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「老いの正体」。ストレスが老化を促進、死なずに生き延びる「老化細胞」の蓄積が認知症の原因にも 202202

2022-02-16 17:56:00 | 健康関連

東京大学医科学研究所・中西真教授が解説する「老いの正体」。ストレスが老化を促進、死なずに生き延びる「老化細胞」の蓄積が認知症の原因にも〈前編〉
  婦人公論jp より 220216   中西真


「老化」を防いだり改善したりして、老いずに歳を重ねるということができる社会が到来するかもしれない
 100歳になっても、30代の頃と変わらない容貌と肉体を維持できたら――そんな夢のような話が近い将来、実現するかもしれない。東京大学医科学研究所などの研究チームは、マウス実験から「老い」の原因となる「老化細胞」を除去する薬として「GLS-1阻害薬」を見出した。研究チームの東大教授・中西真氏が老いの仕組みを解説する

* * * * * * *

◆「老い」の正体がわかってきた
 私たち、東京大学医科学研究所などの研究チームは2021年1月15日、アメリカの科学誌『サイエンス』に次のような論文を発表しました。
〈老齢のマウスに、GLS-1という酵素の働きを阻害する薬剤を投与したところ、老化細胞の多くが除去され、老年病や老化が改善した〉

 私たちは、「老い」の原因となる「老化細胞」が生存するメカニズムを読み解き、そこから「老化細胞」を選択的に除去するための薬を導き出しました。
 老化細胞というのは、つまり、細胞分裂せず増殖をやめてしまった細胞のことです。その老化細胞が、死ぬことなく生き延びていることで、私たちの肉体はさまざまな形で老化していくということがわかってきました。

 この老化細胞を生き延びさせている酵素をブロックすることで、老化細胞を死滅させて除去することが可能になる、というのが、私たちが発見した「老化」を防ぐメカニズムです。
 老化細胞は慢性炎症を引き起こし、肉体を老化させる要因のひとつとなる細胞です。臓器の老化、脳の老化、皮膚の老化……。それらの少なくとも一部は、老化細胞によって引き起こされる「老い」の現象なのです。今、私たちは、この薬の実用化に向けた研究を進めています。

 この薬が広く一般に向けて実用化されれば、「老化」を防いだり改善したりして、老いずに歳を重ねるということができる社会が到来するかもしれません。

◆加齢の原因になる「老化細胞」
 では、「老化細胞」とは何か、私たちが発見した老化細胞の生存に必要なGLS-1とは何か、そしてなぜGLS-1阻害薬を投与すると老化細胞を殺すことかができるのか、そして、そもそも「老化」するとは何なのか、ということを説明していきたいと思います。

 まず人間の肉体というのも、最初は受精卵ひとつから始まるのは、みなさんご存じのとおりです。それがどんどん細胞分裂していって成長し、内臓なり筋肉なり骨なりをつくっていきます。
『老化は治療できる!』(著:中西真/宝島社)

 人間の体は60兆個もの細胞によってつくられています。細胞のなかには、不老不死に近い幹細胞というものもあります。たとえば、血液系であれば、赤血球や白血球、血小板やリンパ球などの血液系細胞の大元になる「幹細胞」というものがあります。この幹細胞の数はそれほど多くありません。多くの細胞は、そこから分化して分裂していったもので、この細胞は不老不死ではありません。
 人間であれば、50〜60回ほど分裂したら、もうそれ以上は分裂できなくなります。こうして、完全に活動を停止してしまった細胞が「老化細胞」になってしまうのです。
 つまり、全身にある60兆個の細胞のうち、一部の幹細胞を除いた多くは、いずれ老化細胞になっていくということです。

 これらの老化細胞は、本来であれば免疫細胞であるマクロファージ(白血球の一種)などが食べて除去してくれるのですが、生き延びた老化細胞が残ってしまい、体内のあちこちに蓄積されていきます。
 それらの老化細胞が炎症物質を誘発して、臓器や皮膚などにさまざまな炎症を起こしていきます。それが内臓疾患やシワなど、いわゆる加齢が原因のさまざまな疾患や症状として現れてくるのです。

 皮膚のシワというのも、その部分に溜まった老化細胞によって、微小ながら過剰な炎症が起きていることの表れとも考えられます

◆ストレスによっても細胞は老化する
 老化細胞のなかには、そうやって分裂の上限に達して寿命が尽きた細胞のほかに、過剰なストレスなどによって、そこまで分裂を繰り返していないにもかかわらず、活動を完全に停止して老化細胞になってしまうものもあります。
 ストレスの多い生活をしている人が老けてみられるのは、そういう理由もあるかもしれませんね。ストレスは細胞を酸化させて老化細胞へと誘導し、老化スピードを加速させてしまうのです。
 これらストレス性の老化細胞は、細胞分裂の上限を終えて自然に老化した細胞と、結果としてとくに違いはないと考えられます。

 ストレスといえば、紫外線や放射線なども細胞にとってストレスのひとつです。これらを浴びると遺伝子に傷がつき、細胞の老化を早めることがわかっています。
 屋外の仕事で年中日焼けしている方の皮膚と、常に日焼けに注意して日焼け止めを塗るなど、UV対策をしている女優さんのような方の皮膚を比べると、どちらも70歳くらいになった時の老化具合には大きな差が出ています。
 皮膚のシワというのも、その部分に溜まった老化細胞によって、微小ながら過剰な炎症が起きていることの表れとも考えられます。
 蓄積された老化細胞が、さまざまなかたちで人の見た目や臓器を老化させているのです。

◆認知症発症の原因にも
 そもそも、なぜ老化細胞は死ぬことなく生き延びてしまうのか。
人間の細胞の中には、リソソームという細胞小器官があります。リソソームは古くなったタンパク質を取り込んで分解するための器官で、その内側は強力な酸性になっています。
 細胞が老化してくると、リソソームの膜に傷がついてしまい、そこから内部の酸性物質が染み出してきて細胞全体が酸性に傾いてしまいます。

 細胞全体が酸性化してしまうと、本来の細胞であれば死んでしまうはずなのですが、老化細胞はGLS1という酵素を活性化し、大量に発現させて生き延びてしまうということが私たちの研究でわかってきました。

 GLS-1はグルタミンをグルタミン酸に変換する酵素なのですが、この代謝の過程でアンモニアをたくさんつくり出します。アンモニアはアルカリ性の物質のため、酸性化していた老化細胞を中和してしまい、老化細胞を延命させてしまうのです。老化細胞は、酸化してしまった自分を中和することで生き延びるべく、GLS-1酵素を大量に発現させていると考えられます。

 老化細胞は、もう細胞分裂はしないため増殖はしませんが、SASP(=細胞老化関連分泌現象)を起こして炎症性タンパク質を分泌します。このSASPによって臓器や組織に引き起こされた慢性炎症が、加齢性の疾患の原因となってしまうのです。

 たとえば、脳の神経細胞での慢性炎症はアルツハイマー病などの認知症の原因のひとつとなります。目の組織においては緑内障や白内障などの加齢性の眼病の原因となり、あるいは血管の老化は動脈硬化のリスクを高めます。そのほかにも、呼吸器系の臓器においては心不全や心筋梗塞の原因となったり、肺の線維化が進んで弾力性を失い機能低下につながったりします。
 あるいは、血中のインスリンに対する感受性が低くなることで血糖値のコントロールがうまくいかなくなり、糖尿病のリスクも高くなります。
 さらには、加齢によって筋肉量が減少して筋力が低下する、いわゆるサルコぺニアの症状も一部は老化細胞のSASPによって進行すると考えられます。

◆老いの形が変わる可能性も
 老化細胞を活性化させてしまうGLS-1を阻害する薬を発見したことで、具体的に何ができるのかを考えました。
 まず思い浮かんだのが、早老症の患者さんへの投薬です。これは普通の人であれば80年かけてゆっくり老化していくところを、20年、30年で急激に老化していくという病気です。この早老症のひとつであるウェルナー症候群は国から難病指定されています。

 この病気の原因遺伝子は、すでに特定されています。正常なWRNヘリカーゼという遺伝子がつくられないために発症してしまうので,この遺伝子をすべての細胞に入れ戻すということが唯一の治療方法となるわけですが,数個の細胞に入れ戻す程度であれば可能でも,人間の全身にある60兆個もの細胞すべてに遺伝子を入れ戻すなどということは、ほぼ不可能です。

 その意味では、老化細胞だけを狙い撃ちして除去していけるGLS-1阻害薬を、難病ウェルナー症候群に苦しむ人たちの治療にぜひ役立てたいと考えています。そのほか、加齢に伴う腎機能不全によって人工透析を余儀なくされている方たちなど、ほかの治療法がないというような疾患に苦しむ方たちに優先して、GLS-1阻害薬を使っていきたいと考えています。

 高齢化が顕著な私たちの社会において、フレイルや認知症など,「老化細胞の除去」によって改善すであろう症状を抱えた方はたくさんいらっしゃいますから、症状に合わせた投薬が進んでいけば、それぞれの改善が見込めるだろうと思っています。

 いずれ,究極的には60歳や70歳になった方たちがみなさん投薬を受けることで、老化を遅らせる、あるいは老化現象を改善させる、といった形で薬が活用されていけば理想ですね。
 高齢になっても、老化細胞が蓄積されなければ炎症も起きず、臓器も筋肉も皮膚も若々しさを保つことかができると考えられますから。
つまり、この薬によって「老い」の形が、近い将来、変わる可能性があると私は考えているのです。

※本稿は、『老化は治療できる!』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

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