ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

3年で10万人の公務員を削減する!・・・フランスでの話。

2011-01-20 21:03:28 | 社会
永田町では、消費税率アップが喧伝されています。わずか1年半前に民主党は今後4年間、消費税率に関しては議論さえ始めないと言っていたのですが、次の総選挙直後に税率アップできるように準備を進めるそうです。こうした動きはマニフェスト破りではなく、国民の信を得た政策を進化させ、成熟させることで、何ら間違ってはいないとか。納得できますか?

900兆円にも上る国家債務を抱える日本。その解消が急がれる。負債を国民が平等に分担するには、消費税率を上げるしかない。この点、納得する人も多いのではないでしょうか。しかし、その前提として政治家が行うべきことがある。自らも歳費を削減し、定数を削減することです。お手盛りの収入がいろいろあるのを見直し、削れるべきは削るべし。そして次には、役所の無駄の根絶。まだまだあるのではないでしょうか。その上での消費税率アップなら、受け入れるにやぶさかではありません。なお、その際にも、生きていく上で必要な食料品などの税率は据え置くとかいったきめ細かな対応があってしかるべきだと思います。

こうした消費税率アップという菅内閣の政策に、援軍がフランスから現れました。『21世紀の歴史』(“Une brève histoire de l’avenir”)などでお馴染みのジャック・アタリ氏(Jacques Attali:経済学者・作家・高級官僚、1943年生まれ)が、新著『国家債務危機―ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』(“Tous réunis dans dix ans ? Dette publique : la dernière chance”)の日本語版の出版を機に来日。インタビューや講演、菅首相との対談などをこなしました。

“アタリ氏は「財政不安が起きている欧州よりも日本の方が財政赤字は深刻。世界を危機に巻き込むこともあり得る」と指摘。「日本は高齢化の進展で歳入よりも歳出の伸びが早い。10~15年後には日本人の貯蓄の100%が、公的債務をまかなうためのものになる」と警告した。
 アタリ氏は、日本が財政再建を果たすには、(1)経済成長力の回復(2)人口増加政策(3)歳出削減(4)増税などによる歳入の拡大--を同時に進める必要があると指摘し、特に歳出削減と歳入増は「緊急性がある」と述べた。
 一方、日本の財政赤字は国民の貯蓄でまかなえるので危機的ではないとの議論については「何もしないことも(国民の)選択肢の一つだが、成功した例は歴史上ない。最も悲惨なシナリオだ」と語った。”
(1月14日:毎日新聞・電子版)

このようにメディアとのインタビューで語っていたアタリ氏ですが、菅首相との対談では、

 “菅首相は18日、ジャック・アタリ元欧州復興開発銀行総裁と首相官邸で会談し、アタリ氏から「国民に努力を呼びかけるには、10年後の国のあり方を示すことが最善だ」と助言を受けた。
 アタリ氏は「政治力を発揮すれば、国家債務や少子高齢化の問題は解決できる」として有識者委員会の設置を提案し、首相も「よいアイデアだ」と応じた。”
(1月18日:読売新聞・電子版)

ということで、日本の組織・政治に欠如しているとよく言われる「戦略」、「将来的ビジョン」を提示するよう助言したようですが、それを受けて菅首相が取った行動は・・・

“首相は会談後、副大臣会議のあいさつでアタリ氏の発言に触れ、「それぞれの立場で将来の展望を語ることもお願いしたい」と指示した。”
(1月18日:読売新聞・電子版)

Oh,my God !、Mon Dieu !、なんてこったい! 各省庁がそれぞれに勝手な方向に進んでしまっては、国はどうなるのか。まずは首相が10年後の日本の姿を提示し、その大枠の中で各省庁が具体的な政策を考えるべきなのではないですか。良い話を聞いた、みんな10年後を考えて仕事に励むように・・・相変わらず現場への丸投げで、戦略の欠如を呈しています。権力中枢の意向を無視して(あれば、ですが)各出先が勝手な行動を取る「満州事変モデル」のままですね。日本は不滅にして、不変です。

と、前置きが長くなりましたが、今日のテーマは歳出削減にとって大きなテーマとなる公務員の削減。17日の『ル・モンド』(電子版)が、バロワン(François Baroin)予算・公会計・公務員・国家改革大臣の会見内容を伝えています。タイトルは、「2013年までに公務員10万人を削減」。

前置きが長くなったついでに、もう一つ前置きを。公務員って、どのくらいの人数いるのでしょう。(株)野村総合研究所が平成17年にまとめた「公務員数の国際比較に関する調査」という資料があります。そのデータ(国により2004年・2005年など)によると、

・国家公務員:(日)160万人(仏)315万人(米)290万人(英)254万人(独)184万人
・地方公務員:(日)378万人(仏)253万人(米)1,876万人(英)215万人(独)390万人
・合計   :(日)538万人(仏)568万人(米)2,166万人(英)469万人(独)574万人

・人口千人当たりの公務員数:(日)42人(仏)96人(米)74人(英)78人(独)70人

フランスとアメリカが好対照ですね。多くの国家公務員を抱えるフランスに、少ない国家公務員と膨大な地方公務員のいるアメリカ。アメリカと言えば、民営化、民でできることは民へ、というふうに日本ではよく報道されますが、公務員数からは、アメリカの実体は民営化というより徹底した地方分権であることが分かりますね。小さな中央政府と巨大な州政府と自治体。一方、中央集権国家のフランスは、当然のことながら、大きな中央政府。軍人を含む数字もありますから、断定はできませんが、フランスとアメリカの対比は新鮮な発見でした。

さて、さて、そのフランスの公務員ですが、今年からの3年間で10万人削減するとか。組合が強く、労働者もその権利を強硬に主張する国で、そのようなことができるのでしょうか・・・フランスが採用している政策は、退職者2名につき採用は1人だけ。ベビー・ブーマー以降の人口が多い世代が退職していく。その補充を半分だけにすれば、当然公務員の数は漸減していく。新規採用が増えず、若年層の失業率は改善されないのでしょうが、こうすれば、デモやストもなしに人員削減できるわけですね。その他の施策に関して、バロワン大臣は次のように語っています。

人員削減だけではなく、組織の統廃合も行っている。例えば、財務局と税務署を統合した国家財政総局(la direction générale des finances publiques:DGFIP)の新設。また、備品をはじめ様々なものの共同購入も進めている。縦割り行政で別々に購入していたものを共同購入に切り替えることによって、50億ユーロの購入費のうち7億1,200万ユーロを削減することができた。

また、民営化へ向けた取り組みも進めている。昨年12月には、気象台や営林署など500ほどの出先機関で働く職員の85%以上と業務雇用契約を結ぶことができた。大学と保健所を除くこれら出先機関では235,000人が働き、国家からの支出は290億ユーロに上っている。

今年からは、生産性の向上、会計監査、2013年までを目標とした費用の10%削減、1年以上にわたる借入の禁止といった予算管理システムを出先機関にも援用するようにようにしたい。もちろん、同時に、現在組合側と協議中の法律などにより、公務員の暮らしが不安定にならないよう、しっかり取り組んでいく。

・・・ということで、人員削減、組織の統廃合、民営化、共同購入などによって公務員関連支出をカットしようとしているフランス。財政赤字に対して、多くの国々で同じような対策が講じられているようですが、公務員天国のようなフランスまでもが。それだけ、今までの財政政策がいい加減だった国が多いということなのでしょうが、そのつけを払わされる世代は、気の毒です。しかし、もう先送りはできない状態になってしまった・・・大変な時代ですが、一人一人、くじけず、頑張りたいものです、としか言えないのが残念です。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。