遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

iPSじゃない"iPS"

2011-05-27 21:22:13 | BIONEWS
遺伝物質の断片ふりかけ、安全・簡単に万能細胞(読売新聞) - goo ニュース
iPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell:直訳すると『人為的に誘導された多機能性幹細胞』)の話はこのブログでたびたび出してるんで・・・覚えてないっすよね・・・。ウィルスベクターに乗せた遺伝子を導入することで、普通の体細胞を何にでも分化できるように初期化した細胞(つまり幹細胞)に変換する技術。しかし、導入する遺伝子のひとつが『癌遺伝子』だったりするのでメチャメチャ癌化しやすく、そこんとこだけは問題だったわけっす。
その後いろんな解決方法が提案されたんですが、この記事のは日本の新技術♪ マイクロRNA(miRNA)ってのを使う方法です。約1000種類の存在が知られているmiRNAの中に、分化済みの細胞をiPS細胞に変化させるものがあるのではないかとの仮説を立てて研究。調査可能な500種類以上の中から、iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)にはあるものの、分化済みの細胞にはないmiRNA約15種類を突き止めた。(毎日新聞のサイトより引用)そっから3つを絞り出し、それぞれ人工合成して細胞にぶち込むことで細胞の初期化に成功したってわけ。
生物は数千数万の遺伝子の組み合わせであらゆる生命現象を司っていて、遺伝子単品の機能を解析しただけでは、本当の機能がよくわからないです。それぞれがともに発現し相互作用を通して命のハーモニーを奏でるわけ。遺伝子工学技術が出たばっかりの頃は、遺伝子を穫ってくるだけで評価されたものですが、今は複数の因子の関連性を示さないと話になりません。しかし、山中先生が最初に4つの遺伝子の組合わせを見つけるだけでもたいへんな評価をされたことからも、複数因子の組み合わせを見つけ出すだけでも簡単なことではないんですな。この記事で出されたRNAは、安定性が低くハンドリングがDNAよりも難しい物です。ただし、分子的に小さく、人工合成可能なmiRNAは試薬と混ぜて細胞にフリフリっと振りかけるだけで作業が完了するので技術的なアドバンテージが高いと言っていいでしょう。
miRNAはwikipediaみても分かりにくいでしょうね。DNAにはタンパク質になる配列を規定した領域以外にもRNAを生産する部分があって、そこで出来るRNAは、タンパク質を作るRNA(メッセンジャーRNA)を分解する作用があったりするのです。んで、こいつを使ったわけです。導入したmiRNAが体細胞が初期化された状態に戻らないように保っている仕組みを抑えたと予想できるんですが、そっちの基礎研究の方が僕は興味があるなぁ~。

人間の皮膚から神経細胞…iPS細胞使わず成功(読売新聞) - goo ニュース
ついでにもうひとつ。なんしか人為的に必要な細胞を作るのに穫ってきた細胞を初期化して(幹細胞にして)から目的の細胞を作り出さないといけないんですが、米国のスタンフォード大のグループはそこんとこをスキップしてしまった。皮膚細胞から直接神経細胞を作り出したのです。これも4つの遺伝子を導入することで細胞を変身させたということでは、山中先生のiPS細胞技術の延長線上にあるといっていいでしょう。こういう風にひとつ新しい技術が出ると発展的に利用したり、それとは別の方法が試されたりして技術が進歩します。そのためには、とにかく最初の発見が重要な意味があるわけですね。ですから、科学の世界では「誰が最初か」が重要視されるのです。

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