ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

ド・ヴィルパン、立候補する・・・首相ならいいんだけどね~。

2011-12-12 21:35:38 | 政治
「いい人なんだけどね~」・・・なかなか縁遠い人や、友だち以上の関係に進みにくい人を評価する時、こんなふうに言ったりしますね。良い人であるのは認めるけれど、それ以上に、何か惹き付けるような魅力にちょっと欠ける。

こんな言葉を思い起こしたのは、ドミンク・ド・ヴィルパン(Dominique de Villepin)元首相に関する二つの記事を続けて読んだせいなのかもしれません。どのような記事かといいますと・・・

まずは、直近、11日の『ル・モンド』(電子版)です。ドミニク・ド・ヴィルパンがついに、大統領選挙への立候補を表明したことを伝えています。

ドミニク・ド・ヴィルパンは11日、夜8時からのテレビ局・TF1のニュース番組で、「2012年の大統領選への立候補を決意した。フランスが持っているべき確かな思想を守りたい。私には、信念がある。2012年の選挙においては、真実、勇気、意思を国民に約束したい」と、語った。

自ら立ち上げた新党、「共和国連帯」(République solidaire)の代表の座を降りたド・ヴィルパンは、番組の中で、さらに続けて、「ますます厳しい緊縮策を要求してくる市場の原理にフランスが屈するのを見るのは忍びない。フランスは今や屈服させられてしまっている。しかも、ろくに考えもせず、あれやこれや楽しげに語らっているだけの政党の下す決定に従わざるを得ない。何たる放逸さか」と、社会党(PS)とヨーロッパ・エコロジー緑の党(EELV)との間で交わされた原子力や国連安全保障理事会でのフランスの立場に関する協約を例に挙げて、現状を憂えている。

クリアストリーム事件(l’affaire Clearstream:台湾へのフリゲート艦売却に端を発する収賄疑惑。収賄側がルクセンブルクの銀行、クリアストリームに隠し口座を持っているという噂が流れた。そこで、当時首相だったド・ヴィルパンが対外治安総局のトップにその口座リストを調査するよう命じ、ニコラ・サルコジの名を含むリストが出回ったが、後に虚偽のリストであることが判明。ド・ヴィルパンが諜報部門を使って政敵を引きずり落とそうとしたのではないかという嫌疑をかけられた事件です)では、控訴院(Cour d’appel)で無罪が確定したド・ヴィルパン元首相は、ルレ・エ・シャトー(Relais & Châteaux:世界55カ国、470の独立系高級ホテルやレストランが加わるネットワーク)に関する訴訟事件、特に盗聴への関与でも疑われたが、全く無関係であることを強調した。

ドミンク・ド・ヴィルパンは12日に記者会見を開き、選挙公約を発表することになっている。エロー(Hérault)県選出の下院議員であり、「共和国連帯」の代表を引き継いだジャン=ピエール・グラン(Jean-Pierre Grand:下院では与党UMPの会派に所属)は、コミュニケを発表し、ド・ヴィルパンの決断を称賛して次のように述べている。「大統領選での討論で、ド・ヴィルパンの力強く、自由闊達な意見が間もなく聞けるようになる。彼のビジョン、経験、勇気があれば、債務危機に対する挑戦、フランス人にとっての社会的正義、新たな国民の再建という彼の政策を実現するのも難しいことではない。」

・・・ということで、ドミニク・ド・ヴィルパンが大統領選に立候補しました。シラク大統領の下、外相としてアメリカのイラク戦争にはっきりと「ノン」を突き付けた颯爽として優雅な姿。多くの日本女性を虜にしたものですが、しかし、今日の現状は厳しく、各種世論調査では、1%前後の支持率しか得ていません。どう見ても勝ち目はなさそうなのですが、それでも、敢えて立候補。政敵、ニコラ・サルコジの再選だけは防ぎたいと、中道右派の票を少しでも奪いたいのか。それとも、第1回投票ははなから捨てており、もし決選投票が接戦になった場合、自分の数パーセントの票が帰趨を決する、つまりキャスティング・ボードを握るつもりなのか。

TF1の番組で、自分は右派でも左派でもない、独立したゴーリスト(gaulliste indépendant:ゴーリストとは、ド・ゴール主義者のこと。ド・ゴール将軍(元大統領)が体現したフランスの独自性を追求する保守的な政治イデオロギーの信奉者です)だと言っていた元首相。はたして、どれくらいの票を獲得できるのでしょうか。

大統領選では、厳しい戦いを強いられるドミニク・ド・ヴィルパンですが、首相としての実績評価では、トップクラス。ド・ヴィルパン内閣が導入しようとしたCPE(Contrat première embauche:初期雇用契約)をめぐる争乱をパリで目の当たりにした身には、にわかに信じ難いデータですが、4日の『ル・モンド』(電子版)が伝えていました。

左派ではピエール・ベレゴヴォワ(Pierre Beregovoy)、右派ではドミニク・ド・ヴィルパンが、1981年以降に就任した首相の中で国民の評価が最も高い・・・調査会社“IFOP”が11月3日から15日に、35歳から65歳の1,001人を対象に行った「理想の内閣」をテーマとした調査がこのような結果を示している。

過去30年の間に就任した首相の中で最も評価できるのは誰かという問いに、31%がフランソワ・ミッテラン大統領の下、1992年から93年に首相を務めた社会党のベレゴヴォワを挙げた。同じく左派では、1992年から97年まで、ジャック・シラク大統領とのコアビタシオン(cohabitation:保革共存政権)を組んだリオネル・ジョスパン(Lionel Jospin)が25%、1988年から91年に首相を務めたミシェル・ロカール(Michel Rocard)が24%で続いた。

右派では、2005年から07年のド・ヴィルパンと、1986年から88年にフランソワ・ミッテラン大統領とのコアビタシオンで首相の座についたジャック・シラク(jacques Chirac:30年以上前ですが、1974年から76年にも首相の座に就いています)が共に25%、そして現首相のフランソワ・フィヨン(François Fillon)が20%の支持を集めている。

閣僚では、財務相としてはジャック・ドロール(Jacques Delors:社会党)が、国防相としては女性のミシェル・アリオ=マリ(Michèle Alliot-Marie:UMP)、内相はシャルル・パスクワ(Charles Pasqua:UMP)が最も高い評価を得、社会党のジャック・ラング(Jack Lang)は文化相と国民教育相の二つのポストで最高の評価を得ている。

外相では社会党所属でありながらサルコジ大統領の要請を受け入れ就任したベルナール・クシュネル(Bernard Kouchner)が選ばれた。法相は死刑を廃止したロベール・バダンテール(Robert Badinter:社会党)が圧倒的な評価を得た。

・・・ということで、右派の首相としてはトップの評価を得たドミニク・ド・ヴィルパンですが、大統領選では苦戦しています。どうしてなのでしょうか。

フランス国民が大統領に求めるのは、「家父長」としてのイメージ。2007年のサルコジ大統領の誕生が、そのイメージをずいぶん変えましたが、それも一時的。来年の再選に向けては、やはり「家父長」としての落ち着き、リーダーシップが求められています。

その点、ド・ヴィルパンはどうなのでしょうか。端正なマスクに家柄のよさを如実に表す優雅さ、つまり、かっこいい。男性としては人気があるのかもしれませんが、家父長としては、「?」。一般的国民と距離があり過ぎるのかもしれません。

同じく25%の対象者から評価された社会党のリオネル・ジョスパンも、2002年の大統領選では第1回投票で、国民戦線のジャン=マリ・ルペンの後塵を拝し3位と、決選投票へ進めませんでした。ジョスパンのイメージは、有能な官吏、あるいは学者。どう見ても「家父長」としてのぬくもり、親しみに欠けているようです。

では、さて、来年の大統領選挙。新たな「家父長」は、誰になるのでしょうか。ニコラ・サルコジは、兄貴から父親へと自らのイメージを変換することができるのでしょうか。減量までして人の良いおじさんとしてのイメージを払拭しようとした社会党のフランソワ・オランドは、家父長としての頼りがいをどうイメージづけることができるのでしょうか。極右・国民戦線のマリーヌ・ルペンは、女性としての家父長となるべく、どのようなイメージを形作るのでしょうか。「家父長」としてのイメージに現状で最も近いのは、中道・MoDemのフランソワ・バイルーなのではないかとも思われるのですが、はたしてその支持率は・・・大統領選まで、残されたのは、5カ月弱です。

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