ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

韓国人と日本人

2006年11月29日 | 友人

 ケネディスクールに来て以来、韓国人の友人に対して尋常ならぬ親近感を抱いていること(“片想い”でなければよいですが・・・)については、「Japan Korea Trip 2007」でも触れましたが、今日また、一人の韓国人の友人と非常に印象的な時間を過ごすことができました。

 キム・ソンフンさんは、同じMPP(Master of Public Policy)プログラムに所属する二年生の先輩。韓国では外交通商省の外交官として4年間活躍してきました。僕が今学期苦戦を重ねるミクロ経済学で、昨年成績優秀だったため、今期はTA(Teaching Assistant)として毎週1回質問コーナーを設け、“悩める一年生”たちをサポートしてくれています。

 今月の上旬の中間試験の直前、過去問の中でどうしても晴れない疑問点にぶつかり悶絶していた僕を、「快刀乱麻を断つがごとく」のクリアな説明で助けてくれたのが彼でした。さらに、晴れやかな気分で家に帰ってメールを開くと、「さっきの質問に関する点で、文献のここを読んでおくと更に理解が深まりますよ。あと、その際の留意点を紙にまとめてみたので一緒に添付します」という彼からの本当に親切なメッセージが届いていたのです。

 また、その日のやり取りの中で、彼が日本について非常に強い関心を持っていること、また、彼が日本語に堪能であることが分かり、「中間試験が終わったら、是非もっとゆっくり話をしましょう」と言って別れた経緯がありました。という訳で、今日はもう一人の日本人の友人を誘って3人で昼飯に繰り出し、約1時間半、韓国・日本の文化、国民性、宗教についてや、日韓関係のこれまでと今後について、授業の時間が迫るのも忘れて盛り上がりました。以下では強く印象に残った彼とのやり取りを紹介していきます。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【日本人と韓国人の国民性】

筆者:「ここに来てから、韓国人と日本人って行動様式や考え方が近いなぁ、って感じていて、本当に親近感が沸くんですよ。」

彼:「確かにそうですね。「人種の坩堝」の中にいると殊更そう思いますよね。でも、僕は、韓国人と日本人って対人関係に対する基本的な違いがあると思ってます。」

筆者:「例えばどんな?」

彼:「日本人のお母さんが、幼稚園に入る子供に一番強く言い聞かせることって、「人に迷惑をかけるのだけはやめなさい」ってことだと思います。日本人って、小さい時から他人に気を使うように常に言い聞かされて育っているように思う。一方、韓国人のお母さんが子供に言い聞かせるのは、「イヤな思いをしたらはっきり相手にそう言いなさい」ということです。つまり、日本人と比べると結構「ずうずうしい」ところがあるんじゃないかな(笑)。」

筆者:「確かに日本人は「恥の文化」と呼ばれることあって、人目をかなり気にするところがありますね。韓国人のそういう国民性ってどういう背景を持っていると思いますか?例えば、歴史や宗教とか。」

彼:「韓国って、本当に地理的に難しいところに位置しているんですよ。強大な中国・ロシア、そして日本。歴史的にこうした国々の争いに巻き込まれ、また支配されてきたので主張しないと生きていけない、っていう意識があるのじゃないだろうか。」

【日本語】

筆者:「しかし、ソンフンさんの日本語はすごいですよね。例えば、さっき口にした「受験浪人」とか「先輩・後輩」っていう単語って、英語でニュアンスを表現するのが難しいので、すごくコミュニケーションがスムーズになって嬉しいです。どうやって勉強したんですか?」

彼:「僕の“日本語教科書”は、実はマジンガーZやガンダムなんですよ(笑)。小学校のときからメチャクチャはまってました!(しばし、アニメに登場するロボットの名前や特徴などマニアック話が続く。筆者と日本人の友人はついていけず・・・)

     

 僕が思うに、当時のロボットアニメのストーリーって、大体ワンパターンなんですよね。「ある時突然、宇宙人や怪獣が理由もなく攻めてきてヒドイことをする。そういう侵入者からの理不尽な攻撃に対して、正義の味方がたった一人で立ち向かう」っていう設定。考えたのだけど、こうしたアニメの作者って戦争の時、つまり1930年代後半から40年代前半にかけて少年期を過ごした共通の体験がある。彼らの幼いときの体験、つまり「何だかよく分からないけど、外国の飛行機(=宇宙人や怪獣)が飛んできて、理不尽に爆弾を落として町をメチャメチャにする」という体験と、「誰かにこれをやっつけてほしい」という無意識の思いが、アニメ創作の背景にあるんじゃないかと思うんですよ。」

【韓国の宗教】

筆者:「ここに来て驚いたのは、韓国人の友達に敬虔なクリスチャンが多いということ。日曜日も家族そろって欠かさず礼拝に行っているようだし。」

彼:「確かに、韓国人の4人に一人はキリスト教徒といわれていますね。」

筆者:「疑問に思うのは、儒教との関係。儒教は宗教ではないけれど、韓国人の価値観や行動様式に最も強い影響を持っているでしょう。年齢や地位に基づく上下関係や礼節、社会の秩序を重んじる儒教的な価値観と、「神の下での平等」を説くキリスト教の思想がどうして上手く同居するんでしょう?」

彼:「もともとキリスト教は18世紀後半から19世紀前半にかけて中国から韓国に入ってきたのですが、当時は西洋文明を知るための「社会科学」として学ばれていたようです。それが、19世紀後半から20世紀前半にかけて、食糧難や生活苦、さらには日本による植民地化による「国の消滅」を経験する中で、キリスト教を自らの信じる新しいアイデンティティ、つまり宗教として受け入れる韓国人が増えていったということだと思います。

 キリスト教と儒教の関係は重要な指摘で、要は両方とも大切なんですよね。ですから、韓国人はそれらが両立するように、独自のキリスト教を創ってしまっています。例えば、西洋ではプロテスタントはカトリックと比較して教会内の上下関係がフラットであると思いますが、韓国のプロテスタント教会は強いヒエラルキー構造を持っています。」

【日本に対する想い】

彼:「別にお世辞を言うつもりは全然ないんですけど、今の私があるのは日本のおかげだと、自分は思っています。」

筆者:「それは何故?マジンガーZに啓蒙されたとか?(笑)」

彼:「実は、最初あったのは日本に対する負の感情でした。私が最初に日本を訪れたのは平成3年。バブルが崩壊したとは言ってもその経済力には凄まじいものがありました。そういう日本を目の当たりにして、『かつて国を植民地にした日本。国土が焦土になってしまうまでの敗戦を経験した日本。中国やロシアと比較してとても小さな隣国日本。そして、世界第二の経済大国日本!それに比較して韓国はいったい何なんだ!』という恨みと嫉妬とコンプレックスが入り混じった複雑な感情を抱いたものでした。当時私は、「並の学生」だったのですが、この感情を晴らすために勉強に打ち込み、今のキャリアの基礎を作ることができたという訳なんです。

 ただ、勉強をすればするほど気付いたのは、当時自分が抱いていた、ナショナリズムが視野の狭いものであり、長期的な韓国の利益に資するものではないということ。もっと日本のことを深く理解したうえで、韓国の主張を伝えていく「オープンなナショナリズム」が必要だという思いに至りました。

筆者:「それは本当に重要な気付きだと思います。ただ、ソンフンさんが韓国に戻ってから「オープンなナショナリズム」の大切さについて同胞の皆さんに訴えたとき、共感を得られると思いますか?」

彼:「それはなかなか難しいと思います。多くの韓国人が抱いている思いは、かつて私が抱いていたものと同じですから。また、現在の政権は自らの政権基盤を固めるために、こうした韓国人の思いを煽っているように見え、それは大変危険なことだと思う。」

筆者:「日本の政治リーダーの言動が、そうした傾向に拍車をかけているのかもしれませんね。」

彼:「正直、そこは私にとって理解が難しいところです。マジンガーZではないですが、多くの韓国人は日本のアニメや映画、音楽が大好きです。そういう意味では、日本は本当に魅力的な国なのです。しかし、靖国神社への首相の参拝など、一部の政治家の言動がそうした魅力を損ねているのは事実で、それは日本が国益を達成するためにはマイナスなのではないですか?」

筆者:「確かに、例えば「国連安保理の常任理事国入り」などの国の目標を達成するための「費用対効果」の視点から考えると、そうした言動はナンセンスと言えるかもしれませんね。しかし、事はそんなに単純ではありません。

 僕は、多くの日本人は、先の大戦の中に自らを位置づける時、韓国や中国を侵略した加害者であると同時に、東京大空襲や広島・長崎への原爆投下などによる無差別殺戮の被害者でもある、という相矛盾した思いを抱えていると思っています。

 また、戦時中の政治リーダーをA級戦犯であると裁いた極東国際軍事裁判についても、弁護士も付けないまま、勝者が敗者を一方的に裁いた不当なものであると考えている日本人も少なくありません。日本の政治リーダーのナンセンスに見える行動も、こうした日本人の複雑な感情を踏まえて考えてみると、別な見方ができるかとも思います。」

彼:「極東軍事裁判のことは私も勉強しました。確かに難しい問題だと思います。戦犯として裁かれた人の中には朝鮮人も含まれているんですよね。」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 お互いの家族や趣味などの身近な話題から、靖国参拝など難しい問題まで、1時間半以上にわたり彼と話すなかで、「複雑な問題を様々な角度から考え、当初の自分の考えや価値観と異なる見方でも、受け入れる努力をし、その上で、自分の意見を丁寧に展開することのできる、本当に精神的に成熟した人だな」と感じました。

 もう11月の末だというのに、穏やかな日々が続くこのごろ。お店を出ると、暖かな日差しの下、半そでの学生もちらほら見られる今日の気温は17℃。韓国人に対する気持ちが「片想い」でないことが分かりほっとしたと同時に、「真摯に学び、謙虚に耳を傾け、そして堂々と主張することのできる日本人」でありたいという思いを強くした、暖かな昼食のひと時でした。

    

 先ほど、彼からメールが届きました。

 「今日は、中途半端な知識なのに、色々日本についてしゃべってしまって少し恥かしいです。でも、話ができて本当によかった。これからもケネディスクールの内で外で、時間と考えを共有していきましょう!」

 ソンフンさん、こちらこそ、これからもよろしく!


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (satsuki)
2006-12-02 22:18:26
仕事半分、趣味半分で朝鮮半島に関心を持ち続け、現地メディアを理解可能な程度には韓国語も勉強しているため、連続投稿させて頂きます。

日本国内での韓国への関心度は、W杯あたりを境にして大きく高まったと思います。ただそれでも、依然として「冬ソナやチャングム」「キムチと焼肉」、政治面では「反日・反米」イメージあたりが一般的なところでしょうか。

前回のコメントと重なりますが、危険なのは、それでいて「韓国を理解したつもり」になってしたり顔で語ってしまうことです。両国間には確かに共通点も多いですが、互いに決して理解できない点があることもまた事実です。

自分も留学時は、外交通商部の役人を含む韓国人クラスメートから多くのものを得ました。キム・ソンフン氏との今後の対話や夏のtripのような機会をぜひ活用してください。
返信する
Unknown (本山)
2006-12-02 23:52:19
ikeikeさん、こちらでは初めてのコメントになります。
毎日よくこんな読み応えのある記事が書けるなぁと関心しております。とても興味深く読ませていただいています。

韓国との「近さ」と「違い」・・日韓の二国間関係のみならず、国際社会における両者の有機的な役割を議論できていけたらいいですね。

アニメの話は典型的ですが、外交官からそういう話を聞くと、「ソフトパワー」になり得ないか?と、考えてしまいますね。ヴォーゲル塾での議論も楽しみにしております。
返信する
>satsukiさん (ikeike)
2006-12-06 12:36:04
前回に引き続き、貴重なコメントをどうも有難うございます。またお返事が遅くなってしまってごめんなさい。
 断片的な情報や経験で「理解したつもり」にならないこと…ソクラテスの「無知の知」ではないですが、常に頭においておくべき金言ですね。この貴重な2年間を通じて、謙虚にかつ貪欲に様々な知識を吸収していきたい思っています。
 ケネディのコースワークも厳しいですが、社会で現実に起こっている問題に直面しているsatsukiさんのお仕事はよっぽど精神的にも肉体的にも厳しいかと思います。お体に気をつけてご活躍下さい。
 今後ともよろしくお願いします。
返信する
>本山さん (ikeike)
2006-12-06 12:39:45
本山さんからコメント頂けるとはうれしい!こちらも「Road to Harvard」いつも楽しく拝見させてもらっています。更新が楽しみでF5ボタンを連打しちゃったりしてます(笑)。
 ソフトパワーの研究もどんどん加速させていきたいですが、僕たち一人ひとりが、日本の「ソフト」として力を発揮できるよう、研鑽を積んでいきたいですね。ボーゲル塾で、またそのほかの機会を通じて、これからもともに切磋琢磨していきましょう。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。