ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

DSKの逮捕と好対照をなす、サルコジ夫人の妊娠狂騒曲。

2011-05-18 21:06:24 | 政治
IMF専務理事のドミニク・ストロス=カン(Dominique Strauss-Kahn)が性的暴行などの容疑で逮捕され、保釈も認められず、イーストリバーに浮かぶ小島、ライカーズ島(Rikers Island)にある拘置所に収容されたことは、引き続きフランス中の大きな話題になっています。「シャンパン社会主義者」と揶揄されるほど優雅な生活を送っていたDSKが収容されたのは、3x4mの独房。24時間、自殺防止監視下に置かれているそうです。

そして、DSK一色だったメディアに新たに加えられた話題が、サルコジ大統領夫人であるカーラ・ブルーニ=サルコジ(Carla Bruni-Sarkozy)の妊娠。彼女の妊娠騒動は以前から幾度となくありましたが、ついに本当の妊娠であることが、サルコジ大統領の父親によって、それもドイツの日刊大衆紙「ビルト」(Bild:311万部というヨーロッパ最大の発行部数を誇る新聞)とのインタビューで公にされました。

しかし、単にめでたいだけのニュースなのでしょうか。裏に何か隠されてはいないのでしょうか。

まずは、ここで、カーラ・ブルーニ=サルコジに関してのおさらい。1967年12月23日、イタリアのトリノに生まれる。父親は名門の出で、実業家にしてオペラ作曲家、母親はピアニスト。しかし、これは公式の記録であり、実の父親は、現在ブラジルに住む実業家、Maurizio Remmert。つまり母親の浮気相手との間に生まれたことになります。

当時イタリアでは赤い旅団などによる誘拐事件が多発したため、彼女が7歳の時に一家でフランスへ。1987年にモデルとしてデビュー、その後シンガー・ソング・ライターに。

華麗な世界に身を置いたせいか、プライベートでも華やかな経歴を持っています。恋の相手と噂されたのは、ミック・ジャガー、エリック・クラプトンといったミュージシャンから、最近アメリカ大統領選予備選への立候補を断念した実業家のドナルド・トランプ、1984年に37歳の若さでフランス首相の座についた社会党のローラン・ファビウス(Laurent Fabius)・・・そして、文学編集者のジャン=ポール・アントヴァン(Jean-Paul Enthoven)と暮らしていた際、ジャン=ポールの息子、ラファエル(Raphaël Enthoven)と恋に落ち、既婚者のラファエルとの間に息子を一人もうけています。

2008年2月2日にニコラ・サルコジと結婚。ニコラの3度目の結婚相手となるとともに、フランスのファースト・レディに。フランス国籍を取得。ニコラ・サルコジと出会うまでは社会党支持者だったと言われ、2007年の大統領選でもサルコジ候補ではなく、社会党のセゴレーヌ・ロワイヤルに投票したのではないかとも言われています。正式にはCarla Bruni-Sarkozyですが、音楽活動などを行う際には、今でもCarla Bruniの名前を使用しています。

さて、彼女の妊娠が正式に判明するまでの、ここ1月ほどの狂想曲を、『ル・モンド』の電子版(17日18時05分)が次のように紹介しています。

ニコラ・サルコジの父親、パル・サルコジ(Pal Sarkozy)がドイツの日刊紙「ビルト」で大統領夫人の妊娠を認めた。パルは「孫ができるのがうれしい」と語っている。ここ3週間に及ぶ噂がついに確認された。

芸能週刊誌“Closer”が4月22日の夜、ツイッターでカーラ・ブルーニ=サルコジの妊娠をスクープとして伝えるや、興奮と半信半疑が交錯する書き込みがネット上に一気に拡散した。その情報は確認されず、単なる噂の域を出なかった。彼女の妊娠という噂は、それ以前にも、2008年、09年と幾度となくメディアを賑わせた。2008年7月、日刊紙“Metro”とのインタビューに答えて、カーラは「子どもはほしいけれど、もし今お腹が膨らんで見えるとすれば、それはビールの飲み過ぎのせいよ」と語っていた。22日から始まった今回の騒動に対して、大統領府は認めることも否定することもなく、勝手に言わせておくという広報戦略を取った。

4月22日夜にツイッターで公表したカーラの妊娠を、“Closer”は翌日発売の誌面でもトップニュースとして扱った。しかも、あいまいな表現ではなく、断定している。このカーラ妊娠の情報は多くのメディアで引用された。“Closer”は「大統領夫婦に近い、確かな筋からの情報であり、男の子か女の子かはまだ分からないが、大統領夫人が妊娠していることは間違いない。ただし大統領夫婦は、近親者たちに情報を漏らさないように頼んでいる」と伝えている。

別の芸能誌“Gala”は、4月23日、ライバルの特ダネに対して、カーラの母親、マリザは“Closer”のスクープは間違いだと語っていると紹介した。“Gala”はまたホームページ上でも、大統領府が何らメッセージを出していないのが腑に落ちないと語っている。「大統領府は、この件に関してコミュニケを出さないことに決めた。大統領夫妻のプライベートは2007年末以来、常にメディアのターゲットになっているが、大統領府は夫婦に関する情報が出れば素早く何らかの反応を示すのが常だった。それが、今回はいっさいメッセージが出されていない。しかも、“Closer”が間違いないとして伝えた情報を一般のメディアがまったく伝えていない」と、誤報だという自誌の判断の背景を説明している。

しかし、一般のメディアもこの件に対して関心を示してはいる。大統領府がこの手の話題に関してはコメントを出さないと言っていると伝えたり、ネットユーザーたちは仮想空間でカーラ・ブルーニ=サルコジの仮想妊娠に湧きかえっているといった、いかにもメディアらしい視点で、騒動を伝えていた。

“Closer”の役員であるピオ女史(Laurence Pieau)は、24日、日刊紙“Parisien”のインタビューに答えて、「我々は確かめもせずスクープを公表したわけではない。いくつかの情報源から裏を取ってあり、あの情報は正しいと確信している。カーラは妊娠初期だが、慎重を期すべきだ。リスクがある。なにしろ彼女が43歳だということを忘れてはいけない」と語っていた。

また、カーラ・ブルーニ=サルコジの周辺だけでなく、閣僚たちもこの件に関しては、ノーコメントを貫いている、と伝えたメディアもある。

有力誌“Paris-Match”あたりが妊娠に関する正式発表を掲載するのではないかと見られていた。しかし27日に出版された号で10ページにわたって大統領夫人に関する記事を載せたにもかかわらず、“Paris-Match”は冒頭文でわずかに噂について紹介しただけで、インタビューにおいては彼女の妊娠について一言も触れなかった。

状況を進展させたのは、一般週刊誌の“VSD”だった。28日売りの号で、「妊娠情報を25日の電子版で伝えたが、ある大統領顧問はこのオフレコ情報を認めた。公式発表はまだ出されていないが、23日、カーラ・ブルーニ=サルコジがホテル・リッツから出てくる際、誰も彼女だとは気付かなかったほど、彼女はふっくらとしていた」と書いている。

5月2日の日刊紙“Parisien”とのインタビューで、カーラ・ブルーニ=サルコジは質問をかわすかのように、「私は口を閉ざすことにしているのです。傲慢だからとか、秘密主義だからというわけではなく、いろいろ大切なことやニコラの仕事を守るために口を閉ざすことにしたのです。家族や個人的な夢、あるいはその他の事柄について女性同士で話したいと思っているし、私は元来おしゃべりな方で、他人のプライベートに関する記事があれば、読んでみたいと思います。しかしそうした記事は私の家族や私のプライバシーを守ってはくれないのです。いろいろお話したいのですが、それは今ではありません。もし話せば、多くの人を巻き込んでしまうので、お答えはできません」と語っていた。

16日、文盲の問題に取り組むカーラの財団を紹介するテレビ局“TF1”の番組に出演した際、彼女は噂を認めなかったが、否定もしなかった。インタビューの最後で、番組のキャスターが「プライベートについて語られることが嫌いなのは知っていますが、ただ、おめでとうとだけ言わせてください」と何に対する祝福かを言わずに語りかけると、カーラ・ブルーニ=サルコジは「私からもあなたへおめでとうを」と返した。

そして17日、ニコラ・サルコジの父がカーラの妊娠を認めた。孫の誕生を楽しみにしていると語った後、「ニコラもカーラも事前に男の子か女の子かを知ろうとしないが、自分はきっとカーラのようにかわいい女の子だろうと思っている」と付け加えている。一方、カーラの母親、マリザ(Marisa Bruni Tedeschi)も家族の集まりで、もうすぐ孫が生まれると語ったと、トリノの日刊紙“La Stampa”が伝えている。

・・・ということで、ニコラ・サルコジとカーラ・ブルーニ=サルコジ夫妻に子どもができたようです。新しい命の誕生ですからおめでたい話なのですが、状況が状況なので、純粋な祝福気分になることは難しいようです。

10月頃に子どもが生まれるというタイミングが、まず一つ目の問題です。この時期、各党は大統領選への公認候補選びを行います。与党・UMP(国民運動連合)の候補者はサルコジ大統領になるのでしょうが、その決定が病院で子どもを抱くニコラ・サルコジの映像とともに伝えられれば、やはり支持率をあげることに繋がるのではないでしょうか。イメージ戦略ですね。妻の妊娠を選挙に利用しようとしているのではないか、という声が一部メディアや野党議員から上がっているのも頷けます。

しかも、なぜ今というタイミングでの発表なのか、というのが二つ目の問題点です。社会党候補になれば圧倒的国民の支持で大統領に選ばれるだろうと多くの世論調査が予想していたDSKが性的暴行という罪で逮捕され、手錠をされたやつれた姿が多くのメディアによって国民の目に焼き付けられた直後の妊娠発表です。社会党にとっては一層大きなダメージとなり、与党には追い風になるのではないでしょうか。

フランスでは、プライベート面は、政治家の評価に影響しないとも言われてきました。隠し子、朝帰り、女性問題・・・多くの大統領にこうした問題がありましたが、隠し子を問われたミッテラン元大統領は、“Et alors?”(それがどうかした?)の一言でおしまいにしてしまいました。自分の職務・仕事を全うすれば、プライベート面は関係ない。大統領に限らず、そうした風潮のあるフランスでしたが、最近は幾分変わって来ているようです。しかも、DSKの場合は、逮捕です。数週前から噂になっていたカーラ夫人の妊娠ですが、のらりくらりとかわしてきて、逮捕直後の発表。タイミングが良すぎやしませんか・・・

逮捕があったから、今がチャンスと発表を早めたのか、逮捕の時期を知っていたからこそ、この日まで遅らせたのか・・・疑えば疑うほど、政治の世界は魑魅魍魎、百鬼夜行。とんだ見当違いの邪推で終わってほしいものです。