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荘子:養生主第三(3) 臣之所好者,道也,進乎技矣

2009年07月24日 23時39分50秒 | 漢籍
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荘子:養生主第三(3)

 文惠君曰:「譆,善哉!技蓋至此乎?」庖丁釋刀對曰:「臣之所好者,道也,進乎技矣。始臣之解牛之時,所見無非(全)牛者。三年之後,未嘗見全牛也。方今之時,臣以神遇,而不以目視,官知止而神欲行。依乎天理,批大郤,導大?,因其固然。技經肯綮之未嘗,而況大?乎!

 文惠君(ブンケイクン)曰わく、「譆(ああ)、善(よ)い哉(かな)。技(わざ)も(けだ)し、此(ここ)に至(いた)るか」と。
 庖丁は刀を(お)いて対(こた)えて曰わく、「臣の好むところのものは道なり。技(わざ)を進(こ)えたり。始め臣の牛を解(と)きし時、見るところ牛に非ざるものなかりき。三年の後にして未だ嘗つて全牛を見ざるなり。今の時に方(あた)っては、臣は神(こころ)を以て(あ)いて、目を以て視(み)ず。知(カンチ)止(や)みて「神欲」(シンヨク)行なわる。天に依りて、大(タイゲキ・おおいなるすきま)を批(う)ち、大?(タイカン・おおいなるあな)に導き、其の固(もと)より然(しか)るところに因(よ)る。技(わざ)の肯綮(コウケイ)を経(ふ)ること未だ嘗つてあらず。而(しか)るを況(いわ)んや大?(タイコ・おおいなるほね)をや。


 それを見た、文恵君
 「ああ、みごとなものだ。技も奥義を極めると、こんなにもなれるものか」
と感嘆の声をあげた。
 すると庖丁は牛刀を置いて文恵君に対(こた)える。
 「私の求めるところはでございまして、以上のものでございます。私が牛をはじめて料理した時分には、目にうつるものはただ牛の姿ばかり、(どこから手をつけてよいのか見当さえもつきませんでしたが)それが三年目にやっと、牛の全体像が目につかなくなり、牛の体のそれぞれの部分が目に見えるようになりました。
 そして現在ではもはや、形を超えた心のはたらきで牛をとらえ、目で視て(形に頼って)仕事をすることはなくなりました。
 「知」すなわち、あらゆる感覚器官にもとづく知覚は、その動きをひそめ、「神欲」すなわち、精神のはたらきだけが動いているのです。
 「天理」すなわち牛の体にある本来自然の(すじめ)に従って、「大(タイゲキ)」すなわち骨と肉の間にある大きな隙間(すきま)に刃(やいば)をふるい、骨節の大きな?(あな)に刃を導き入れて、牛の体の本来のしくみに従って処理するのです。
 だから私が技(うで)をふるえば、骨と肉の微妙にいりくんだ部分に刃をあてることはありませんし、まして「大?(タイコ)」すなわち、大きな骨に刃をあてることは決してありません。
 
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(けだし)
 ・けだし。文の初めにつき「おもうに」の意をあらわすことば。
  全体をおおって大まかに考えてみると。
 ・【解字】会意兼形声。
  (コウ)は「去+皿(さら)」の会意文字で、皿にふたをかぶせたさま、かぶせること。
  は「艸+音符盍」で、むしろや草ぶきの屋根をかぶせること。
 ・【単語家族】
  (かぶせる)・(コウ・ふさぐ)・(コウ・口をふさいでぶつぶついう)などと同系。
  (エン・かぶせておおう)・(エン・かぶせておおう)などとも縁が近い。


(おく)
  ・おく。すてる(すつ)。つかんだものを放しておく。
   「保釈」「釈箕子之囚=箕子の囚を釈く」〔史記・周〕


(グウ・あう)
  ・あう(あふ)。AとBとがひょっこりあう。転じて、思いがけずに出あう。
  ・グウす。相手と関係しあう。また、ある態度で相手にのぞむ。
   「待遇」「礼遇」「殊遇(特別のもてなし)」


(カン)
  ・人体のいろいろな役目をする部分。
   政府の官職になぞらえたことば。
    「器官」「五官(目・耳・鼻・口・皮膚の五器官)」「官能」


神欲(シンヨク)
  ・精神のはたらき


(すじめ)
  ・すじめ
  ・【解字】
   会意兼形声。
   は「田+土」からなり、すじめをつけた土地。
   は「玉+音符里」で、宝石の表面にすけて見えるすじめ
   動詞としては、すじめをつけること。


(【慣用音】ゲキ、【呉音】キャク、【漢音】ケキ)
  ・くぼみ。中央がくぼみ、両辺の間があいた所。すきま。
  ・漢方医学では、骨と肉とのあいだ。


大?(タイカン)
  ・骨節にある大きな穴


?(ほね)
  ・【漢音】コ、【呉音】ク
  ・大きな骨