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「朝日新聞の没落は他人事ではない」 グーグル日本法人元代表が指摘する「日本病」とは 『朝日新聞政治部』書評

2022-06-16 20:14:00 | 📗 この本

「朝日新聞の没落は他人事ではない」 グーグル日本法人元代表が指摘する「日本病」とは 『朝日新聞政治部』書評  辻野 晃一郎
  現代ビジネス より 220616


 ソニーでVAIOなどの大ヒット商品を手がけ、グーグル日本法人代表取締役社長を務めた辻野晃一郎氏が、「日本企業が没落する理由がこれを読めばわかる」と推薦する本が、『朝日新聞政治部』だ。
 同書は、朝日新聞政治部の元エース記者だった鮫島氏が、ある事件をきっかけに失脚し、会社に最後まで抗いながら退職するまでの出来事が生々しく描かれている。

⚫︎朝日新聞の凋落は「あなたの会社の凋落」に重なる
 圧倒的な面白さで読み応え十分なノンフィクションだ。新聞記者生活で鍛えられた鮫島さんの確かな筆力で綴られた本書は、一度読み始めたら引き込まれて止められない。ところどころで日本の政治史や事件簿を再確認しながらも、一気に最後まで読み進んでしまう。

 舞台は天下の朝日新聞社。ネットメディアの台頭に押されて凋落を続けるオールドメディアの「凋落の本質」が、鮫島さんという一人の反骨精神豊かなエリート政治記者の栄光と挫折を通じて生々しく描かれている。

 凋落の本質とは、詰まるところ「自滅」だ。諸行無常の世にあって盛者必衰は古くからの真理。変わるべきタイミングで変わることができない存在は、それが企業だろうが国家だろうが個人だろうが例外なく滅びていく。

 本書を単なる暴露本のようにネガティブ評価する人がいるようだが、そんな薄っぺらなものではないし、そうした解釈で片付けてしまってはもったいない。

 かつてなく大きな変動が続く世界の中で日本の埋没感は際立っている。それを裏付けるデータは多々あるが、例えば世界GDPにおける日本のシェアは
 1994年がピークで18%を占めたものが2021年は5%にまで下がった。
  本書にも指摘がある世界の国別報道自由度ランキングは、
   2010年の11位から2022年には71位へと大きく後退した。

 日本の埋没に有効な手を打っていくためにはその原因を探らねばならない。そのためには、日本社会や日本企業の内情をブラックボックス化させずに白日の下にさらけ出し、内包する問題を特定して検証する作業が欠かせない。そのような意味合いにおいて、本書は、日本の埋没が止まらない原因を解明するための好材料でもある。
 ここに描かれた「朝日新聞の凋落」は、その内情を知り尽くした鮫島さんによる勇気ある内部告発だが、それは鮫島さんにしか書けない「吉田調書」以上に価値ある「特ダネ」なのだ。

 本書が描く朝日新聞社の赤裸々な内情は衝撃的だが、どんな企業や組織にとってもけっして他人事ではないだろう。メディア関係者に留まらず、あらゆる経済人や企業人をはじめ、組織で働く人たちには是非読んで欲しい。読み終わったときに、「朝日新聞の凋落」は「自社の凋落」とも重なっていることに気付き、背筋が寒くなる読者も多いのではないか。

 私が鮫島さんの存在を知ったのは、国会議員の小川淳也さんを描いた映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』のオンライン上映を見たのがきっかけだった。映画の終了後、小川議員と鮫島さん、他に政治記者を一人交えた鼎談が収録されていた。
 同郷で高校の同級生という小川議員に対し、温かくもストレートで厳しめのコメントを穏やかな語り口で連発しているのが印象的だった。

 それ以来、ツイッターなどで鮫島さんのアカウントをフォローし、「SAMEJIMA TIMES」も時々見るようになった。ネットで発信される鮫島さんの主張や指摘には共感するところが多い。本書も、電子書籍だけでなく紙版が欲しくて発売と同時にアマゾンで入手しようとしたのだが、在庫切れになっていたので近所の書店に行って購入した。ちょうど一冊だけ残っていたことに縁も感じたが、実際に会ったことはない。

⚫︎私にも似たような思い出がある
 実は、かつて私も鮫島さんと似たような境遇を経験している。そのためか、本書の内容はとても他人事とは思えず、まるで自分に起きたことのように身近に感じながら読み進めた。

 私事となるが、私は1984年4月に新卒のエンジニアとしてソニーに入社した。以来、20年余にわたって同社で働くことは自分の生きがいであり人生そのものだったが、2006年3月に同社を退社し、米グーグルに転じた後、自分で独立起業した。

 私が全力で駆け抜けたかつてのソニーは、今の時代でいえばグーグルやアップルを凌ぐほどの勢いを持つ市場創造型の企業で、まさに日本の珠玉ともいえる誇らしくて偉大な企業だった。人がやらないことにこだわり、好奇心旺盛で個性豊かなエンジニアたちが、チャレンジを厭わず、困難から逃げず、数々の革新的な家電を生み出して世界を席巻した。
  (SONYホームページに掲載されている井深大氏とと盛田昭夫氏)
 しかし、創業者の井深大と盛田昭夫が相次いでこの世を去った後、求心力を失った同社のガバナンスは大きく乱れ、深刻な経営不振に陥る。
 その頃、私は執行役員手前のカンパニープレジデントという現場の青年将校のような役回りだったが、ソニーがソニーでなくなっていく過程に翻弄されながらも、なんとかソニーをソニーであらしめようと日々奮闘していた。

 手掛けた新製品が大ヒットして話題になりメディアの取材が殺到したり、CEOアウォードを受賞したりといった輝かしい場面もあったが、幾多の理不尽な目にも遭った。成果を上げ続けていたにも関わらず、社内政治に巻き込まれ、理由も告げられぬままいきなり役職を解かれて社内失業者のような扱いを受けたこともある。

 詳しくは『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(2010年 新潮社、2013年 新潮文庫)という著作に残しているが、ついには会社の戦略的失敗の全責任を押し付けられるような出来事があり退社した。その時の挫折感や敗北感は、長い年月を経た今でもまだ時おり古傷のように痛むことがある。

 本書の序章に、鮫島さんが奥さんとのやり取りをきっかけに「傲慢罪」という言葉を使って事の経緯を振り返るくだりがある。今から思えば、当時の私も若くしてカンパニープレジデントに抜擢されて将来を嘱望され、知らず知らずいい気になっていたのかもしれない。
 自分ではそんなつもりはまったくなかったが、周囲から見れば大手を振って社内を歩いているように見え、嫉妬や反感の対象になっていたとしても不思議はない。

 一方で、その頃のソニーにも明らかに会社としての傲りがあり、その傲りの陰に数々の油断や怠慢があったのも事実だ。その結果、経営不振が続いて経営陣が総退陣するという事態を招いた。鮫島さんは『「傲慢罪」に問われるのは、私だけではないと思った。
 新聞界のリーダーを気取ってきた朝日新聞もまた「傲慢罪」に問われているのだ』と述べているが、この辺りは鮫島さんの思いに近い。個人も会社も、最も恐ろしいのは「傲り」だ。あらゆる失敗は傲りに起因するといっても間違いはないだろう。

⚫︎時代の変化についていけず「適応障害」を起こす経営者たち
 ソニーを辞めたことは自分の人生の転機となったが、辞めたことでグーグルと出会う機会やさらには起業の機会にも恵まれ、はっきりとわかったことがある。それは、当時ソニーが抱えていたある種の病は、なにもソニー固有のものではなく、日本の家電業界や製造業界全体、あるいはあらゆる産業セクター、さらには日本国全体に蔓延している「日本病」とでもいうべき病だったということだ。
「傲慢罪」と並んで、この「日本病」こそが日本埋没の元凶ではないか。そして私の感覚では、政府の新型コロナへの一連の対応などをみていても、この日本病はその後も収まるどころか、全国でその深刻さの度合いを増していく一方だと感じている。
 本書を読んで、朝日新聞社も例外ではないことがよくわかった。

 日本病には主に二つの側面がある。
 一つは「過去の成功体験から抜け出せないまま過度に失敗を恐れて現状変更を嫌い時代の変化についていけなくなった重度の適応障害」という側面だ。
 そしてもう一つは「個人が組織や主君に滅私奉公するトップダウン型の関係性の中で染みついた受け身体質・自己犠牲体質とそれに伴う個人の委縮や思考停止の慢性化」という側面だ。
 たちが悪いのは、これらの合併症状として「実際は何もしていないか裏で別の事をしているのに、変わろうとしているフリややっているフリでごまかす」というものが加わることだ。隠蔽、偽装、改竄、忖度などが流行る理由もここにある。

 少し前、ツイッター買収絡みで世間を騒がせたイーロン・マスクが「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう(unless something changes to cause the birth rate to exceed the death rate, Japan will eventually cease to exist)」とツイートして物議を醸した。
 しかしこれは未来予測でも何でもない。現在の人口動態が続く限りは何世紀後かに100%確実に起きる事実だ。

 一つのわかりやすい事例だが、今の日本が直面している大きな課題は、このように「過去や現在の延長線上に明るい未来はない」ということがはっきりとわかっているにも関わらず、これまでのやり方を一向に変えようとしないことでこれが日本病だ。
 少子高齢化への有効な手立ては未だ何も打たれていないし、デジタル後進国などと呼ばれるありさまになったのもそのためだ。

 繰り返すが、日本病は日本全国に蔓延している。「吉田調書」でも暴かれた原発災害に向き合う東京電力の体質、朝日新聞社での「吉田調書」「慰安婦」「池上コラム」を巡るリスク管理の失敗、不正会計をきっかけに経営不振が続き崩壊寸前の危機にある東芝、森友問題における財務省の公文書改竄事件、東京五輪に関連した数々の疑惑や不祥事など、政官財学を問わず次々と起きるこれらの問題は、表の顔はそれぞれ違っていても、実はすべて「傲慢罪」や「日本病」が共通原因で発症したものといえるのではないだろうか。

⚫︎2014年9月11日、朝日新聞は自滅した
 朝日新聞社にも、吉田慎一常務のように、オールドメディアの凋落に備えて経営革新や組織改編を推進しようとしていた経営幹部は存在した。既存の政治部、経済部、社会部などの縦割りを廃して、記者クラブ依存の受け身体質や横並び体質から脱却し、調査報道や言論中心の紙面作りへの転換を構想していたという。
 それに呼応するように、鮫島さんも同社を変えようと奮闘した。エピソードの中に、鮫島さんが特別報道部に出戻った時に新たな組織風土作りに尽力したことが紹介されている。記者一人一人の主体性を尊重し、会議は減らし、記者が上司たるデスクを自由に選べるなど、自律走行型で風通しの良いスタイルを実現した。
 これは、フラットで上下や縦割りとは無縁なインターネット時代のスタイルに沿ったもので、グーグルの働き方にも通じる。実際、鮫島さんが刷新した特別報道部は息を吹き返して数々の成果をあげたという。

 しかし、その特別報道部も鮫島さん退社のタイミングで廃止された。そればかりか、鮫島さんも加わって梃入れしアクセス数を大幅に伸ばしたウェブメディア「論座」の編集長(吉田貴文さん。本書には多くの「吉田さん」が登場する)も解任されたという。
 結局、朝日新聞社は現状変更を拒み、変革のチャンスを逃がし、それを成し遂げる力のある人材を遠ざけている。まさに自滅への道だ。
 鮫島さんは、朝日新聞が「吉田調書」報道を取り消した2014年9月11日を「新聞が死んだ日」と位置付けている。この日は奇しくもその13年前にアメリカで同時多発テロが発生した日付と同じだ。
 2001年9月11日を境に世界は大きく変わったが、権力に屈服しバッシングに怯えながら、日本の大手メディアの劣化や機能不全はここ数年の間にも確実に進んでいる。

⚫︎ニューノーマルの時代に「たった一度の人生をどう生きるか」
 デジタルやネットはそれまでのすべてを変えた。フラットでオープンな時代を迎えて個人が伸び伸びと解放され,テクノロジーやデータを味方にして際限なくパワーアップできる時代だ。今やそれを十二分に理解した鮫島さんは,一人で「SAMEJIMA TIMES」を立ち上げた。
 まさに進むべき正しい方向に向けて次の一歩を力強く踏み出したわけだ。支援者や応援者もこれからどんどん増えていくだろう。鮫島さんには、是非日本のメディアやジャーナリズムを立て直す大きな一石を投じて欲しい。

 かく言う私も、鮫島さんより一足先に独立起業する道を選んだ。世の中の変化をチャンスと捉え、その変化に我が身を投じて自分の真の実力や運命を試してみたいと思ったからだ。
 人生百年時代といわれるが、平穏無事な人生よりも、新しいことにチャレンジして幾多の困難に行き当たる人生のほうが、脳や生命力が活性化して若さを保てるという。
 たった一度の人生だ。ビートルズの歌のタイトルにもある「The Long and Winding Road(長く曲がりくねった道)」はこの先もまだまだ続く。鮫島さんの新たな旅立ちに心からエールを送りたい。

 登場人物すべて実名の内部告発ノンフィクション『朝日新聞政治部』は好評発売中。朝日新聞の中枢が崩壊していく内幕が、赤裸々に綴られています。

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※※※※※※※※※※※ 追補  現代ビジネス より 220619

 新聞がつまらない理由は「客観中立」というウソに逃げ込むから 中島岳志×鮫島浩 『朝日新聞政治部』刊行記念緊急対談(2)
中島 岳志,鮫島 浩


 話題の書『朝日新聞政治部』刊行をきっかけに実現した、著者・鮫島浩氏と政治学者・中島岳志氏の緊急対談第2回。

 同書では、鮫島氏が朝日新聞の「特別報道部」を率いて、それまでの新聞社にない新しい「調査報道の形」を模索したことが書かれている。その一つの主眼が、「無難な客観報道ではなく、記者個人の主観を出すこと」だった。
それは「客観中立」を是としてきた新聞社の掟を破るものだった。鮫島氏のその挑戦について、中島氏が鋭い質問を浴びせる。(この対談の動画を「鮫島タイムス」で特別公開中)

⚫︎なぜ新聞には「主語」がないのか
中島 鮫島さんは三度、朝日新聞の特別報道部に身を置いていますが、一度目の経験を活かして、その後に戻った政治部でも調査報道をやろうとしたことを本書で知りました。

鮫島 「考・政党」と「探訪保守」ですね。民主党政権が誕生したとき、それまで温めてきた民主党とのパイプをフル活用する時だと思ったら、野党に転落した自民党のサブキャップに「留任」させられたことも、背景にあります。私は「降格」だと感じて当初は落胆したのですが、むしろ誰も注目していない野党・自民党を担当することは政治報道を変える好機だと思い直しました。

 <※対談はオンラインで行われた>
鮫島 「探訪保守」は、のちに新聞労連の委員長を務める南彰記者がメインライターで、参院自民党のドン・青木幹雄さんの地元である島根県出雲市を歩き回り、保守王国を足元から検証する「テーマ設定型調査報道」でした。

中島 私はその部分を読んで、学者として大変興味をそそられました。そこでは記事の「主語」が問題にされていたからです。
 普通の新聞記事は、たとえ署名があったとしても、その記者個人が「主語」で語ることはありません、でも「探訪保守」では、なぜ書き手がこのテーマにかかわるのか、なぜそこまでこだわるのかをしっかりと読者に提示しました。
 なぜ学者として,と言ったかというと,私もずっと,同じ悩みや疑問を抱えてきたからです。
 学者も論文や研究発表で、「私」を出してはいけないと必ず言われます。客観的なエビデンスに基づき、科学的に述べるべきだと。

 もちろん、そうあるべき分野もあると思いますが、たとえば文系のフィールドワークでは、「なぜ私(学者)はこのテーマを研究したいのか」が、そもそも最初から含み込まれている。そこには明確な「主語」があるのです。

鮫島 さすが中島さんです。実は私は同書の中で、そこをいちばん伝えたかったのかもしれません。
 朝日新聞を含めた新聞はよく、「不偏不党」「客観中立」が大切だと言います。でも、本当はそんなことありえない。どの記事を取材するか、どの記事を一面にするか、すべては選択であり、客観中立なはずはないんです。もともとが、新聞社はウソくさいことを堂々掲げてきたのです。

中島 たしかに読者も、朝日新聞に「完全なる中立」を求めているわけではないですよね。

鮫島 そのウソくささを白日の下にさらしたのが、ネットであり情報のデジタル化です。
 それまで大手メディアは、あらゆる情報を自分たちが独占して、それを一方的に送り付けていました。
 でもデジタル化によって世界中の情報がネット空間に飛び交い、情報の独占なんて誰にもできなくなった。
 それでどうなったか。「誰が」伝えているかが、きわめて重要になったわけです。完璧に客観中立な人物なんて存在しません。どのような考えを持ち、どのようなバックグラウンドを持った人物がこの情報を伝えているのかを明示しなければ、信憑性が落ちる時代になったわけです。

⚫︎「客観=逃げ」だと私は思う

中島 私はもともと朝日新聞の特別報道部に注目していました。それは、北海道警の不正を暴いた元北海道新聞の青木美希記者も、朝日新聞に転職して特別報道部に所属していたからです。私は北海道大学に赴任していたことがあり、青木さんとはその頃に知り合いました。

鮫島 私も特別報道部のデスクとして、青木さんと何度か組ませていただきました。新聞協会賞を受賞した「手抜き除染」報道は、青木さんが取ってきた情報が出発点でした。

中島 「手抜き除染」のスクープが青木さんだと知って、私は嬉しかった。札幌で何度か飲んで、彼女がすごくパッションのある記者だと知っていたからです。
 でも、青木さんのスクープがそうして世間から評価されたことは嬉しかったけど,ちょっと物足りなさも感じていました。それは,記事には彼女の「主語」が見えなかったからです。
 彼女がどんな「思い」でこの取材を始めたのか、そして実際に手抜き除染の現場を目にして、どんな「思い」を抱いたのか。そういうものが見えたら、新聞はもっと面白くなるのに、と思いました。
 青木さんは後に「手抜き除染」について、著書を書きましたが、それはもちろん彼女が「主語」で書かれている。ああ、そうか、新聞記者は、著作とか別のメディアにインタビューを受けるとかでないと、自分の言葉では語れないのか、と残念でした。

鮫島 だから新聞はつまらなくなったんです。吉田調書事件以降、朝日新聞はますます「偽りの客観中立」を標榜し、どこからも抗議を受けない差し障りのない記事を量産しています。
 先ほども言いましたが、そんな記事は今の時代、誰からも見向きもされません。これから必要なのは、「私は精一杯、私の見立てをデータと論理を尽くして示します。その私というのは、こういう人間です。伝えるにあたりできるだけ誠実に、フェアに、公平にありたいと思いますが、『私』の偏りは消せません。
 『私』の偏りがあることを前提に、それを割り引いて読んでくださいね」という姿勢です。そうしないと、読者の信用は得られない。ネット時代になって、読者の目は肥えているのです。

中島 吉田調書にもそうした「主語」、「私」があれば、展開は少し違ったんじゃないでしょうか。現場の二人の記者があの取材を手がけたときの「思い」とか、「意味」とかが伝わっていれば、あそこまで反感を買わなかったかもしれない。少なくとも、応援してくれる人がいたのではないか。

鮫島 おっしゃる通りです。そして,実際に私はデスクとして,それをやりたかったのです。

現場の二人の記者が、この3年間どんな思いで東電と向き合ってきたのか。東電の隠蔽体質にどれほど怒り、どれほど悔しい思いをしてきたのか。
 そうした現場の「思い」を含めて伝えられていたら、結果的にバッシングは受けたとしても、一部の読者の「強固な共感」を得られていたはずです。

中島 なるほど。たしかに、自分の旗幟を鮮明にすることによってしか、支持する人々は集まりません。

鮫島 「思い」を伝えることは、ある意味「攻める」ことです。攻めの姿勢で報じるということです。
 でも今の朝日新聞を見ると、「客観」に逃げ込んで、完全に守りに入っている。記者の思いを伝えようとする姿勢がカケラもない。
 そんな記事では,バッシングされることはないかもしれないけど,「パッシング」(無視)されてしまいます。「客観=逃げ」だと私は思います。

⚫︎立憲民主党はなぜ嫌われるのか

中島 鮫島さんは以前は「二大政党制が良い」と主張されていましたが、いまは「多党制が良い」と主張を変えていますね。
 これは私の想像なのですが、ひょっとしたら、二大政党制と巨大メディアは相性が良いのではないですか?

鮫島 その通りです。私もかつては「巨大メディアの記者クラブ」にどっぷり浸かっていて、二大政党制を支持していました。なぜなら、取材する側にとって、それがいちばん都合が良いからです。

中島 AかBのどっちかを選べ、ということですね。そして、新聞社はAとBに優秀な記者を張り付ける。

鮫島 いまや、大衆はAかBでは満足しなくなりました。二者択一の政治に飽き飽きし、どちらか一方を選ぶことができないのです。投票率が下がるのは当たり前でしょう。
 オールドメディアの「情報は俺たちが教えてやる」という啓蒙のスタンスでは、情報が溢れ、価値観が多様化する時代に対応できない。
 今、AもBも嫌だ、どっちもエスタブリッシュメントの味方じゃないか! という大衆の不満が渦巻いている。

中島 今の日本でBは一応、立憲民主党になるわけですが、たしかにあの党は大衆との「対話」が下手だし、それ以前に党内でのボトムアップがきわめて苦手です。
 若い議員が様々な新しい動きをしても、それが党の力にまったく反映されていない。パートナーズという支持者の組織を作りましたが、ボトムアップで候補者を決定したり、政策を作り上げたりといったことは、ほとんどできていません。結局は永田町、しょせんはエスタブリッシュメントと、有権者から見られてしまっても仕方がないように思います。

鮫島 日本の古い業界のトップに君臨しているリーダーたちは、完全に立ち遅れています。企業のガバナンスにしても、指示を押しつけるだけで双方向の対話がなかった。それで会社が回る時代もあったけど、これからはそうじゃない。

私は「吉田調書事件」でこてんぱんにやられたので、そのことに気づくことができました。一方通行では、大衆の意識と離れていくばかりです。だから、二大政党支持をやめて、政治的にも「転向」しました(笑)。
 でも、朝日新聞はあの2014年のバッシングを、「ズル」をして処理した。どんなズルだったかは、本書を読んでいただければすべてわかりますが、そうすることによって変わるチャンスを失ってしまいました。
 その結果、いまだに一方通行の記事を出し続けて、部数は減り続けています。

⚫︎朝日新聞と立憲民主党は、嫌われる理由が似ています。

中島 同感です。では次回はいよいよ、まもなく公示される参院選の話をしましょう。究極の双方向、山本太郎とれいわ新選組に、私は注目しています。


次回は明日更新『「死に体」野党の見どころは山本太郎だけ?』です。
登場人物すべて実名の内部告発ノンフィクション『朝日新聞政治部』は好評発売中。朝日新聞の中枢が崩壊していく内幕が、赤裸々に綴られています。

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