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“国営漫画喫茶”批判で一度は頓挫も…漫画界の巨匠「里中満智子」が訴える「あまねくすべての漫画家の原画を保存したい」 2023/09

2023-09-26 20:31:42 | なるほど  ふぅ〜ん

“国営漫画喫茶”批判で一度は頓挫も…漫画界の巨匠「里中満智子」が訴える「あまねくすべての漫画家の原画を保存したい」
 デイリー新潮 より 230926  新潮社


 今年に入って漫画の原画やアニメのセル画の保存に関する話題が盛り上がりを見せている。5月にはマンガ原画・関連資料の保管を目指す「一般社団法人マンガアーカイブ機構」の設立が発表され、8月14日付の読売新聞は、文化庁が来年度から日本の漫画の原画やアニメのセル画の収集に乗り出すと報じた。

 だが、実は2000年代にも、同種の施設の整備が議論されたことがあった。
日本漫画家協会理事長を務める里中満智子氏らが推進した「国立メディア芸術総合センター」である。この計画は2009年の民主党政権下で頓挫してしまった。
今、漫画の原画の保存に取り組む意義はどこにあるのか。里中氏に話を聞いた。

⚫︎「国立メディア芸術総合センター」の真相
――里中先生が推進されていた、おもに漫画の原画の収蔵などを行う「国立メディア芸術総合センター」の計画は、2009年に民主党政権下で頓挫してしまった経緯があります。

里中:国立メディア芸術総合センターは当時、世間の話題を集めました。具体的な案が取りまとめられたのは麻生政権のときですが、実は、アイディアの発端はその数年前、第一次安倍政権の頃までさかのぼります。
 私が政府の戦略会議に関わっていた縁で、内閣官房の人から「何か政府にお願いごとがあるなら話をしてみては」と後押しされ、漫画の原画の収蔵と管理に取り組んで欲しいと提言しました。この提案が、国立メディア芸術総合センターの原型になっています。

――里中先生の提言が基になっていたのですね。

里中:知的財産戦略会議の場で安倍総理にお会いして、具体的に要望しました。私が訴えた内容はこうです。古い漫画の原稿が劣化していて、特に黎明期の少年少女たちの心を育てた名作がちゃんとした形で読めなくなっていること。
 有名な作品はデジタル化もされて後世に残ると思いますが、漫画文化を世界に発信するためには黎明期の決して有名ではない作品も後世に残すべきであること。デジタルデータを作成し、100年、200年先の人にも作品を読んでもらえる状態にして欲しいこと。
 そして、今から始めれば原画が劣化してデータすらとれなくなる状態になる前にギリギリ間に合うので、すべての漫画の原画をデジタルでアーカイブ化して欲しいとお願いしたのです。

⚫︎あまねくすべての漫画家の原画を収蔵したい
――原画のアーカイブ化はなぜ必要なのでしょうか。

里中:国立国会図書館に行けば昔の雑誌が保管されていますから、アーカイブ化は不要ではないか、と言う人もいました。しかし、昔の雑誌は印刷の質が良くありません。長く書架で保管されている雑誌は紙質も劣化し、印刷が裏移りしているものもありますから、後世に伝えるにふさわしい状態といえるのか疑問なんですね。
 だからこそ原画をもとにちゃんとしたデータを残し、作品のアーカイブ化を進めるべきなのです。

――博物館が美術品や歴史資料を収集する際、収蔵の対象は学術的な価値や重要度が優先されます。里中先生はそうではなく、あらゆる漫画家の原画を残すべきだと考えたのですね。

里中:はい。あまねくすべての漫画が漫画の歴史を築いていると思うからです。読切を一作だけ残して消えた漫画家の作品も含め、可能な限り原画からデータをとってアーカイブ化し、読者の目に触れられる形で残したいと考えていました。
 幸いにも安倍総理は私の話に理解を示してくださり、文化庁に予算をつけてもらうことができ、ちばあきお先生や赤塚不二夫先生のご遺族にご協力いただいて原画の保存状態を調査するなど、水面下で様々なことを進めました。

――順調に計画が進んでいたのですね。

里中:福田政権を経て麻生政権になった時、麻生総理が「こういう事業を進めるときは箱があったほうがいい」とおっしゃったのです。私も、箱がないよりはあったほうがいいと思いました。保管と活用が両立できますし、原画の寄贈などの申し出に応えられる拠点になるためです。そして、箱をつくるなら、アニメ制作のスタジオを誘致したいとと思いました。
 新しいメディアアートということで、アニメやゲームの歴史も残すべきです。時代が流れると昔のゲームが遊べるハードがなくなる恐れがありますから、国が中心となって進める意義があると考えたのです。

⚫︎マスコミの攻撃で一転、悪者に
――里中先生のお話を聞くと、本当に素晴らしい提言だと思います。しかし、当時の世間の風当たりは強かったと記憶しています。
 民主党幹事長だった鳩山由紀夫氏は国会で麻生総理に向かって「アニメの殿堂」と発言し、マスコミも同調しました。

里中:計画を急きょ策定したものですから、文化庁が描いた青写真が世間から気に入っていただけなかったようです。民主党政権からは叩かれ、マスコミによって誤った情報が世間に出回りました。
 ちなみに、私は民主党に少しでも話を聞いてくださいと申し出たのですが、党員は誰一人として話を聞いてくれなかったんですよ。

――マスコミも「アニメの殿堂」「国営漫画喫茶」だと盛んに喧伝しました。政争のネタに使われた感が否めません。

里中:麻生政権批判の格好の材料として利用され、計画が潰れればいいという感じに世論も誘導されてしまったと感じます。テレビ局の取材に対して、「アニメの殿堂ではありません」と話をしたら、「世間的にはアニメの殿堂と言った方がわかりやすいので、そう説明します」と言われてしまいました。

⚫︎世間の風向きは変わったのか
――国立メディア芸術総合センターの計画が白紙になってから、漫画やアニメを振興しようという動きは政府内にあったのでしょうか。

里中:白紙になった後、計画を惜しむ声は多数聞きました。国会議員の先生方からは、海外でこれだけ日本の漫画が受けているから、国として何かやったほうがいいとたびたび言われました。
 しかし、一度流れた企画を復活させるのは難しいんですね。しばらくして、2014年に超党派のマンガ議連(マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟)ができました。麻生元総理が最高顧問をやっておられます。設立以来、地道に活動を続けています。

――年月が経ち、世間や政治家の漫画に対する見方も大きく変わったように思います。里中先生が今改めて、原画の保存の重要さを訴えるのはなぜでしょうか。

里中:先ほどお話したように、後世の人たちにしっかりと漫画を見ていただくためには、原稿が劣化しないうちに適切に保存し、アーカイブ化することが不可欠です。
 また、保存するための箱をつくればそれでいいわけではなく、著作権者の了解のもとで収蔵品を活用することも大切です。私は特に、1960~70年代の原画が心配なんですよ。漫画家が亡くなった後、遺族が不用のものとして、捨ててしまった話を何回も聞いていますから。

⚫︎原画の管理をどう行っているのか
――里中先生はご自身の原画を、どのように管理していますか。

里中:現在は空調管理できる部屋を確保し、原画を収めています。自力だけでなく専門業者に頼んでデジタルデータを作成して、自分でデータを保管しています。
 量が多くてしんどいので、まだまだ大部分はほったらかしになっていますね。デジタルデータ化はお金や手間がかかり、個人では簡単に進まないんですよ。

――里中先生は漫画界屈指の多作で知られますが、これまで描かれた原画の枚数はざっと見積もってどのくらいなのでしょうか。

里中:おそらく7万枚くらいはあると思いますね。なんであんなに描いたのか、自分でも驚くことがありますが、あるおじさん編集者から「女はちょっとしか仕事ができないんだろ」と言われて悔しく思ったのがきっかけかも。
 全世代に読んでもらいたいという思いもあり、世代ごとの雑誌に描くようになりました。頼まれたら断れない性格のせいかも知れません。最盛期は並行して連載を8本くらい抱え、少女誌はもちろん、青年誌も少年誌でも描いていました。描きすぎて同業者から心配されたほどで、時期によっては石ノ森章太郎先生よりも量を描いたかもしれません。そのせいで、何度か病気も経験してしまいましたが。

――まさに、魂を削りながら漫画を描かれたわけですよね。里中先生が原画の保存に情熱を燃やす理由もよくわかります。

里中:私の場合、出版社に精魂込めて描いた原画をなくされることがたびたびあり、大切に扱うようになりました。私は親から漫画家になることを反対されて、親に漫画を捨てられる経験も味わいましたが、それでも心を動かされた漫画は、親と攻防戦を繰り返しながら残してきました。

――だからこそ、子どもの頃に読んだ漫画に特別な思い入れがあるわけですね。

里中:私が夢中で読んだ作品の中には、今ではほとんど知られていない作品も多いんですよ。こうした今ではあまり語られなくなった漫画の中にも、名作はいっぱいある。
 黎明期の漫画家も熱意をもって描いていたのに、このままでは人々の記憶から忘れ去られる可能性があり、とても惜しいのです。そうした作品を多くの人に届けるためにも、原画の保存と活用が進めばいいなと望んでいます。

⚫︎原画を活用すれば日本の観光の目玉になる
――雑誌に載っただけで単行本化もされていない漫画の中にも、優れた作品はたくさんありますよね。

里中:世間に知られた作品だけでなく、あらゆる作品を残すことはその時代の文化を理解するうえで重要です。
 イタリアには、ルネサンスを産み出すうねりを感じさせる多くの芸術品が今も残されています。有名な作品だけでなく、無名の芸術家の作品も素晴らしいものがありますし、比較することでルネサンス期の芸術性の目覚めがいかに革新的だったのかが理解できるわけです。

――確かに、海外の美術館に行くとマイナーな作品もたくさん展示されていて、比較しながら鑑賞できるメリットがあります。

里中:建築物から彫刻、絵画に至るまで山ほど史料がありますし、お互いにどう影響を与え合ったのかを、実物を見ることで深く学べるのです。
 ルネサンスが世界の美術史において転換点だったことは、モノがあるからこそ饒舌に語れるわけで、なければ伝説になってしまうでしょう。今、それらの作品が観光資源になり、国がどれだけ潤っていることでしょうか。

――日本も同様に漫画の原画を残せば観光の目玉になり、イタリアやフランスなどに並ぶ観光立国も目指せるかもしれませんね。

里中:私は、漫画の原画は将来的には日本の財産になると思うのです。日本人の心を語るものとして、世界から評価されていくでしょう。
 私は若い人たちの漫画を読むと、わくわくするんですね。新しい表現がどんどん生まれてきて、昔ならマイナーと言われていた表現をも受け入れる読者層の広がりが実感できて、素晴らしいです。
 一方で、漫画が世間の評価を得るに至るまで、どれだけ迫害されていたのかは語り継ぐべきだし、その時代に描かれた現物を残して後世に伝えるべきでしょう。
 今の漫画を盛り上げることも大切ですが、漫画のルネサンス期といえる時代の作品も残していかないと、日本は文化国家とはいえないのではないでしょうか。


⚫︎国が管理すべきか、それともコレクターか
――里中先生のお話を伺っていると、施設の整備の必要性を実感します。
ただ、国立科学博物館の予算不足の問題が叫ばれているように、国の施設では原画を預かっても管理ができないのではないか、コレクターが所蔵していた方が大切にされるのではないかという意見もあります。

里中:予算不足の国の施設と熱心なコレクター、どちらが作品を愛しているのかといえば、それはコレクターに軍配が上がるでしょう。
 ただ、安全性でいえば国に勝るものはないのではないでしょうか。コレクターの方が大事になさっていても、公表してくださる気持ちがあるかどうかは人によりますし、死後に引き継いだ人がどう扱うかまではわかりませんから、確実な保管方法ではありません。

――出版社などの民間企業が中心となって管理する案は、どうでしょうか。

里中:出版社は民間企業ですから、膨大な原画を保管することは大きな負担になります。漫画家によっては原画を出版社に預けきりになっている人もいますが、小さい出版社だと「預けられても、保管が大変」という声もあります。倒産したときに差し押さえられて行方がわからなくなったり、中古市場に流出してしまった例もあるんですよ。
 こんなとき、若くて自分から何も言えない漫画家は泣き寝入りです。どこが主体となり保存するべきなのか、様々な議論を行ってベストな案を探るべきですが、私は現時点では国に勝るものはないと考えます。

⚫︎漫画家は国から何かされるのが嫌い?
――SNS上などでは、国や自治体が施設を整備することに対して漫画家やアニメーターの間からもネガティブな意見が出ています。なぜ、漫画家から反対意見があがるのでしょうか。

里中:漫画家は体質的に、お上に何かをしてもらうのは好きではありません。私も自分がこうした活動をしていなければ、提案に疑問を抱くかもしれませんから、うやうやしく祭り上げられるのは好きではないという気持ちもよくわかります。
 漫画家は読者に作品を読んでもらい、その方の心に残ることがすべてですので、権威的なものから遠くありたいという気持ちがあるのだと思いますよ。

――なるほど。その気持ちも理解できますね。

里中:評価が定着している美術や芸術に関しては、文化的な土壌や教養に必要だから残すべきだと言われれば、誰しもが賛同するでしょう。
 残念ながら、漫画はまだその域には達していないのかもしれません。ただ、私はそれでもいいと思うことがあります。
 伝統芸能は、もとは大衆娯楽だったものがほとんどですが、国に保護され、伝統が重視されるようになってからなんとなく近寄り難くなりましたよね。

――そういう意味では、漫画は権威にならないほうが文化の広がりという意味ではいいのかもしれませんね。

里中:私は漫画が権威になるのではなく、この先も、子どもがお小遣いで手軽に買える娯楽であって欲しい。だから、批判も結構なことだと思います。
 とはいえ、日本の文化なのですから、活用に向けたアイディアを出し合うことも大切だと考えます。繰り返しますが、私は漫画の原画の保存に取り組むことは、日本にとってプラスになる事業だと確信しています。
 ただし、本質は原画そのものを保存するというだけではなく、その原画をもとに作品を広く、長く世に残していく「活用」こそが、作品の生命を永遠に残す道であると考えています。



▶︎山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。
「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。

デイリー新潮編集部

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