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荘子:養生主第三(4) 吾聞庖丁之言,得養生焉

2009年07月25日 16時26分15秒 | 漢籍
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荘子:養生主第三(4)

 良庖?更刀,割也;族庖月更刀,折也。今臣之刀十九年矣,所解數千牛矣,而刀刃若新發於。彼節者有間,而刀刃者無厚;以無厚入有間,恢恢乎其於游刃必有餘地矣。是以十九年,而刀刃若新發於。雖然,?至於族,吾見其難為,?然為戒,視為止,行為遲。動刀甚微,?然已解,如土委地。提刀而立,為之四顧,為之躊躇滿志,善刀而藏之。」

 文惠君曰:「善哉!吾聞庖丁之言,得養生焉。」


 (リョウホウ)は?(とし)ごとに刀を更(か)う。割(さ)けばなり。「族庖」(ゾクホウ)は月ごとに刀を更(か)う。折ればなり。今臣の刀は十九年なり。解(と)くところは数千牛なり。而(しか)も刀刃(トウジン)は新たに(といし)より発せしが若(ごと)し。彼(か)の節(セツ・ほねのつぎめ)なる者には間(すきま)有りて、刀刃(トウジン)なる者には厚みなし。厚(あつ)み無きものを以て間(すきま)有るところに入るれば、恢恢乎(カイカイコ・ひろびろ)として其の刃(やいば)を遊ばす(つかいこなす)に必ず余地あり。是(こ)れを以て十九年にして、刀刃(トウジン)新たに(といし)より発せしが若(ごと)し。然(しか)りと雖(いえど)も、族(ゾク)に至る毎(ごと)に、吾(わ)れ其の為(な)し難(がた)きを見て、?然(ジュツゼン)として為(ため)に戒(いまし)め、視(み)ること為(ため)に止(とど)まり、行(や)ること為(ため)に遅く、刀を動かすこと甚(はなは)だ微(ビ)なり。?然(カクゼン)として已(すで)に解(と)くれば、土の地に(お)つるが如(ごと)くなれば、刀を提(ひっさ)げて立ち、之(これ)が為(ため)に四顧(シコ)し、之(これ)が為(ため)に躊躇(チュウチョ)して志(こころざし)を満たし、刀を善(ぬぐ)いて之(これ)を(おさ)む」と。

 文恵君曰わく、「善(よ)い哉(かな)。吾(わ)れ庖丁の言を聞きて、生を養うを得たり」と。


 「良」すなわち、腕のよい料理人は一年くらいで牛刀を取り替えますが、それでも刃こぼれがきます。「族庖」すなわち、月並みな料理人になりますと、一月(ひとつき)ごとに牛刀を取り替えますが、それは牛刀を骨に打ち当てて折ってしまうからです。ところで私の牛刀は、新調してから今まで十九年になり、料理した牛の数は数千頭になりますが、たった今砥石(といし)で研(と)いだように刃こぼれ一つありません。あの牛の骨節には間隙(すきま)がありますが、この牛刀の刃さきには厚みがありません。その厚みのない刃を間隙(すきま)のあるところに入れてゆくのですから、「恢恢乎」すなわち、ひろびろとして、刃を使いこなすのに必ず十分なゆとりがあります。十九年も使いつづけて、研(と)ぎたての牛刀のように刃こぼれ一つないのは、このためでございます。とは申しますものの、「族」すなわち、牛の体の筋や骨の族(むらが)り集まっているところにぶつかりますと、その仕事の難しさを見てとって、「?然」おっかなびっくり、しっかりと心をひきしめて緊張し、視線を一点に集中し、手のはこびを遅くし、牛刀の動かし方も極めて微妙になります。
 やがて「?然」(パサリ)と音がして、肉が離れてしまうと、土の塊(かたまり)が大地に落ちるように肉の山が地上に横たわります。私はほっとして牛刀を提(ひっさ)げたまま立ち上がり、ぐるりと四方を見回し、しばらくはその場を去りがたく、しばしためらった後、会心の笑みをうかべて牛刀をぬぐい、これを大事にしまうのでございます」

 文恵君は言った。「いかにも見事だ。わしは庖丁の話を聞いて、養生(ヨウセイ)の道、すなわち与えられた自己の人生を全うする根本原理を会得した。」

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族庖(ゾクホウ)
  ・ありふれた腕まえの料理人


(といし)
  ・【漢音】ケイ、【呉音】ギョウ
  ・といし。刃物をとぐ石。
  ・会意兼形声。「石+(音符)刑(=形。形をつける)」。刃物の形を整えるといし。


恢恢(カイカイ)
  ・ひろく大きいさま
  ・ゆったりして余裕があるさま


?然(ジュツゼン)
  ・気がかりでひやひやするさま


?(カク)
  ・ばらりと解けるさま
   一説に、骨から肉を切り離すときの音の形容


(イ)
  ・おちる(おつ)。ためておいてある。だらりとおちて、そのままである。
  ・会意。「禾(まがってたれたいね)+女」で、しなやかに力なくたれることを示す。
   単語家族
    (イ・だらりとしおれてたれる)・(イ・力が抜けてだらりとする)・(エンン・力をぬいてたおやかな)・(エン・たおやかな女性)と同系。


(おさむ)
  ・おさめる(をさむ)。しまいこむ。入りこんで出てこない。
  ・かくす。かくれる(かくる)。




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