遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

壁の役割

2013-01-08 20:09:16 | BIONEWS
東大など、麹菌どうしが連結するための隔壁の穴を開閉する仕組みを解明(マイナビニュース) - goo ニュース
糸状菌の分類の最初の項目は「隔壁(septum)があるか」です。今はDNA配列でやれるので、形態による分類学は廃れているんですが、生命の形というのは形態によく現れるので重要だと思いますよ。「お前のやってた酵母なんか、丸いだけじゃないか」と言われるかもしれませんが、形はちゃんとあります。丸いだけじゃなくて卵形してるし、一倍体と二倍体ではちょっとちがう。プロなら分かるはず。そもそも出芽の仕方が、monopolarかbipolarかという違いがあります。
この研究は麹カビを使っています。隔壁を持つ糸状菌ですな。隔壁がないなら細胞はどうなってるかというと、区切りがないので多核となってます。じゃあ、隔壁があるなら一核かというとそうとも限らないんですな。二核体dikaryonのカビ細胞なんて普通にあります。binucleated cellという言い方もありますが、こっちは動物細胞で使われることが多いんじゃないだろうか。
このカビ細胞の隔壁のあり方というか、機能がなかなか難しいのです。区切りとしてあるだけじゃないかと思われるかも知れませんが、顕微鏡でしっかり見たら穴があいてて通々だったりするのだ。何のためだ?
この研究はそこんとこのふしぎにひとつの答えを与えてくれるものです。細胞小器官「オロニン小体(Woronin body)」が隔壁の穴を開閉して細胞間の連結を制御している仕組みを発見し、さらにこれによって麹菌が酵素を生産するために働く細胞と休む細胞を区別しているということだそうです。
単細胞生物は自分で栄養を摂取して自分で分裂して増えないとどーしょーもないとこですが、多細胞生物は分裂して成長する細胞と他の役割を持つ細胞に役割を分担させる(細胞が分化する)ことで生きていけることですね。原始的に飢餓から細胞達が生き残る手段として単細胞達が集まって多細胞に・・・たぶん栄養をストックする細胞と分裂して増える細胞に・・・。多細胞化するなら細胞間を繋がないといけません。しかも連携出来てないと多細胞化した意味がない。カビが細胞間の隔壁の穴を開け閉めして、働く細胞と休む細胞を分けてるなんて面白いな。たぶんそうして細胞と細胞の連携をうまくとるようになったのでしょうなぁ。
麹カビの培養液ってのは酵素の宝庫でして、学生時代にやった実習の精製実験の題材にあてがわれた覚えがあります。こういう酵素分泌細胞の研究が進めば、アミラーゼ採りたい放題♪ かもねー。

本日のお酒:KIRIN LAGER + 立山 特別本醸造
コメント
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