ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

ケネディスクール生の活躍

2007年08月02日 | 友人

  学期中は学校あるいは図書館に殆ど「軟禁状態」であったケネディスクールの学生達は今、世界中に散らばっています。

 教室で培った問題意識と専門知識をリアルワールドにぶつけ世界に貢献する機会として、あるいは視野を広げ、人間として成長するために、さらには将来の就職の足がかりとして、殆どの学生達は世界各地でインターンやボランティアに励んでいます。

 確かに、常にアドレナリンが分泌され、問題意識の固まりのようなケネディスクール生にとって、3か月もの長い夏休みは、ブラブラと観光をしたり家でくつろぐだけでは長過ぎるといえるでしょう。

 そしてここケニアでも、僕に加えて4人、インターンとしてケニア社会に貢献すべく活躍しているクラスメートがいます。

 そのうちの一人、アメリカ人のマイケルは、ケニア政府の総合戦略本部といえるNational Economic and Social Council (NESC:国家経済社会会議)で働くインターンとして、今後20年のケニアの進むべき道と、官民双方の役割を描く青写真、「Kenya 2030 Vision」の策定に、キバキ大統領直属のスタッフとして携わっています。マイケルの専門分野はHIV/AIDS対策。ケネディスクールで学ぶ前は途上国のHIV/AIDS対策を支援するNGOで4年間勤めていました。そしてこの夏は中国、タイでHIV/AIDS対策のインターンに励み、その知見を持って7月上旬からケニアに乗り込んできたとのこと。途中、実家に不幸があってカリフォルニアに戻ったことも考えれば、正に世界を駆け回っています。

 そして、もう一人が昨晩からお世話になっているケニア人のマルティン。ケニア最終日となる今日は、朝からマルティンがインターンとして働いているナイロビのStrathmore Business Schoolに案内してもらい、彼の活躍の様子を目の当たりにすることができました。

    

 ケニア屈指の私立大学であるStrathmore Universityのビジネス・スクールは、一昨年より、高校卒業したての学生を対象とした実践的な2年プログラムを立ち上げました。

 4年かけて学士号を取得してもビジネスに直結する知識や人脈がなくては目下の厳しい就職難を乗り切ることはできない。またそもそも4年分の学費を賄えるだけの経済力が家庭になく、政府や銀行の学資ローンも限られてる・・・

 こんな学生たちのニーズを背景に立ち上げられたこのプログラムのデザインを担当しているのがマルティンなのです。彼は、具体的なカリキュラム設定だけでなく、授業を担当する教授陣を、ケニア、さらにはヨーロッパ、アメリカから招致しています。例えば、6月25日には、ケニア政府と協働しつつ、競争政策の世界的権威であるハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授をケニアに招いて講演会を開催すると共に、Strathmore Business Schoolとポーター教授との間のコラボレーションの取り決めをかわし、将来のハーバード・ビジネススクールとStrathmoreとの間の単位交換制度の布石をつくったとのこと。このようなヨーロッパやアメリカの一流ビジネススクールとの単位交換制度の創設・拡充も彼が担う重要なミッションのひとつです。

 さらに彼は、学生の卒業後の進路を切り開く、出口政策にも関わっています。具体的にはケニアの大企業へ訪問し、インターンの受け入れ機会をつくるべく交渉に携わったり、企業の人事担当者に新設の2年プログラムの趣旨やコースの概要を説明して回り、そのクレディビリティ向上に努めているとのこと。

 正に大学の立ち上げ、創業の中核メンバーとも言える活躍を果たしているマルティンですが、彼がはいている“ワラジ”はこれだけではありません。彼は、実際にInformation Technology & Managementというコースを受け持つ教授でもあるのです。そして今日は、実際に“マルティン教授”の授業を“聴講”する機会に恵まれました。

    

 授業のテーマはITを使った新たなビジネス・モデルの提案とその効果的なプレゼンテーション、及びその提案内容に対するCriticalな検証というもの。マルティンはハーバード・ビジネススクールやケネディスクールと同様、実際のケースを用いて授業を進めます。

 具体的には、ケニアの携帯電話会社CeltelがITを活用して構築できる新しいビジネス・プランを考え、競合他社であるSafaricomに対する競争優位を如何につけていけるか、というきわめて実践的、かつ具体的な問題設定。マルティンは、時に学生同士にCeltelの重役と新しいビジネスプランの構築を任されたインターンというロールプレイングをさせたり、またその討議内容についてのコメントを学生たちから次々と引き出したりと、これまたケネディスクールの定番である「対話式」で授業を進めます。

 それにしても、本当に鼓舞されます。

  これまで一年間、ともに机を並べ、大量かつ難解なリーディングや課題にともに頭を抱え、しばしばアメリカ人学生達の発言に支配されてしまうクラスでのディスカッションに如何に貢献できるかともに悩んできた友人マルティンが、新しいプログラム作りのイニシアティブをとり、明日を担うケニアの若者の前で刺激的かつ本質的な授業を展開している。

 僕もますます頑張らんといかん、という気持ちで“マルティン教授”をながめていると、突然、マルティンから僕にコールド・コール(予告なしの指名)が。

 「今日は僕が留学中のハーバード・ケネディスクールの同級生であるYoichiroがきてくれています。彼は技術大国、日本からやっきた、しかも日本政府で財政・金融政策に携わってきたプロだ。彼から、皆にメッセージをもらいたい。」

ということで10分ほど話をすることに。

 真剣な眼差しを向けるケニアの学生たちに向かって、「日本といえば何を思いつきますか?」と冒頭に質問をしたところ、「G8のメンバー」「技術革新にたけた国」「生魚を食べる国」と次々と発言が返ってきます。その中で、一人の女子学生の発言は、僕の即席メッセージのテーマとなるものでした。

 「私は、日本は本当に強い国だと思う。なぜなら、敗戦で全てを失ったにもかかわらず、短期間で凄い経済成長をとげ、アメリカを脅かしているからです。」

という訳で、何故日本が敗戦から高度経済成長を経て、世界第二の経済大国になることができたのか、日本企業の大部屋主義、終身雇用制度や企業内組合を例に引き、アメリカの個人主義と対比させながら、グループ・ワークの大切さを話すと、学生たちは時にメモをとりながら熱心に耳を傾けてくれました。

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 忙しい中、わざわざ空港まで車で送ってくれたマルティン。別れ間際に卒業後の進路について彼と交わした会話は非常に印象的なものでした。

僕:「卒業後はやはりここに帰ってくるつもりなのかい?」

マルティン:「そうだね。冬休みも戻るつもりだし、このビジネス・スクールで働くつもりだよ。ここの仕事は本当にクリエイティブでエキサイティングだからね。」

僕:「例えば、米系の投資銀行とかコンサルティング・ファームは就職先として考えていないの?君のキャリアなら十分通用すると思うし、おそらく給与水準も雲泥の差だろ。それに投資銀行は自分を鍛えるには、最高の環境だと言われているけど、どうなんだろう?」

マルティン:「正直、その選択肢も魅力的なんだよ。ケネディスクールに通うために借りた借金も返さなければならないしね。一方、卒業後Strathmoreで働いたら、もらえる月給はおそらく2,000~2,500ドルくらい(約25万円前後)。もちろん、ケニアの水準からしたら相当高い部類にはいるけれど、学費ローンを返さなければならないから、手元に残る金額はかなり限られてしまう。

 でも、それでも、僕はケニアで働こうと思うんだ。なぜなら、ここが僕を必要としてくれているから。そして僕はケニアに育てられたから。

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 常に貪欲に自己研鑽に励み、高めた自分をして母国の将来と向き合うマルティンの姿勢と志。

 インド、ケニアで過した2か月にわたる「自己発見」「自己研鑽」の夏の旅の最後は、ケネディスクールの同級生からの、こんな熱いメッセージで締めくくられることになりました。


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2 コメント

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熱いですね (本山)
2007-08-08 00:12:58
お久しぶりです。
インド、ケニアでのインターンお疲れさまでした。
熱いブログを読ませていただき、思わずコメントを残したくなりました。ikeikeさんの益々のご活躍も期待しております!
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>本山さん (ikeike)
2007-08-15 17:46:53
コメントありがとうございます。僕も「船中八策」「Be Hungry」ともに愛読しているのであんまり久しぶりな感じがしません(笑)。本山さんの熱い志を貫徹しようというしなやかな意志の強さにもいつも鼓舞されています。お互い引き続き切磋琢磨していきましょう。
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