分だったらどういう行動をし、どんなふうにその瞬間を迎えることができるのだろうと、ふと考えたことを思い出した。結論は出るはずもない。だって、空想でしかないのだから。

 17年後に主人公は衝立岩に登っていた。
いろんな問題を少しずつ解決し、「降りるために登るんさ。」の意味を理解するために。
この本を手にするのは、きっと一度だけではない。
久し振りにいい本と巡り会えた。そんな気分だった。