ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランスの参審員(裁判員)制度、広がる。司法官、不安になる。

2011-04-15 20:36:54 | 社会
日本の裁判員制度、導入当初はマスコミに大々的に取り上げられ、大騒ぎでしたが、今ではほとんど話題にもならなくなりました。それだけしっかり根付いたということなのか、熱しやすく冷めやすいだけなのか。いずれにせよ、取り敢えずは順調に推移しているようです。

裁判員制度は、よくアメリカの陪審員制度と比較されたりします。先日亡くなったシドニー・ルメット監督(Sidney Lumet)による映画『十二人の怒れる男』(12 Angry Men)にもその長所と短所が見事に描かれていました。この映画の影響もあってか、アメリカの陪審員制度は日本でも広く知られていますが、もちろん他の国々でも同じような制度があります。

フランスでは、参審員(juré populaire)と呼ばれ、フランス革命時に始められています(1791年刑訴法)。革命精神を反映してか、参審員は「人民主権の現れ」(l’émanation de la souveraineté populaire)とも言われています。

現在では、10年を超える拘禁刑の対象となる刑事事件を担当する重罪院(Cour d’assises)において、3名の裁判官とともに9名の参審員が判決に加わっています。参審員は23歳以上を対象に、選挙人名簿から無作為抽出で選ばれています。200年を超える歴史があるだけに、取り立てて反対運動もないようですが、昨年、サルコジ政権が参審員制度を拡大しようと動き出したことから、本職の司法官たちが反対の声を挙げています。

参審員制度をどのように拡大するのか、また専門家はどうして反対なのか・・・13日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

13日の閣議で、ある法案がメルシエ法相(Michel Mercier)によって紹介された。しかし、その法案の実質的な提唱者はオルトフー前内相(Brice Hortefeux)だった。その法案は、参審員制度を軽罪裁判所(tribunal correctionnel:10年以下の拘禁刑の対象となる犯罪を裁く裁判所)にも適用しようというもので、前内相とサルコジ大統領の意向に沿って、法相が急ぎ用意したものだ。

昨年秋、性的暴行により刑に服した男が、出所後すぐに暴行殺人事件を犯したが、その犯罪に関し、時のオルトフー内相は司法官たちの判断に異を唱える発言を、9月7日付の“le Figaro magazine”で行った。その発言から2カ月後の11月16日、サルコジ大統領はテレビのインタビューで、軽罪裁判所に参審員制度を導入すべきだと、語った。

新制度が導入されると、軽罪裁判所が扱ういくつかのケースにおいて、3人の司法官とともに2人の参審員が裁判に携わることになる。法相は新聞のインタビューに答えて、「容疑者の有罪・無罪の判断や有罪の場合の量刑を決める際には、参審員も司法官と平等な1票を持つ。ただし、判決文は司法官が書くことになる」、と述べている。

参審員になると、状況により一日当たり108ユーロから180ユーロ(約13,000円から22,000円)を受け取ることになる。年間6,000人から9,000人の参審員が軽罪裁判所での裁判に携わり、およそ4万件の事件を扱うことになる。また、5年以上の拘禁刑になった犯罪人の条件付き仮釈放などの決定にも携わることになる。このように、法相は詳細を語っている。

法相が語ったもう一つの改革は、略式重罪裁判所(cour d’assises simplifiée)の新設だ。3人の司法官と2人の参審員によって構成され、15年から20年の拘禁刑に相当する犯罪を裁く裁判所だ。

こうした改革の有効性に関しては与党・UMP内ですでに議論されている。司法担当UMP全国書記のジャン=ポール・ガロー(Jean-Paul Garraud)は、軽罪裁判所に参審員が加わることによって判決が下されるのが遅れ、司法制度を麻痺させる恐れがあると危惧している。

この改革は2012年から徐々に実施に移されることになっているが、司法界からはこぞって反対の声が上がっている。司法官組合は、司法官に対する暗黙の不信があると見なし、新しい制度の実行可能性について疑いの念を抱いている。司法官と参審員との混成チームは、性的暴行、強盗、強奪、過失致死、損傷などの人的危害による軽罪(les délits)を裁くことになる。

参審員に日当を支払うことに関しても、司法官組合は司法界への負担を批判し、フランスの司法予算はアルメニアやアゼルバイジャンの後塵を拝し、ヨーロッパで37位だったという、司法の効率性に関する欧州委員会が2010年に行った評価をその批判の理由として引き合いに出している。こうした意見に対し、法相は、2014年までに155人の司法官と108人の書記を増員する計画だと述べている。

法相はまた、裁判手続きに関する問題も解決しなくてはならない。軽罪裁判所での判決文は、法と事実に基づき、司法官の合議の場で書かれるが、司法官に参審員が加わった場合は裁判の直後に共に討議し、有罪・無罪、有罪の場合の量刑を決めるが、その後に司法官だけで判決文を書くことになる。

さらに、司法官たちは、参審員が刑の適用判断にまで加わることを危惧している。観察付執行猶予や仮釈放などが犯罪者を社会に適応させ、再犯を防ぐのに優れた方法だと司法官たちは考えているが、参審員がその決定に加わることにより釈放が難しくなる恐れがあるからだ。

・・・ということで、犯罪者の社会復帰と再犯防止については、フランスでも裁判官と一般市民の間に大きな隔たりがあるようです。また、日本の場合には、国民の間にも様々な意見がありますが、きっと、フランスでも同じような状況なのではないでしょうか。

一度でも罪を犯した者は、ずっと刑務所に入れておけ! 一方、罪を憎んで、人を憎まず。犯罪者にも社会復帰のチャンスを与え、社会全体で再犯を防いでいくべきだ。

また、量刑についても、違いがあります。片や、目には目を! 人を一人でも殺したら、即刻死刑だ!  一方、立ち直るチャンスを与えるべきだ、あるいは反省と悔悟の人生を送ることをもって贖罪とすることがあってもいい。

庶民感覚を司法の場へ! 言うのは簡単ですが、裁判に臨む庶民の意識も問われているようで、どこまで有効な方法となっているのでしょうか。『十二人の怒れる男』も問題点を指摘していますが、陪審員、参審員、裁判員、名前は違っていても、抱えている根本的な問題は同じようです。

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