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人はなんのため生きるのか?問われ続けてきた哲学の歴史の恩恵  202107

2021-07-18 01:54:00 | 📚 豆知識・雑学

人はなんのため生きるのか?問われ続けてきた哲学の歴史の恩恵
  幻冬社ゴールドオンライン より 210718 堀内 勉

 哲学の三つの古典的分類のうち、認識論と存在論について見ていきましょう。

 認識論とはヒトの外の世界を「どのようにして認識していくか」を問うもので、存在論とは存在全般が共通して持つものを解明するものです。
 時代が進むにつれてそれぞれの研究は進められながら、どちらか一方が重視されることを繰り返してきました。
※本連載は、堀内 勉氏の著書『読書大全』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

●存在の認識を問う「認識論」と本質を問う「存在論」
 古典的な分類では、哲学は、以下のように認識論、存在論、倫理学の三つに分けられます。

①認識論(知識論):世界とそこに存在する事物に対する「認識」を問うもの。

②存在論(形而上学):世界とそこに存在する事物の「本質」を問うもの。

③倫理学(倫理哲学、道徳哲学):人間の良いあり方や、正しいあり方について問うもの。

認識論(独:Erkenntnistheorie、仏:Épistémologie、英:epistemology)は、認識や知識の起源,構造,範囲,方法などについて考察するもので,ヒトの外の世界をいかに認識していくかを問うものです。
 主題としては、「人はどのようにして物事を正しく知ることができるのか」「人はどのようにして物事について誤った考え方を抱くのか」「人間にとって不可知の領域はあるか、あるとしたらどのような形で存在するのか」などが扱われます。

 認識主体と認識客体のいずれに重点を置いて考えるのかによって、観念論(観念的・精神的なものが外界とは独立してあるという立場)と実在論(概念や観念に対応するものがそれ自体として実在しているという立場)に分かれます。

 実在論は、対応するものが概念や観念の場合は観念実在論になり、物質や客観の場合は素朴実在論や科学的実在論になります。

 認識論は、自然科学の分野における科学的認識論と区別して、哲学的認識論とも呼ばれます。

 存在論(独:Ontologie,仏:Ontologie,英:ontology)は、さまざまに存在するもの(存在者)の個々の性質を問うのではなく、存在者一般に関して、全ての存在者が共通に持つものやその根本的・普遍的な規定を考察し、規定するものです。

 存在論は、しばしば形而上学と同義に用いられます。形而上学の主題の中心的なものに存在の概念があり、これはアリストテレスが『形而上学』において、存在全般の普遍的原理や原因を解明する学問を「第一哲学」と呼んだことに由来します。

 これに対して、その原理や原因の結果によって生じた、個々の具体的な存在(自然)を扱う自然哲学(今日の自然科学)を「第二哲学」と呼びました。つまり、アリストテレスは、存在の根本原理や原因を扱う学のほうがより重要であると位置づけ、それを「第一哲学」と呼んだことになります。

●近代的な認識論を確立させたデカルトとその後の発展
 ただし、アリストテレスの「第一哲学」が、「諸存在(万物)の根本的な原因・原理」をめぐる、感覚・非感覚・論理・数学・神学などを横断する幅広い考察であったのに対し、近代以降の形而上学の考察の対象は、自然科学の発展に伴い一部の狭い領域に押し込まれ、変質してきています。

 これに対して、近代的な意味での認識論を成立させたのが、「近代哲学の父」といわれるルネ・デカルトです。デカルトは、「本当に確かなことはなにもない」という全面的な懐疑主義(skepticism)に対して、「我思う、ゆえに我あり(コギト・エルゴ・スム)」という言葉で、全ての事物を疑った(方法的懐疑)後に純化された精神だけが疑いえないものとして残ることを主張しました。

 デカルトが認識の起源は理性(合理主義)であるとしたのに対して、「イギリス経験論の父」といわれるジョン・ロックは認識の起源は経験(経験主義)であるとしました。さらに、この合理主義と経験主義を統合したカントの「コペルニクス的転回」以降、哲学は認識論に傾斜することになります。

 しかし、第一次世界大戦以降、存在論を認識論より体系的に上位に位置づける実在論的存在論を提唱したニコライ・ハルトマンの批判的存在論や、存在一般への問いの前に人間存在への問いが先行しなければならないというマルティン・ハイデッガーの基礎的存在論などにより、「認識論から存在論へ」という揺り戻しが始まることになります。


堀内 勉
多摩大学社会的投資研究所 教授・副所長

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