「食料自給率が過去最低」の日本、さらに深刻な米国依存の実態とは
ダイヤモンドonlainより 210916 垣田達哉
⚫︎過去最低水準の 食料自給率
8月25日、農林水産省は2020年度の自給率を公表した。カロリーベースで37%、これは一昨年と同じで過去最低だった。政府は、30年度には45%にするという目標を掲げているが、10年度から昨年度までの11年間に一度も40%を超えたことがない。あと10年間で8%引き上げるのはかなり難しい。
一方、生産額ベースは67%で昨年度より1%上昇した。30年度の目標は75%なので、こちらは達成できる可能性がある。しかし、重要なのはカロリーベースを引き上げることだ。
なお、カロリーベースと生産額ベースの違いは、カロリーベースは「1人1日当たりの必要な熱量(カロリー)を摂取するための供給熱量に対する国産食料の割合」、つまり必要なカロリーを摂取するのに国産の食料はどのくらい寄与しているかということだ。一方生産額ベースは「国民全体に供給される食料の生産額に対する国産食料の割合」になる。
では、どうして生産額ベース(67%)よりカロリーベース(37%)が30%も低いのかというと、生産額ベースでは国産の野菜や果物のウエイトが大きいからだ。国産の野菜や果物の値段は高いので、生産額ベースの寄与度は高いが、肉類よりもカロリーが低いのでカロリーベースの数値を押し下げることになる。
カロリーベースも生産額ベースも、自給率を見るための指標に変わりはないが、いずれにせよ、国産の食料では必要なカロリーの37%しか摂取できていないというのはかなり不安だ。
⚫︎輸入飼料に 依存する畜産物
農水省は、食料自給率を総合食料自給率(食料全体)としては、カロリーベースと生産額ベースという2つの「物差し」で計算しているが、品目別自給率では「最も計算しやすい」ということで、生産量(重量)ベースで計算している。
品目別では、カロリーや生産額を基にした数値は公表されていないが、農水省は生産量(重量)ベースでも大きな差はないとみている。
品目別を見ると、農産物と比べ、畜産物もそれほど低くない。
だが、飼料自給率を反映すると一気に低くなる。
畜産物は品目別に、生産量の自給率と飼料自給率を反映した自給率の2つが公表されている。20年度の自給率は、生産量ベースで牛肉36%、豚肉50%、鶏肉66%、鶏卵97%。だが、飼料自給率を反映すると牛肉9%、豚肉6%、鶏肉8%、鶏卵12%にまで下がる。
なお、飼料自給率(生産量ベース)は、上記を含む家畜全体でも25%とかなり低い。
牛の飼料は、牧草などが主体の粗飼料と穀物が主体の濃厚飼料である。粗飼料は国内で多くを調達できるので自給率は76%と高いが、濃厚飼料の主要穀物であるトウモロコシは100%輸入に頼っているので、自給率は12%しかない。豚も鶏も、配合飼料の主要穀物は、100%輸入のトウモロコシである。
スーパーなどの店頭で販売されているスイートコーン(食用)は、ほぼ100%国産なので、トウモロコシが輸入されているという印象はないかもしれないが、トウモロコシの輸入量は1年間(2020年)で約1577万トン、約3516億円(うち飼料用は約65%)もある。同年の輸入牛肉は約60万トン、約3574億円なので、重量は約26倍、輸入金額はほぼ同じ金額のトウモロコシを輸入している。
飼料を輸入できないと,肉類の自給率は10%を切ってしまうので,それに見合うだけの肉類(牛肉、豚肉、鶏肉)を輸入しなければ,供給不足となり肉類の価格が高騰することになる。
先述の通り、自給率が97%と非常に高い鶏卵も、飼料を反映すると12%まで極端に下がってしまう。
つまり、飼料が輸入できなければ、肉類も鶏卵も多くの国民が食べることができなくなるのだ。
⚫︎農産物の多くも 輸入に依存
農産物を品目別で見ると、自給率が高いのは、米(97%)、いも類(73%)、野菜(80%)、きのこ類(89%)など。一方低いのは、小麦(15%)、大麦・はだか麦(12%)、大豆(6%)、油脂類(13%)などである。
主食の米はほぼ国産だが、麺・パン・菓子類の原材料となる小麦、納豆・豆腐・みそ・しょう油などの原材料となる大豆、飼料として使われる大麦・はだか麦も、輸入の依存度が非常に高い。
農産物の化学肥料もほぼ100%近く輸入に頼っている。自給率に反映されてもよいのだが、影響力が低いということで自給率には反映されていない。だが、自給率の高い野菜も、多くは化学肥料の助けを借りている。
⚫︎自給率目標を引き上げる 四つの理由
「自給率が低いからといって、今までも輸入が途絶えたことがないから大丈夫」
そう安心している人は多いだろう。
では、国が自給率を少しでも上げようとしているのはなぜだろうか。
政府は2010年の閣議決定で、10年後の20年の自給率目標を、カロリーベースで50%、生産額ベースで70%まで引き上げるとした。その理由として下記の四つを挙げている。
(1)途上国では引き続き人口が増加 (2)バイオ燃料生産は引き続き増加の見込み
(3)地球温暖化は食料生産に影響
(4)世界の水資源の制約状況
そして、目標達成のために「国産小麦、米粉の使用割合の引き上げ(1割→4割)」「畜産物の飼料自給率の向上(26%→38%)」「国産食用大豆の使用割合を引き上げ(3割→6割)」などの政策を掲げた。
だが、いずれも達成できず、政府は2015年カロリーベースの目標を45%に引き下げざるを得なかった。生産額ベースは75%に引き上げられたが、食用の穀物や油脂用穀物、飼料用穀物の輸入が減少していけば、その目標の達成も危うくなるだろう。
特に、途上国の人口増加と地球温暖化の影響が懸念材料だ。世界の穀物(コメ、トウモロコシ、小麦、大麦等)消費量は、2000~01年度で18.7億トンだったが、人口増加により、10年後の20年~21年度では27.9億トンにまで増えている。それに伴い生産量も18.5億トンから27.7億トンに増やすことができたので、何とか供給できている状況だ。
しかし、10年間で10億トン近くも生産量を上げたということは、それだけ農地を開発したことになる。穀物を生産できる用地は、地球上でも限られている。生産量が飛躍的に伸びたのは、森林伐採により耕地面積が増えたからだが、森林を伐採すればするほど温暖化は加速する。森林伐採はいずれ近いうちに限界を迎えるだろう。そうなれば、人口が増え続ける中で食料不足が深刻化することは目に見えている。
⚫︎農作物の輸入は 米国に一極集中
これだけ自給率が低い日本が食料危機に見舞われていないのは、実は米国の依存度が高いからだ。
日本の輸入相手国の第1位は米国(約1兆5578億円)、第2位は中国(約1兆1908億円)だが、米国からの輸入の87%が農産物(1兆3624億円)で、中国(約6582億円)の2倍以上ある(2020年実績)。主な輸入品目の国別割合を見ると、米国が占める割合は、牛肉約42%、豚肉約28%、小麦73%、トウモロコシ約64%、大豆73%などだ。
農産物(畜産物を含む)の輸入は基本的に米国一極集中といってよい。
鶏肉自体は米国からの輸入はないが、米国からの飼料用トウモロコシが滞るようなことがあれば、国産鶏肉(生産額ベースの自給率66%)や国産鶏卵(同97%)に与える影響が非常に大きくなる。小麦や大豆も7割以上を米国からの輸入に頼っている。
コロナの影響で、米国の小麦などの輸入が心配されたが、国内需要も伸びなかったこともあり、昨年から今年にかけては、国内での供給不足に陥ることはなかった。
しかし、地球温暖化の影響は米国でも顕著で、今世紀に入り干ばつや高温・乾燥、豪雨などの天候不良は、たびたび起きている。
やはり、日本にとって自給率を向上することは最優先の課題である。
(消費者問題研究所代表 垣田達哉)