ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

「国民戦線」と「共和国戦線」の間で揺れるフランス与党。

2011-03-24 21:29:16 | 政治
“Front national”は先の小郡選挙(小郡ごとを選挙区とする県議会議員選挙)で躍進した極右政党・国民戦線ですが、ここ数日メディアの見出しを飾っているのが“Front républicain”。共和国戦線といった意味でしょうか。要は、小郡選挙の決選投票の際に、国民戦線のこれ以上の躍進を阻止し、共和国精神を守るために他のすべて政党で大同団結しようという動きです。

しかし、こうした気運に対し、肝心の与党・UMP(国民運動)内で意見が集約できず、賛成、反対の不協和音が聞こえてきているようです。誰が、どのような発言をしているのでしょうか・・・21日の『ル・モンド』(電子版)です。

フィヨン首相(François Fillon)はついに、サルコジ大統領(Nicolas Sarkozy)とコペ(Jean-François Copé)UMP幹事長の提唱する「共和国戦線でもなく、国民戦線でもなく」(ni front républicain, ni Front national)という方針に従わない決断をしたようだ。21日、下院(国民議会:l’Assemblé)での与党の会議の席上、小郡選挙の第2回投票では、国民戦線へ反対票を投ずるべく最善を尽くすべきだ、と表明した。出席者によれば、首相はよりはっきりと「社会党と国民戦線による決選投票の選挙区では、国民戦線に反対票を投じるべきだ」と語ったそうだ。

フィヨン首相自らも、「社会党と国民戦線との決選投票の場合、われわれUMPはまずわれわれの価値観が国民戦線のそれとは相容れないことを思い出すべきだ。選挙民に対しては、選挙区運営を託せるに足る政党に責任をもって投票するよう呼びかけよう。国民戦線への反対を表明するために全力を傾けるべきだ」と述べている。

反響は大きい。サルコジ大統領の戦略が与党をどれほど混乱させているかを物語っている。まずは、先の内閣改造まで環境大臣の職にあった、急進党(Parti radical:名前は急進ですが、中道やや右寄りで、与党の一翼)党首のジャン=ルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)はさっそく次のように語っている。今や政権与党には二つの意見がある。社会党に投票しようが、国民戦線に投票しようが、どちらでも構わないというグループと、共和国の価値を守るべく国民戦線には反対すべきだと訴えているグループだ。

大統領と幹事長による“ni-ni”(どちらでもなく)戦略には、あからさまな反対意見が出ている。しかし、UMPの前幹事長で、現在は労働・雇用・厚生大臣のグザヴィエ・ベルトラン(Xavier Bertrand)はこの方針に賛成で、社会党と国民戦線の決選投票の場合は白票を投じるよう与党支持者に訴えている。この方針は、政権与党内の連立政党をどれもこれも同じだ(blanc bonnet-bonnet blanc)と言い放った国民戦線への返答であるが、同時に将来ありえるかもしれない国民戦線との和解に備えて与党支持者を国民戦線寄りに動かしておく策略が見てとれる。だが、こうした策略は与党内での反発を次第に大きなものにしている。

閣僚たちでさえ、例えばペクレス高等教育・研究大臣(Valérie Pécresse)やコシウスコ=モリゼ環境・持続可能開発・運輸・住宅大臣(Nathalie Kosciusko-Morizet)、あるいはラルシェ上院議長(Gérard Larcher)なども、個人的見解と断ったうえで、反対であることを表明している。しかも、国民戦線との決選投票では社会党候補者に投票すべきだと、投票行動については明確に語っている。

政権与党内にいる中道の議員たちも、同じように反対を表明している。ジャン=ルイ・ボルローの右腕であるローラン・エナール(Laurent Hénart)、新中道(Nouveau Centre)のジャン=クリストフ・ラガルド(Jean-Christophe Lagarde)、中道連盟(Alliance centriste)のジャン・アルチュイス(Jean Arthuis)などは、社会党と国民戦線の間にいかなる違いも認めようとしない方針に反対し、国民戦線に対して共和国戦線で臨むよう訴えかけている。

先の内閣改造まで副首相格であったジャン=ルイ・ボルローは、「選挙民を批判するものではないが、曖昧なままではいけない時がある。社会党は国民戦線と同じ路線にいるのではなく、党是も異なっている。これは1992年以降、私の、そして急進党の一貫した意見だ。国民戦線の躍進を妨げることが今、明らかに大切なことになっている」と述べている。

・・・ということで、サルコジ・ベルトラン・コペのトライアングルが先導する「社会党でもなく、国民戦線でもなく」という小郡選挙の第2回投票へ向けての方針は、与党内で大きな不協和音を響かせ始めました。

今まではサルコジ大統領を陰から支え、間もなく4年という長きにわたって首相の座にあるフィヨン首相も、ついに反対意見を表明したようです。自分の政治信念は曲げられない、といったところでしょうか。大統領の座にいることが最優先され、政策より政局絡み、そしてメディア受けで動くサルコジ大統領に対し、落ち着いた柔和な物腰で対応するフィヨン首相。国民の人気ではフィヨン首相がサルコジ大統領をここ数年つねに若干上回っています。

それでも大統領と同一歩調を取ってきたフィヨン首相が、珍しく意見を異にしました。言い方は違っても意見は同じだと、後でフォローしてはいたようですが、綸言汗のごとし。反対意見を述べたことは一斉にメディアによって報道されました。

もしかすると、フィヨン首相のサルコジ離れが始まったのかもしれません。先日の調査では、右翼支持者の中で、12年の大統領選挙の右翼候補者に最もふさわしい人物としてフィヨン首相が53%でトップ。サルコジ大統領の47%を6ポイントも上回りました。この結果をテレビのインタビュー中に示されたフィヨン首相は、にっこり。「しのぶれど色に出にけりわが歓喜」といった感じでした。単にうれしいだけではなく、ついに自分の出番だと、心中ひそかに思っているとしたら・・・

候補者の絞り込みに苦労しそうな社会党、人気急上昇中の極右・国民戦線、そして与党内にも候補者選びで波紋が広がれば、あと1年少々となったフランス大統領選挙、いっそう話題に事欠かなくなるようです。

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