「ジェンダー・クライム」 天童荒太著
執筆の過程で、いわゆる日の当たる側からは見えていなかった多くの虐待やハラスメントの、起きた<当時の被害>はもちろん、おきた後に続く<その後の被害>も、同様に深刻である事実を知ると同時にーーそうした被害を生む土壌というか、文化的背景が、<当時の被害>にも<その後の被害>にも、存在していることに気づかされた。
当時、ジェンダーという言葉は一般には使われていなかった。表す言葉がないと、実態を知りながらも、人や社会にうまく伝えられず、もやもやとした、やるせない違和感を、内に抱えつづけることになる。それが犯罪や犯罪に準ずる行為だと、被害者は、された行為を他者に伝えきれないまま、ただ我慢するか、本来悪くもない自分を責めてしまう恐れがある。たとえばセクシャルハラスメント=セクハラという言葉が生まれる前が、そうであった。
(謝辞より)