ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

『ル・モンド』の託宣・・・ユーロ崩壊の予測はもはや信じ難いことではない!

2011-12-08 21:10:35 | 経済・ビジネス
「ユーロは、崩壊する。銀行へ、急げ!」では、イエロー・ペーパーの見出しになってしまいますので、ここは、冷静に、『ル・モンド』の記事“Prédire la fin de l’euro n’est plus inconcevable”を読み進めることにしましょう。出典は7日の電子版です。

誰も敢えて信じようとはしないが、みんなその事態に備えている。パズルをはめ込むように、ユーロ圏が崩壊していく・・・ユーロ圏が南北に分裂する、あるいは一部の国が離脱する。こうした事態は専門家が考える経済の近未来に関するシナリオからもはや排除できなくなっている。しかし、信じ難くはないとはいえ、実際に対応するのは容易ではない。

金融グループUBS(Union Bank of Switzerland:本部はスイス)ロンドンオフィスのエコノミストたちが上記のようなユーロ圏崩壊のシナリオを語っている。その際、規模や完成度は異なるものの、ユーロと同じような統一通貨で、20世紀において挫折した4つのケースを例としてあげている。いずれも、経済、社会、政治のお粗末な状況の結果としてもたらされた挫折事例だ。

1919年のオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊(皇帝カール1世の退位は実際には1918年11月11日です)、世界大恐慌の1932年から33年におけるアメリカの封鎖的経済(経済のブロック化)、1992年から93年におけるソビエト連邦の解体(正確には1991年12月26日をもって解体しています)、1993年のチェコとスロバキアの分離(1993年1月に平和的に分離し、ビロード離婚とも言われました)がその4例だ。これに、2002年1月にアルゼンチンが1ドル=1ペソというドルペッグ制から離脱したことを加えることができよう(1月に公定レートと実勢レートの二重相場制を実施し、2月に変動相場制に移行しました)。

しかし、こうした参照事例がどれほど的確であろうと、専門家たちの意見は次のように一致している。ユーロ圏の崩壊は「カオス」と同義語だ・・・UBSのチームも、「疑いようのない大災害になる」と述べている。

専門家のシナリオは、闇から闇へと進む、連鎖的破綻を描いている。パニックを起こした預金者たちは、1919年の大恐慌時にアメリカで起きた、預金を引き出すために預金者が銀行の窓口に殺到する、いわゆる“bank run”を再現し、それをきっかけに銀行は倒産。誰もが困窮化し、国ごとに程度の差はあれ、リセッション入りする。つまり、簡単に一掃することのできないカタストロフィとなる。このようにブリュッセルにあるシンクタンク(un cercle de réflexion)、ブリューゲル(Bruegel:2004年に設立され、イタリア首相になったマリオ・モンティが2005年から08年に会長を務め、現在は名誉会長になっているシンクタンクです)のジャン・ピザニ=フェリー(社長)は語っている。

カタストロフィにはどのようなプロセスで至るのだろうか。いくつかのネガティブな要素が重なる必要があるようだ。投資銀行・ナティクシス(Natixis:貯蓄銀行・Caisse d’ épargneと国民銀行・Banque populaireの傘下にあります)のエコノミスト、シルヴァン・ブロワイエ(Sylvain Broyer)は、欧州の政治指導者たちが危機解消のための行動を長期にわたり躊躇うこと、経済規律をなおざりにする国々を救済するのに嫌気がさしたECB(欧州中央銀行:仏語ではBCE=la Banque centrale européenne)が、支援を止めること、イタリアの国債が投機筋の激しい攻撃にさらされることを、例としてあげている。イタリア10年債の利回りが9%に留まるようだと、状況はイタリアにとって耐えがたいものとなり、1兆9,000億ユーロ(約200兆円)に上る国債の金利を払うことは不可能になると、ブロワイエは見ている。

その次の段階は? 未知の領域に入ることになる。しかし、各国が元の通貨に戻ることを想像することはできる、リラ、マルク、フラン、と。シルヴァン・ブロワイエは、理論上、このことは南欧の主要な国々が、北欧の国々に対する競争力を取り戻すために、自国通貨を30~40%引き下げることを意味すると、述べている。輸出品の価格が引き下げられ、輸入品の価格は急騰するということだ。

しかし、家計はすぐさま直撃を受ける。購買力は大幅に目減りするからだ。実質給与は30~40%減少するが、一方輸入品は今まで通り流通する。南欧や他の国々の預金者は、資産が大幅に目減りすることを目撃することになる。その変動がどれほどのものになるかを示すため、ジャン・ピザニ=フェリーは自著“Le Réveil des démons. La Crise de l’euro et comment nous en sortir”(悪魔の眼醒め。ユーロの危機とそこからの脱出)の中で、2010年末時点で、フランスの個人、企業、銀行は1兆2,000億ユーロ(約125兆円)もの投資をユーロ圏の他の国々で行っている、というデータを提示している。

自国通貨に戻ることにより、借金が収入を得ている通貨よりも強い通貨建てではないという条件をクリアしていれば、債務者は困難からより容易に抜け出すことができる。しかし、強い通貨での債務があれば、最終的には個人、産業、企業の破産という可能性を抱えることになる。

ドイツは他国よりも影響が少なくてすむだろうが、何年にもわたって築きあげてきた競争力があっという間に消滅してしまうことを目の当たりにすることになる。外国に投資した資産の目減りにより困難に陥った銀行を国家として救済する必要に迫られるだろう。

シルヴァン・ブロワイエは、今後ユーロ圏全体がマイナス3%前後の顕著なリセッションに3年ほど陥り、同時にアメリカやイギリスも2年ほどのリセッションを経験することになるかもしれないと見ている。

しかし、こうしたことは、理論上のことだ。次々と惹き起こされるパニックをどう見積もればいいのだろうか。避けられないユーロ圏からの資金流出をどう抑えることができるのだろうか。考えられているシナリオは、経済に致命的な打撃を与え、貧困を拡大する通貨の無秩序に拍車をかけることになる。

ジャン・ピザニ=フェリーは次のようなことを紹介している。アルゼンチンは2002年1月に1ドル=1.4ペソという為替平価に固定したが、6カ月後、ペソは75%もその価値を目減りさせてしまった・・・

・・・ということで、ユーロ圏の崩壊もあながち否定できない状況になって来ているようです。目下の注目は、この後(日本時間9日未明)に行われるEU首脳会議で、どのような結論が出されるかですね。EUが一致団結してユーロ危機に対処できるのでしょうか。ユーロ危機を回避するのに有効と思われる手段を構築できるのでしょうか。そして、実際実施していけるのかどうか。課題は一朝一夕に解決できるものではないだけに、ユーロ危機が解消するには、まだ長い時間がかかりそうです。その時間をどれほど短縮できるかどうか、「メルコジ」を中心とした政治指導者たちに、大いなる期待が寄せられているわけです。

今後のシナリオについては、シティ・バンクも、「向こう数年のうちにユーロ圏から離脱する国が出ることや、『無秩序なデフォルト』に追い込まれることはメインシナリオではないが、こうしたサブシナリオの実現可能性は無視できなくなりつつある。」と予測しているようです。舵取りを一つ間違えれば、ユーロ消滅という事態になりかねない・・・

持っているユーロはすずめの涙ほどという私にとって、直接的な影響は少ないのでしょうが、100万円、1,000万円単位でユーロを持っている人には、大きな心配事ですね。しかし、「バタフライ効果」(l’Effet papillon)で、誰でもがいつ影響を蒙るかもしれません。他人事ではいられませんね。何しろ、バタフライ効果などとかっこいいコトバで言わなくとも、思わぬことが、思わぬところに影響することは江戸時代から知っている日本人ですものね。「風が吹けば、桶屋が儲かる」・・・ユーロの今後、いっそう注目です。

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