様々な大学や研究施設がひしめきあい、街全体が“知のクラスター”の様相を呈しているここボストン・ケンブリッヂ。日米間の相互理解、交流の深化を目的として1980年に設立された「US-Japan Program」も、そんな“知のクラスター”のアトラクションの一つです。
毎年、このプログラムを利用して中央省庁や民間企業、業界団体から選ばれた10名程度の中堅職員・社員がResearch Associatesとして、「知のクラスター」にある様々なリソースを活用して研究活動を行っています。また、毎週1回、火曜日のお昼に日米に係る様々なテーマで開催されるセミナーもUS-Japan Programが提供する大きなバリュー。
去年はちょうど授業と重なってしまっていて一度も参加できませんでしたが、今年は授業の合間にあたるため、毎週送られてくるセミナー予定表をチェックしては、時間の許す範囲で自分の興味にまかせてセミナーに参加し、知的好奇心を満たしています。
そして先日の日曜日の午後、いつも通りメールで送られてきたUS-Japan Programのセミナー予定表をみると、今週のテーマは「The Future of Japanese Economy (日本経済の未来)」という中々面白そうなトピック。
いったい講演者は誰なのだろう?とメールをスクールしたところで、目が点になってしまいました。
Christopher Winship!?
ひょっとしてあのクリス?
肩書をみるとU.S Department of Treasury(米国財務省)のDeputy Director(課長補佐)。間違えありません、今から3年前、一緒に机を並べて仕事をした旧友クリスその人です。
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日米間、特に政府間の相互交流と相互理解を深めることを目的とした「Mansfield Fellowship Program」という研修制度があります。
これは元駐日米国大使であり、米国上院議員として活躍されたMike Mansfield氏が立ち上げた研修制度で、毎年10数名のアメリカ連邦政府の若手職員が1年間、日本語・日本文化の集中特訓プログラムを受けたあと、日本の中央官庁や日本銀行、政治家の事務所に“マンスフィールド研修生”として派遣されています。
彼らは1年間の日本滞在や日本政府での勤務経験を通じて、日本の政策決定過程を学ぶとともに、日本の政界、官界、経済界、学界等様々な分野のプロフェッショナルとのネットワークを築く事を期待されています。
* * *
それはちょうど3年前の今くらいの時期でした。係長として働いていた僕の耳に「マンスフィールド研修生」なる“ガイジン”がやってくるらしい、という噂が飛び込んできたのは。当時エキサイティグな仕事を楽しみつつも、案件がドメスティック(国内)案件ばかりであったことに少なからずフラストレーションを抱えていた僕は、この話に飛びつきました。
「是非、僕をその研修生の世話役として使ってもらえないだろうか?」
幸い当時の上司と人事部の先輩は快くO.Kを下さり、かくして僕ははるばる米国からやってきた研修生と握手を交わすことになります。そしてその相手が、今日、US-Japan Programが提供するセミナーの講演者として日本経済を語るクリスだったのです。
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会場で今か今かと入口を見つめていると、登場しました。昔と変わらない懐かしい顔!クリスも僕を見つけ、懐かしそうにこちらに駆け寄ってきました。久しぶりにかわす握手。
「今日の講演、楽しみにしているよ!」と発破をかけると
「いやー、僕の話はBoringだからあんまり期待しないでよ」と相変わらず謙虚なクリス。
講演は、彼の日本政府で働いていた時の体験談から始まりました。僕のことを講演の中でも紹介してくれつつ、
「日本の中央官庁の職員が、お昼時になると課長を先頭に一斉に連れ立って食堂に行き、皆でスゴい速さで昼食をとってまたすぐ仕事に戻るので、慣れるまで大変でした。」
「同僚職員と夜中の2時、3時まで働き、その業務量に圧倒されたけれど、出来上がったアウトプットの完成度の高さ、スキの無さには本当に驚かされた。」
といった話をすると会場も笑いに包まれます。セミナーがオフレコということもあり、講演の詳しい中身については、ここでは紹介することができませんが、さすがクリス。洞察力に満ちた視点で日本経済の課題と解決策を示していきます。
30分以上にわたった質疑応答でも日本人の参加者から次々と難問が提示されますが、知識と経験に基づく自分なりの見解をウィットに富む表現で示していく姿に思わず友人として誇らしさを感じました。
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1時間半の講演を終えたあと、二人でコーヒーを飲みながら久しぶりの再会の時間をゆっくりと楽しみます。
彼は現在、自他共に認める中国通であるポールソン財務長官の直下のプロジェクト・チームのメンバーとして、対中国政策にかかわる調査・企画を担当しているといこと。仕事はエキサイティングで楽しいよ、と顔を上気させながら彼は語ってくれます。一通り彼が近況報告を終えると、今度は
「ケネディスクールはどう?」
とクリスが僕の近況を尋ねます。クリスは僕と同じ年ですが、実はケネディスクールの卒業生でもあるのです。彼は僕がケネディスクールに出願をする際に、多忙な中エッセイ作成のブレーンストーミングに何度もつきあってくれ、数々の貴重なアドバイスをくれたりもしました。
「最後に会ったのはいつだっけ?」
と二人で思い出してみると、実はある国際交渉の場であったことに気付きました。上司の代理として初めて国際交渉のメイン・テーブルにつき、緊張しながら「米国側代表は一体どんなタフ・ネゴシエーターがやってくるのだろう・・・」と戦々恐々としていると、テーブルの反対側についたのがクリスだったので、二人してブっと吹き出してしまった・・・、とても懐かしい思い出です。当時彼はマンスフィールド研修生としての研修期間を終え、米国大使館で経済担当官として勤務していたのです。
時に、雑然としたオフィスで机を並べてともに汗をかいた同僚であり、時に国際交渉の相手方としての緊張関係にあるカウンターパートであり、そしてまた時に僕の留学準備を一生懸命手伝ってくれた友人として、様々な場面を共有してきた二人が、今こうしてボストンの地でコーヒーを飲みながら思い出話に花を咲かせている・・・何とも愉快です。
「ワシントンDCの家は部屋が余っているから、ぜひ泊まりに来てよ」、「ウン、卒業前には絶対に遊びに行くよ」と言いながら、しばしの別れの握手を交わす二人。
落ち葉の舞う街路を空港に向かって去っていく旧友の後姿を見送っていると、寝不足続きなのに不思議と爽やかな活力でハートが満たされていくのを感じます。厳しい中間試験シーズンもあと1週間。旧友との思いがけない再会からもらった活力を胸に、僕は大学の図書館に向かって足を踏み出しました。
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とても心が温まると同時に、
自分も誠実に仕事を行っていこう、
仕事でクリエイティブでいよう、
知見と人生を広げるために日本をとび出そう、
という思いを強くしました。
ありがとうございます。