今週の読書！ 歩道橋の魔術師／夏の沈黙／あなたが消えた夜に

　今週は、この３冊。

■歩道橋の魔術師／呉明益　　2015.8.1

　白水社が出版する本は、バカ売れすることはないかも知れないが、良質なものが多い。
これはきっと編集者の本に対する見識の現れではないだろうか。
商業主義のはびこる出版界で、出版に対するたゆまぬ経営努力と良質な本へのあこがれのなせる技か。
今回も、呉明益さんの優れた作品『歩道橋の魔術師』を楽しませていただいた。

　魔術師は二つの目で違う方向を見ながら言った。「それはわたしにもわからないな。小僧、いいか。世界はずっと誰にも知られないままのことだってあるんだ。人の目が見たものがぜったいとは限らない」

　君も知ってのとおり、世界には鍵で開けられないものがたくさんある。ただぼくは、鍵は作られたあと、いつかどこかで、それが開けられるものと出会うんじゃないかって、ずっと信じている。

　知っている？女はみんな、誰かと付き合うときに、その男の部屋を想像する。

　ときに、顔なんか見ないほうが相手の悲しみを強く感じることができる。人の背中は、顔よりずっと悲しい。人の足取りは、眼差しよりずっと悲しい。

　「ズボンが小さすぎるだろう！おっかさんに言って新しいのを買ってもらえ！じゃないとチンチンがでっかくならないぞ！」

　言ってみれば、ぼくたちが世界のことをなにも知らなかったころから、本のなかにはすべてがあったんだ。

　天野健太郎さんの訳が、すごく良い。

　　週刊文春WEB／文春図書館............モダン都市台北の記憶

　　中華商場

　　　『　歩道橋の魔術師／呉明益／天野健太郎訳／白水社　』



■夏の沈黙／ルネ・ナイト　　2015.8.1

　ルネ・ナイト　....2013年４月、大手出版社の小説創作コースを卒業。在籍中に執筆を始めた本書の出版権をめぐって、熾烈なオークション合戦が勃発し、未執筆の２冊目と共に破格の高値で落札される。同時に世界規模の注目を集め、....瞬く間に25か国での発売が決定。

という、メチャメチャ幸せな人の作品です。

　　ここで、書評をひとつ............BOOKasahi.com

お読みになれば、分かるのですが、話のはじめのころの展開は、何か奥歯に物が挟まっているような違和感があるのです。
あなたも、なんだろうなと感じられるはずです。
読み進むと、グググ～っとねじ曲げられていって..........
行為とその行為に対する後ろめたさの欠如、クールな感情、このあたりが違和感の原因か、これ以上はだめ！沈黙。

ミステリーというより、恋愛小説として、ぼくは読みました。

　　　『　夏の沈黙／ルネ・ナイト／古賀弥生訳／東京創元社　』



■あなたが消えた夜に／中村文則　　2015.8.1

　中村文則さんの『あなたが消えた夜に』を読みました。
最近の中村さんの作品は、読むようにしています。
次の解説では好評のようですが、ぼくはこれほどではなかった。

　　BOOKasahi.com............ベストセラー解読（週刊朝日）

彼らの人生が、日常が「ゲームの世界で泳いでいる」ようにしか感じられないからです。

　きみのいない人生で幸福になるより、きみのいる人生で不幸になることを選ぶ。

と、うそぶいている友の身近で........

　古代ギリシャの哲学者プラトンは、善人とは、悪人が現実に行っていることを夢に見て満足している人間であると書いています。

ぼくたちは、若いころの日々、家族のために歯をくいしばって生きていた。

　日常から逸脱する時、人は急に落ちていくのではない。これくらいなら大丈夫、まだ大丈夫と思いながら、少しずつ落ち、もう取り返しのつかないところまで来ているのに、本人はまだ大丈夫だと思おうとする。そういうものではないだろうか。

運送会社のお金を、巨額詐欺して、豪邸を新築、金遣いも荒かった北海道の女性が逮捕された事件があった、ぼくは、彼女のことを思い出してしまった。
彼女もこんなだったのだろうか。

　　『　あなたが消えた夜に／中村文則／毎日新聞出版　』