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悪意/ヨルン・リーエル・ホルスト

2022年09月12日 | もう一冊読んでみた
警部ヴィスティング 悪意 2022.9.12

ホルストの未解決事件四部作その3、『 悪意 』 を読みました。

数多くの登場人物に悩まされながらも、おもしろく読み終えることができました。
この歳になると、読んで少し経つと “ えっ、この人どなたさんでした ” と言うことが多くなり苦労します。
それでも登場人物リストに上がっている人物は思い出し易いのですが、そうでないものは後戻りしてあちこち確認。
時間がかかりますね。



 クラウス・タンケは祖父も父も弁護士という家に生まれ、ノルウェーでは指折りの著名な弁護士だ。ヴィスティングも何度か会ったことがあり、その手腕には一目置いている。たびたび物議を醸し、批判を浴びてきたのは、麻薬の合法化や安楽死の導入、売春の容認や性的同意年齢撤廃の支持を表明してきたからだ。こうした挑発的な論調は当然多くの人々の怒りを買うことになる。“男性優越主義者”とか“女性蔑視の典型”とか言われるのも無理はなかった。しかし、ヴィスティングはそんな彼を少数意見の擁護者として認めており、法治国にとって必要な人材だと考えている。品格を備えた恐れ知らずの代弁者として。タンケは社会ののけ者のために立ちあがり、誰もやりたからない事件を引き受けてきた。偏見にとらわれず依頼人の面倒をみる。その多くは社会に嫌われ。蔑まれる犯罪者だ。小児性犯罪者、レイプ犯、殺人犯、人種差別主義者、妻を虐待しつづけた男……。
 現在四十三歳のトム・ケルもそのひとりだった。タンケが初めて彼を弁護したのは二十五年前のことだ。そのときは覗き行為や近所のペットの虐殺など七件の罪状で有罪になった。
当時の裁判記録を読むと、ケルは怒りの捌け口を求めて動物を虐待し役害したと法廷で語っていた。


 スティレルは決して手を抜かない捜査員だとわかった一方、彼の行動には必ず何か思惑があることも知った。

 「こういう事態を見込んでいたってことか」ヴィスティングはスティレルを見すえて言った。
 「ケルが外部の助けを得て脱走を図ることを。このオペレーションの目的はタラン・ノールムの発見でなく、最初からアザー・ワンをおびき出すことだったんじゃないのか」


 マーレン・ドッケンの論文『悪意----動機としての悪意について』は実に興味深い内容だった。
 テーマは明確だった。犯罪者のなかにはあまりにも非情で残忍であるが故に、悪の権化としか言いようのない者がいる。だが、この論文はそした加害者について書かれたものではなかった。悪意、すなわち人に危害を加えたいという欲望や、人に痛みや苦しみを与えることで快感を得る人間たちについて考察していた。
 これはドキュメンタリーに使える題材だ。そして論文の最後に、悪意はすべての人間に潜在する動物的本能なのかという疑問が投げかけられている。なぜ猫はまず戯れてからネズミの命を奪うのか。なぜ古代ローマ人は剣闘士の野蛮な戦いを娯楽としていたのかと。


 「わたしが知りたいのは悪意とは何かです。どこで生まれ、何を引き起こしうるのか」
 エリアス・ヴァルベルグが身を乗り出す。「悪意とは内なる闇です。自分以外の者に苦痛を与えたいという衝動です」
 「その成りたちを突きとめるのは難しい。わたしは、悪意とは理解できないものであるが故に抑えることも、阻むことも、警戒することもできないのだとという考えに至りました。愛と同じです」
 「悪意が精神的逸脱であることは証明されていません。脳内の物理的作用によるものかもしれない。サイコパスは脳の人格形成にたずさわる部分に問題があることが研究からわかっています。恥を感じたり共感を示したりするのに必要な脳の領域に損傷を受けている。要するに必要な脳細胞が失われているんです」
 ヴァルベルグは人差し指を額に当てた。「悪意に対する情動反応として、通常ならば後悔とか、羞恥心とか、罪悪感とか、不安とか、嫌悪感とか、そういったものを生む脳の機能が欠如しているわけです」
 「ですが、サイコパスであっても善と悪の違いは理解しているのでは?」
 「サイコパスには適応力があります」精神科医は言った。「他者の反応を見て、たとえば動物を虐待するのは悪いことだと理解はできる。しかし、それを自分の行為と結びつけることができない。だから罪悪感がない。先天的に欠如しているものなので学習ができない。彼らを罰することはできます。刑務所に入れることもできる。ですが、いくら罰を与えたところで教育効果はありません。なぜなら、彼らは自分の行動を後悔したり反省したりする脳細胞をもっていないからです。サイコパスは何も感じません。責任や罪悪感といった概念がまったくないのです」


 人は自分が見たいものを見るんです。

  『 悪意/ヨルン・リーエル・ホルスト/吉田薫訳/小学館文庫 』




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