左の映画ポスター内の写真のうち、銃を構える探偵のシーンは原作にはありません。 上中央は車の転落事故を起こす前の場面。 上右は友人の妻ジェニー役のジョアンヌ・ウォーリー。 下中央は記憶を思い出せず悩む (?) 表情の主人公役のベレンジャー。 下右は転落事故から回復後の主人公と妻ジュディス役のスカッキ。
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「ダンは霧の山道を妻と運転中、崖下に転落 瀕死の重傷を負った。 無惨に潰れた顔は手術で元に戻ったが、失われた記憶は蘇らない。 ようやく退院したダンの前に立ちはだかる不可解な謎の数々 … 」(文庫本裏表紙から引用)。 原題 The Plastic Nightmare は、Plastic Surgery Nightmare (形成外科手術の悪夢) を略したものでしょう。
この推理小説は、結論を知っていた上で読み進んでいった方が楽しめると思います。 というのも そうでないと分からない展開が随所にあり、知らずに読むとそうした断片が多く 混乱してしまいそうになるからです。
読み終わって この手のプロットは実は多いとも思いましたね __ 推理小説『アクロイド殺人事件』、ホラー推理小説『エンゼル・ハート』もそうでしたが、主人公が真相を突き止めようと進行していき、結論は意外にもXXX自身のことだったというものだからです。
『エンゼル・ハート』の主人公も、『仮面の情事』主人公も、話の始まりで以前の記憶をなくしているという設定からして似ていますね。 そうだからこそ謎解きの展開が面白いともいえます。
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あと『仮面の情事』プロットの中で、無理な設定があるとも感じました __ 銃殺した死体を2日も家の中に隠すとありますが、流れた血液や 死体は括約筋が緩んで体液 (尿や便など) が漏れ出て来て、家具やカーペットにシミを作りますし、腐敗しますから隠すことが難しいのです。
それと 女性が銃殺した男性死体を車のトランクに詰め込んで、廃船の中に埋めるとありますが、米国人成人男性の体重は 80〜90kg 以上もあり、いくら米国人成人女性の体格がいいといっても 60〜70kg くらいでしょうから、運ぶのは体力的に相当に難しいと想像しますね。
もう1つ、銃撃された男性が死ぬ直前に重要なネガの入った紙包みをタバコ缶の中に隠すなんて、出来過ぎです。 しかも血痕すら缶の外側に残さずに必死の力を振り絞って … など。
私は “銃撃されて死にかけた経験” はもちろん ありませんが、朦朧とした意識の中で 人間は本能的に生き延びることしか考えられないと想像します。 自分が死んだ後の事など考えませんって __ それは映画か小説の中の話しだけです (逆説的に考えると これが小説だからです)。
重傷事故からの復帰後 主人公はなかなか記憶を取り戻しませんが、時々チラッと過去の記憶の断片が出て来ます。 これも最後のネタを知らないと 何の事か分かりません。 終盤 ある知人が断定する指摘で、”ダムが決壊したように” 一気に記憶を取り戻します。
その直後の 殺そうと銃を手にする犯人と丸腰の主人公が向き合う急展開 __ というかクライマックスの2人の会話で、読者はそれまでのこんがらがった糸のもつれが解けて やっとスッキリと全体像が分かるのです。
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他に気になったのは、リチャード・ニーリィ原作が1969年の作品という事情からか 登場人物がやたらとタバコを吸う場面が多いのです。 まだ喫煙による健康被害が叫ばれていない時代を反映していますね。
また 主人公がポルシェを乗り回し、妻は別に車を運転し、プール付きで何部屋もの家、家政婦が通って来て家事一切をしてくれる環境など、カネとヒマを持て余す かなりなセレブ族を描いていますから、庶民的な話しではありません。
この話しを外国に置き換えるとしたら、ふさわしい国・都市はどこになるのかちょっと見当が付きません。 日本はかなり難しい設定になりますね。 やはり原作通り カネが唸 (うな) っている米サンフランシスコ近辺が似合うのでしょうか?
そして 元の顔の “持ち主” とは、一体誰なのか? __ 読者は見当を付けながら読み進むのですが、その推理を妨げるような (?) 展開もあり、そこを更に推理するのも一興ですね (気がつきました? 冒頭写真もよく見ると どこかおかしいと思いませんか?)。
………………………………………………………
原作では主人公が雇った探偵が終盤前に殺害されてしまうのですが、映画ではプロットが変えられ、生き延びています。 また 共同経営者の妻ジェニーが重要な役割を途中から果たしているのですが、これも省かれている、という具合に幾つかシナリオ変更があって、随分と展開が薄い 魅力が少ない映画になってしまっています。
シナリオ変更の理由は、原作通りに制作すると 長すぎてしまう恐れからだったのかも知れません (資金を握るプロデューサーが認めなかった?)。 脚本の出来が良くなかったように思いますね。
映画「仮面の情事 Shattered 」(91年) は、ペーターゼン Wolfgang Petersen 監督/脚本、 ニーリー Richard Neely 原作、シルヴェストリ Alan Silvestri 音楽、ベレンジャー Tom Berenger 主演、スカッキ Greta Scacchi (その妻ジュディス)、ホスキンス Bob Hoskins (探偵クライン) が共演したサスペンス映画で、予算不明、興収 $12M (米のみ) の成績。
出来はまずまず良かったと思うのですが、ヒットしなかったのはシナリオの不出来と、主人公のベレンジャーの演技力の幅の狭さではないかと推測します。 確かに 事故後 記憶を失くして自分がどういう人間か分からないという設定ですから、表情作りは難しいと想像しますが、それにしても 表情の乏しい あまり魅力を感じさせない役作りではないでしょうか。
対して 妻役スカッキの方が表現力豊かでベレンジャーを食っていました。 他に 探偵役や、主人公と共同経営する人物・その妻・主人公妻の不倫相手は影が薄い映画でした。 原作にはないカーチェイスと車への銃撃は、効果がない展開ではないかと感じました (ハッキリいうと失敗?)。
私はもっと時間を長くして、原作通りの会話を増やし、演技力のある主人公での再映画化を望みたいと思いますね。
今日はここまでです。
トラックバック__2006/9/23 推定無罪と仮面の情事での悪女
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「ダンは霧の山道を妻と運転中、崖下に転落 瀕死の重傷を負った。 無惨に潰れた顔は手術で元に戻ったが、失われた記憶は蘇らない。 ようやく退院したダンの前に立ちはだかる不可解な謎の数々 … 」(文庫本裏表紙から引用)。 原題 The Plastic Nightmare は、Plastic Surgery Nightmare (形成外科手術の悪夢) を略したものでしょう。
この推理小説は、結論を知っていた上で読み進んでいった方が楽しめると思います。 というのも そうでないと分からない展開が随所にあり、知らずに読むとそうした断片が多く 混乱してしまいそうになるからです。
読み終わって この手のプロットは実は多いとも思いましたね __ 推理小説『アクロイド殺人事件』、ホラー推理小説『エンゼル・ハート』もそうでしたが、主人公が真相を突き止めようと進行していき、結論は意外にもXXX自身のことだったというものだからです。
『エンゼル・ハート』の主人公も、『仮面の情事』主人公も、話の始まりで以前の記憶をなくしているという設定からして似ていますね。 そうだからこそ謎解きの展開が面白いともいえます。
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あと『仮面の情事』プロットの中で、無理な設定があるとも感じました __ 銃殺した死体を2日も家の中に隠すとありますが、流れた血液や 死体は括約筋が緩んで体液 (尿や便など) が漏れ出て来て、家具やカーペットにシミを作りますし、腐敗しますから隠すことが難しいのです。
それと 女性が銃殺した男性死体を車のトランクに詰め込んで、廃船の中に埋めるとありますが、米国人成人男性の体重は 80〜90kg 以上もあり、いくら米国人成人女性の体格がいいといっても 60〜70kg くらいでしょうから、運ぶのは体力的に相当に難しいと想像しますね。
もう1つ、銃撃された男性が死ぬ直前に重要なネガの入った紙包みをタバコ缶の中に隠すなんて、出来過ぎです。 しかも血痕すら缶の外側に残さずに必死の力を振り絞って … など。
私は “銃撃されて死にかけた経験” はもちろん ありませんが、朦朧とした意識の中で 人間は本能的に生き延びることしか考えられないと想像します。 自分が死んだ後の事など考えませんって __ それは映画か小説の中の話しだけです (逆説的に考えると これが小説だからです)。
重傷事故からの復帰後 主人公はなかなか記憶を取り戻しませんが、時々チラッと過去の記憶の断片が出て来ます。 これも最後のネタを知らないと 何の事か分かりません。 終盤 ある知人が断定する指摘で、”ダムが決壊したように” 一気に記憶を取り戻します。
その直後の 殺そうと銃を手にする犯人と丸腰の主人公が向き合う急展開 __ というかクライマックスの2人の会話で、読者はそれまでのこんがらがった糸のもつれが解けて やっとスッキリと全体像が分かるのです。
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他に気になったのは、リチャード・ニーリィ原作が1969年の作品という事情からか 登場人物がやたらとタバコを吸う場面が多いのです。 まだ喫煙による健康被害が叫ばれていない時代を反映していますね。
また 主人公がポルシェを乗り回し、妻は別に車を運転し、プール付きで何部屋もの家、家政婦が通って来て家事一切をしてくれる環境など、カネとヒマを持て余す かなりなセレブ族を描いていますから、庶民的な話しではありません。
この話しを外国に置き換えるとしたら、ふさわしい国・都市はどこになるのかちょっと見当が付きません。 日本はかなり難しい設定になりますね。 やはり原作通り カネが唸 (うな) っている米サンフランシスコ近辺が似合うのでしょうか?
そして 元の顔の “持ち主” とは、一体誰なのか? __ 読者は見当を付けながら読み進むのですが、その推理を妨げるような (?) 展開もあり、そこを更に推理するのも一興ですね (気がつきました? 冒頭写真もよく見ると どこかおかしいと思いませんか?)。
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原作では主人公が雇った探偵が終盤前に殺害されてしまうのですが、映画ではプロットが変えられ、生き延びています。 また 共同経営者の妻ジェニーが重要な役割を途中から果たしているのですが、これも省かれている、という具合に幾つかシナリオ変更があって、随分と展開が薄い 魅力が少ない映画になってしまっています。
シナリオ変更の理由は、原作通りに制作すると 長すぎてしまう恐れからだったのかも知れません (資金を握るプロデューサーが認めなかった?)。 脚本の出来が良くなかったように思いますね。
映画「仮面の情事 Shattered 」(91年) は、ペーターゼン Wolfgang Petersen 監督/脚本、 ニーリー Richard Neely 原作、シルヴェストリ Alan Silvestri 音楽、ベレンジャー Tom Berenger 主演、スカッキ Greta Scacchi (その妻ジュディス)、ホスキンス Bob Hoskins (探偵クライン) が共演したサスペンス映画で、予算不明、興収 $12M (米のみ) の成績。
出来はまずまず良かったと思うのですが、ヒットしなかったのはシナリオの不出来と、主人公のベレンジャーの演技力の幅の狭さではないかと推測します。 確かに 事故後 記憶を失くして自分がどういう人間か分からないという設定ですから、表情作りは難しいと想像しますが、それにしても 表情の乏しい あまり魅力を感じさせない役作りではないでしょうか。
対して 妻役スカッキの方が表現力豊かでベレンジャーを食っていました。 他に 探偵役や、主人公と共同経営する人物・その妻・主人公妻の不倫相手は影が薄い映画でした。 原作にはないカーチェイスと車への銃撃は、効果がない展開ではないかと感じました (ハッキリいうと失敗?)。
私はもっと時間を長くして、原作通りの会話を増やし、演技力のある主人公での再映画化を望みたいと思いますね。
今日はここまでです。
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