弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

騒音問題(子どもの足音)3-苦情は言いたい放題なのか?

2015-06-01 05:16:49 | ご近所
「騒音問題(子どもの足音)1」、「騒音問題(子どもの足音)2」でも書きましたが、下階住民との間での騒音に関するトラブルについては、音の発生が下階住民の受忍限度を超えているといえるかという点がポイントとなります。

そして、裁判例をみますと、受忍限度を超えているかどうかの判断においては、上に居住している側が下階住民との間で誠実な話し合いを行っているか、また、騒音発生防止の措置をとっているかといった点も重要なポイントとされています。

ここで悩ましいのが、上階住民が下階住民から「うるさい。」と苦情を受け、誠実な話し合いや対処はしているものの苦情が一向にやまない場合、苦情に対して際限なく対応しなければならないのか、いいかえると、下階住民は苦情をいくらでも自由に言うことが出来るのかという点です。


この点、小さな子どもが絡んだものではありませんが、ネット上において興味深い裁判例(「騒音問題と名誉棄損」に関する東京地方裁判所平成23年10月13日判決)が紹介されていることに気づきました。

この裁判例は、マンションの下階住民が、上の居室から騒音が発生しているとして、管理人を通じて何度も上階住民に苦情を申し立て、また、管理組合の総会でも議題として問題としたことにつき、上階住民が、名誉感情を損なわれたとして下階住民に対し不法行為に基づく損害賠償請求等の訴えを行い(本訴)、逆に、下階住民も上階住民に対して、受忍限度を超える騒音を発生させたとして不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを行った(反訴)というものです。

判決は、受忍限度を超える騒音が発生していた事実はないとして下階住民の請求を棄却する一方、下階住民が管理組合の総会で発言した内容はマンションの住民らに対して上階住民が下階住民に損害を与えているとの印象を与えるものであって上階住民の社会的評価を低下させたとして名誉棄損が成立する、また、管理人を通じた苦情申立ての中には上階住民に対する誹謗中傷とも受け取れる表現が多く含まれており、苦情が非常に多数回にわたって申し立てられていることからも、下階住民の苦情は社会通念上許される限度を超えており上階住民の名誉感情を侵害するものであるとして、上階住民の下階住民に対する損害賠償請求を一部(慰謝料30万円)認めています。

下階住民からの苦情申立てにも「社会通念許される限度」というものがあって確たる証拠もなく苦情をいくらでも自由に言ってよいものではないこと、限度を超えた苦情申立ては違法となる可能性があることが示唆されており、目を引くところです。


マンション等における騒音問題の難しいところは、自宅の生活音が下の居室等にどのように響いているのかよく分からないこと、また、受忍限度の判断基準が一義的に明確ではない一方で、音に対する感受性は人によって千差万別であることからも、発生する音が受忍限度を超えているかどうかの判断がきわめて難しいという点にあるように思います。

マンション等の共同住宅において小さな子どもを育てているような場合には、子どもが跳んだり走り回ったりすることで下階に生じる音がめいわくなものであることはまず間違いなく、出来る限りの騒音発生防止の措置を取るべきであること、また、苦情に対しては誠実な態度で話し合い等を行うべきであることは、「騒音問題(子どもの足音)2」の中で述べたとおりです。

上記裁判例(東京地方裁判所平成23年10月13日判決)でも、小さな子どもがいる事案ではありませんが、上階住民側は下階住民からの苦情を受けて、フローリングの上にカーペットを敷き、音に注意して生活している旨を手紙で説明している等の経緯が認められています。

ただ、小さな子どもがいるからといって、子どもが生活するに際して生じる音が下階住民の受忍限度を超えるものであるとは限らないことも「騒音問題(子どもの足音)2」の中で述べたとおりであり、きちんと誠実な対応をしているにもかかわらず下階住民からの苦情が一向に止まず、苦情が執拗であったり、内容が悪質であったりするような場合に対処すべき方法がないのか、そのことを考えるにあたって上記裁判例は示唆に富んでいるように感じています。

前の記事;騒音問題(子どもの足音)2 -受忍限度とは?



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