ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

労働移民を削減せよ・・・就労ビザ対象職種を半減するフランス。

2011-07-28 21:16:21 | 社会
ノルウェーでのアンネシュ・ブレイビク容疑者による銃乱射と爆破事件。背景にあるのは反移民感情のようですが、同じ感情を共有する人々も増えているようで、反移民政策を掲げる政党が北欧を中心に多くの国々で勢力を伸ばしています。スウェーデンの民主党、フィンランドの真正フィン人党、デンマークの国民党、オランダの自由党、ドイツの国家民主党、そしてフランスの国民戦線。民主や自由が政党名に冠されているのが、アイロニーを感じさせますが・・・

反移民を掲げる極右政党としては老舗と呼ぶこともできるフランスの国民戦線(Front national:FN)。しかし、暴力とは一線を画しているようです。

 FNは27日、あるFN党員がブレイビク容疑者をブログで「西側の守護者だ」などと擁護したとして党員資格を停止した。FN幹部のスティーブ・ブリオワ氏は「右翼政党は今回の出来事を乗り越えていくだろう」と述べ、「ノルウェーのテロ事件とわれわれを関連づける風潮はスキャンダラスだ」と語った。
(略)
 極右関係者は、彼ら極右が不当に非難の標的になっていると指摘。たとえブレイビク容疑者が極右と政治的な見解を共有しているとしても、極右は決して暴力を認めないと語った。 
(7月28日:ウォール・ストリート・ジャーナル)

ということで、暴力には訴えない、しかし移民排斥運動は今後も続けていくということのようです。

こうした極右政党ほどには明確なメッセージを出さないとはいえ、右翼政党もできれば移民を削減したいとは思っているようです。現にフランスの政権与党・UMP(国民運動連合)も不法移民を年間の目標数字まで決めて国外追放しています。そして、追い出すだけではなく入ってくる移民も削減しようと、今度は労働移民を受け入れる職種を削減する法案を用意しました。その素案が内務省から労働組合側に提出されました。どのような内容で、どのくらいの移民に影響が出るのでしょうか。25日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

4月、クロード・ゲアン(Claude Guéant)内相は、受け入れる正規労働移民の数を削減したいと述べ、政府もフランス国内で外国人に認める労働許可を半減させたいという意向を示していた。この目標を達成するために、内務省と労働省はEU以外出身の外国人に認められる必要性の高い職種のリストを改定する法令案を労働組合側に提示した。この新しいリストにより、外国人に開かれる職種は2008年のリストから半減することになると、日刊経済紙“Les Echos”(レゼコー)が伝えている。今までは30の職種がEU以外の外国人に認められていたが、今後は15の職種になってしまう。

労働組合側に渡された雇用・職業訓練総局(la Délégation générale de l’emploi:DGEFP)の文書によれば、新しいリストは最も熟練性と特殊性のある職種に絞ったものであり、労働力をいま最も必要としている職種と一致している。しかし、これらの職種の労働許可は新たな申請者に認められるのであって、すでにフランス国内にいる外国人にすぐに認められるものではない。

このリストにはもうひとつ新しい措置が含まれている。地域ごとの必要に応じて適用できるという点だ。県知事は、そのエリアに必要でない職種があれば、15職種から削除することができる。レゼコー紙によれば、極端な場合、1職種にまで削減しようと思えばそうできるそうだ。

すでに移民が働いていないような職種、例えば保険代理業、エレベーター設置業、測量技師などは新リストから削除されている。最も影響の大きい職種は、IT産業と建設公共事業部門(Bâtiment et travaux publics:BTP)だ。レゼコー紙は、これらの業種に関わる研究者、現場監督などもリストから外されることになり、花形であるIT産業で認められるのはCGデザイナーだけになると、伝えている。

労働省は、このリストはまだ修正できるものであり、8月上旬に最終決定されると語っている。組合側はこのリストを非常に問題視しており、政府のナショナリスト的手法だと批判している。一方、経営陣は、リストの改定は優先課題ではないと判断している。

現在フランスでは、毎年2万ほどの就労ビザが発行されている。その多くはすでにフランスに滞在している外国人が滞在許可のステイタスを変更して取得しているのだが、今回の新しい規制が労働市場にどのような影響を及ぼすのかを判断するのは時期尚早だ。しかし、レゼコー紙の予想によると、1万から2万の職が外国人の手からこぼれ落ちるのではないか、ということだ。

・・・ということで、入り鉄砲に出女、ならぬ、入り移民に出移民。入ってくる移民の数を制限し、少しでも多くの移民を国外に追い出す。そうすれば、移民の少ない社会となり、犯罪は減少し、失業率は低下し、購買力は向上する。バラ色の社会、“La societé en rose”・・・となるのでしょうか。

3Kなどの仕事を誰がやるのか、サッカーのレ・ブルーはどうなるのか、文学の地平が狭くなりやしないか。それに、何しろ、出生地主義のフランス。移民の二世たちはすでにビザや滞在許可の必要のない立派なフランス人。彼らの多くは今でもバンリュー(都市の郊外)に暮らさざるを得ない状態が続いています。彼らをどう同化させるつもりなのでしょうか。彼らまで切って捨ててしまうつもりなのでしょうか。

多文化主義を諦め、移民排斥運動を進展させるヨーロッパ。一方ユーラシア大陸の反対側では、毎年のように首相が代わり、政治不信から閉塞感が重くのしかかる社会。いつか来た道・・・いつどこで出口を求めてマグマが爆発してもおかしくないような状況になりつつあるような気がしてなりません。どこかに、見事な解決策はないものでしょうか。今ブームの数学のように、理論を積み重ねて解を導き出すことは、できないものでしょうか。せめて、暴発を食い止める良い歯止めがあってほしいものです。
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