ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

「陰謀」説、ネット上を駆け巡る・・・DSKの逮捕。

2011-05-16 21:29:17 | 政治
IMF専務理事であり、来年の大統領選挙へ向けてさまざまな世論調査でトップを走るドミニク・ストロス=カン(Dominique Strauss-Kahn)がニューヨークで逮捕されたニュースに、フランス、特に政界とメディアは蜂の巣を突いたような大騒ぎ。

フランス時間16日0時06分に公開された『ル・モンド』(電子版)の記事は、事件の概略を紹介するとともに、夫人のアンヌ・サンクレア(Anne Sinclair:テレビ局TF1を中心に活躍した人気ジャーナリスト)の「夫を疑ったことは1秒たりともない。夫の無実が証明されることを信じている」というコメントを紹介。

さらには、政界の反応を伝えています。DSKの古巣、社会党からは、「DSKの無実を信じ、慎みをもって真実が明らかになるのを待とう。団結と責任ある行動が大切だ」というメッセージがオブリ第一書記(Martine Aubry)から出されています。一方、大統領選での苦戦が予想されていた政権与党からは、内心、にんまりしながらも、慎重な発言が聞こえています。そうした状況下、数名だけが裏工作に言及しています。例えば、『国家債務危機』などの著書で知られる経済学者・思想家のジャック・アタリ(Jacques Attali)や与党UMP(国民運動連合)と提携する中道右派のキリスト教民主党(Parti chrétien-démocrate)党首で、住宅担当大臣を務めていたクリスティーヌ・ブタン(Christine Boutin)などが裏工作の可能性に言及しています。

そして、裏工作、つまり陰謀説の根拠と見なされうる事実と状況が紹介されています。まずは、DSK逮捕のニュースをアメリカのメディアが速報で伝えるより1時間も早くツイッターでつぶやいたフランス人男性がいたという事実。しかもその若者はUMPに近い・・・また、前回DSKがパリに戻った際、その贅沢な暮らしぶりがメディアから非難されたばかりだという状況があります。ヴォージュ広場にある高級住宅に住み、ポルシェを乗り回す。資産のリストは、とてつもなく長いものになっている。こうした暴露によって攻撃したのは、UMPに近い日刊紙“France-Soir”(フランス・ソワール紙)だった・・・

一方、DSKの「好き者ぶり」は以前から指摘されていたことで、2008年にはIMF勤務の女性(Piroska Nagyというアフリカ担当部長)との親密な関係が批判されましたが、それ以前にもジャーナリストにして作家であるトリスターヌ・バノン(Tristane Banon)の、“Erreurs avouées”(2007年刊)という本の執筆のために2003年にDSKにインタビューを行った際に性的暴行を受けそうになったという告白や、ジャーナリストのジャン・キャットルメール(Jean Quatremer)によるDSKの女性問題暴露(2007年)などがまだ記憶に新しい。

このように記事は伝えているのですが、やはり気になるのは、陰謀説。その根拠となっているツイッターについて、詳しく伝えているのがフランス時間15日20時48分に公開された『ル・モンド』(電子版)の記事です。誰がどのようにつぶやき、どのような反応が起きているのでしょうか。

DSKが性的暴行の容疑で逮捕されたというニュースが速報として国際紙に報道される前に、この事件はツイッターで紹介されていた。そのツイッターで最初につぶやいたのがUMPの若い活動家だったため、かなりの人が陰謀の可能性を嗅ぎ取った。

UMPの青年部である“Jeunes Populaires”のメンバーであり、左翼の虚言を批判するサイトの立ち上げに加わったジョナタン・ピネ(Jonathan Pinet)が、次のようなメッセージをツイッターでつぶやいたのは、14日22時59分(フランス時間)だった。

「アメリカにいる友人が、DSKが1時間ほど前にニューヨークのホテルで警察に捕まったと伝えてきた」

その3分後、ピネはもう少し詳しく紹介している。「友人は別の人物を介してこのニュースを知ったということだ。別の人物というのは、DSKが宿泊していたソフィテル・ホテルのレストランで働いている人物だそうだ」、と書き込んだ。そのツイッター上では、“Jeunes Popkemon”というパロディ風のハンドルネームが、すぐさま反論を書き込んだ。

「今夜、青年部は大きなリスクを犯した。そのメッセージはスクリーンショットでしっかりと取り込んで保存した」

『ニューヨーク・ポスト』紙、それに続いて『ニューヨーク・タイムズ』紙がDSKの逮捕を電子版で伝えたのはフランス時間の15日0時半だった。『ニューヨーク・タイムズ』は、14日16時45分(フランス時間14日22時45分)、ニューヨークとニュージャージーの空港管理当局の私服警官がエールフランス23便に乗り込み、ストロス=カン氏を拘束した、と詳細を伝えている。1時間前にソフィテル・ホテルで逮捕されたなど、とんでもない。

あるネットユーザーを考え込ませたのは、ピネのふたつの書き込みに見られる矛盾だ。そのネットユーザーはさっそく“Le Post”というサイトに登録して、意見を書き込んだが、そこにはすでに113,000ものアクセスがあり、15日の最多アクセス記事になりそうだ。彼はその記事で、ジョナタン・ピネだけでなく、サルコジ大統領のネット・キャンペーン責任者だったアルノー・ダシエ(Arnaud Dassier)もDSK逮捕の情報を最も早くツイッターに書き込んだ一人だったことを紹介している。アルノー・ダシエは、ポルシェ事件として知られるDSKの贅沢な暮らしぶりを糾弾するメディアの過熱報道に大きな役割を果たしていた。そこでこのネットユーザーは自問する。これは単なる偶然なのか、それとも本当にDSKに対するひどい陰謀なのだろうか・・・

ピネは『ル・モンド』からの問い合わせに答えていない。しかし、ソフィテル・ホテルで働いており、事情に通じているというピネの情報源がDSKはホテルで逮捕されたと早とちりをしたということもありえない訳ではない。

多くのネットユーザーは、DSKの2012年の大統領選への立候補を妨害するための陰謀だと確信しているようだ。

サイト“Le Post”でも、かなりの会員がこの事件はあまりに雑で真実とは到底思えないと考えているようだ。この事件を伝える『ル・モンド』の電子版でも多くの読者が不信感を表明している。「DSKほどの責任のある立場の人間が、このようなばかげたリスクを犯すとは考えられない」、「到底真実とは思えず、だまし打ちだったのではないかといういかがわしい臭いがぷんぷんしている」・・・また幾人かは、ソフィテル・ホテルを経営しているアコー・グループ(Accor)の経営者は政権与党に近いのだろうか、それとも関係は希薄なのだろうか、と自問するコメントを残している。

現在確かなことは、DSKが告訴されたということだけであり、しばらくすればDSKの弁護が聞けるだろう。

・・・ということなのですが、裁判所に連行される、厳しい顔つきながら憔悴の色が見えるDSKの姿がすでに映像で流されています。真実はどこにあるのでしょうか。

2008年にDSKがIMF職員との親密な関係を批判された折、UMPの幹部は色事師としての面がDSKのアキレス腱になるのではないかと語っていました。UMPはDSKの弱点を知っていたことになります。

また事件のあったのがフランス系ホテル、逮捕現場はエールフランスの機内。しかも性的暴行で訴えた女性はソフィテルの正規従業員ではないという情報もあります。そしてフライング気味のツイッターでのつぶやき・・・

やはり、臭いますね。これからしっかりした捜査で真実が明らかになって行くのでしょうが、結果がすぐに出るとは思えません。誰が得をするのか・・・社会党の公認候補を決めるのがこの夏から秋。それまでにDSKの無罪が確定しない限り、大統領選への出馬はまず無理でしょう。社会党候補がDSKでなければ、他の社会党候補、サルコジ大統領、極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首の三つ巴になり、誰にも勝利の目が出てくる・・・

早計に決めつけることはできませんが、フランスの多くのネットユーザーと同じように、やはりどこか臭っている、と思えて仕方がありません。
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