ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

世界の若者たちは、何を夢見ているのか――①

2011-01-27 20:24:41 | 社会
夢見る力・・・昔むかし、どこかの小さな小屋で『夢見る力』という芝居を見た記憶があるのですが、どこだったのか、思い出せません。内容は言うまでもなくまったく思い出せないのですが、「夢見る力」という言葉はなぜか記憶の片隅で生き続けています。また最近では、『泥の河』でお馴染みの小栗康平監督の評論文『夢見る力』が高校生の現代文の教科書に載っているそうです。小栗監督とは、『伽倻子のために』が公開された頃、どこかの飲み屋さんで少しだけ話したことがあるのですが、何を話したのか、すっかり忘れてしまっています。砂時計の砂のように、時の流れの中を落ち続ける記憶・・・

そんな五十男の繰り言ではなく、将来ある若者たちの「夢見る力」が今日のテーマです。新たな千年期のはじまりに生きる若者たちは、世界の国々で、どんな夢を描き、どんな気持ちで日々を過ごしているのでしょうか。国際化の時代、日本の若者だけでなく、世界の若者たちがどんな価値観を持ち、どんな夢を未来に託しているのか、気になるところですね。

21日の『ル・モンド』(電子版)がお誂え向きのデータを紹介してくれていますので、その6つのデータを日本の若者中心にまとめてみます。

調査は有名な政治学者・レニエ教授(Dominique Reynié:パリ政治学院教授)の監督の下、政治改革財団(la Fondation pour l’innovation politique:2004年にUMP・国民運動が設立)の研究者たちが質問を設計し、実査は調査会社のTNS Opinionが行いました。対象者は、世界25カ国の16歳から29歳までの若者で、総数32,700人。調査方法は、ネット上で質問に答えるものだけに、ある程度富裕な層に属しており、世界の動きに敏感な人々の回答であることは考慮に入れておく必要があります。対象国は、アジアからは日本・中国・インドの3カ国、アフリカからは南アフリカ・モロッコの2カ国、北米はアメリカ・カナダ、中南米はメキシコ・ブラジル、中近東はイスラエル・トルコ、オセアニアはオーストラリア、残りの13カ国がヨーロッパという構成です。

まずは、「自分の将来に希望が持てるか、また自分の国の将来は明るいか」。自分の将来が明るいとする割合の多い順に列挙すると・・・

(左:自分の将来は明るい)(右:国の将来は明るい)
インド    : 90%   83%
ブラジル   : 87%   72%
アメリカ   : 81%   37%
メキシコ   : 81%   23%
ロシア    : 81%   59%
イスラエル  : 81%   49%
南アフリカ  : 81%   43%
カナダ    : 79%   65%
オーストラリア: 78%   63%
モロッコ   : 77%   67%
フィンランド : 75%   61%
ポーランド  : 75%   37%
スウェーデン : 75%   63%
イギリス   : 74%   34%
トルコ    : 74%   43%
中国     : 73%   82%
ルーマニア  : 70%   25%
エストニア  : 69%   39%
ドイツ    : 56%   25%
フランス   : 53%   17%
スペイン   : 50%   20%
イタリア   : 50%   22%
ハンガリー  : 49%   25%
ギリシャ   : 43%   17%
日本     : 43%   24%

さすが“BRICs”ですね、自信にあふれています。インド、ブラジルでは、自分の将来も国の未来もバラ色! ロシアは国の未来への自信はちょっと低下しますが、自分の将来は明るい。一方、中国の若者は、国はどんどん豊かになると思っていますが、自分の人生となると、ちょっと弱気になります。格差社会、上手くやった人間だけが良い思いをする社会だけに、国の将来ほどには自信が持てないようです。拡大するままに放置されている格差がチャイナ・リスクのひとつだと言われていますが、このデータからも窺い知ることができますね。

アメリカン・ドリームも個人レベルでは、まだまだ健在のようです。頑張れば、のし上がることができる。IT関連企業の若き創業者たちを見れば、誰だってそう思いますよね。しかし、国の将来となると、そうはいかない。世界の保安官としての自信は大きく揺らいでいるようです。

一方、西欧、そしてわれらが日本となると、これはもう悲観主義に毒されているのではないかと思えるほどです。個人レベルでは、日本は最下位。就職氷河期、派遣労働、膨大な財政赤字、破綻する社会保障・・・豊かな未来を思い描けと言う方が間違いなのかもしれません。国への信頼では、フランスとギリシャが最も悲観的。ギリシャはIMFの支援を仰いだくらいですから、明るい未来を国として持てるとは思いにくいのでしょうね。ではフランスは・・・フランス人特有のペシミズムの現れでしょうか。

次の質問は、「国際化は脅威か、よい機会か」。良い機会だと思う人の多い順に列挙します(トップ3・ボトム3と主要国のみ)。

中国     : 91%
インド    : 87%
ブラジル   : 81%
南アフリカ  : 77%
日本     : 75%
メキシコ   : 73%
オーストラリア: 73%
アメリカ   : 71%
ロシア    : 71%
イタリア   : 68%
イスラエル  : 66%
イギリス   : 65%
フランス   : 52%
トルコ    : 49%
モロッコ   : 49%
ギリシャ   : 49%

ここでも“BRICs”の自信はすごいですね。国際化はチャンスだ、あるいは国際化のお蔭で自分の国は大きく成長できた。特に中国では、チャンスだと思う人が90%を超えています。確かに外国資本の流入によって、人々の暮らしが豊かになりましたものね。そうした中で、ロシアだけが国際化は脅威だと思う人が少し増えて28%。自国内での他民族との紛争などが影響しているのでしょうか。

日本の若者は、将来には明るい絵を描いていないにもかかわらず、国際化はチャンスだという人が6番目に多い。4人に3人の割合。内向きだとか、留学が極端に減少しているとか言われているにもかかわらず、この数字。国際化=良いことだ、あるいはカッコいい、という図式が出来上がっているのかもしれません。それとも、単に回答者の特性が強く出ているだけなのでしょうか。

国際化でも、フランスとギリシャは下位。フランスでは、チャンスだ(52%)が脅威だ(47%)を少し上回っていますが、ギリシャに至っては脅威だという人が50%と過半数に達しています。国際化のお蔭で国がこんな財政状態になってしまった、という認識なのでしょうか。西欧、北アフリカ、中近東では、いわゆる「国際化」への懐疑が強いようです。国際化=アメリカ化という認識が広まっているのではないかという気がします。

3番目のデータは、「宗教」について。宗教が自分のアイデンティティにとって重要だと思うか、宗教に自分の時間を割いているか、という質問です。

宗教に最も熱心なのはモロッコ。次いで、南アフリカ、トルコ、インド。これだけイスラム教の影響が強いと、トルコのEU加盟も容易ではないですね。特に、EU側が極右の伸長に見られるように、反アラブ人という意識から反イスラムという意識に変わってきているだけに、難しそうです。南アフリカはキリスト教徒が多いようですが、これほど宗教の影響が強いとは知りませんでした。

キリスト教保守派、あるいはキリスト教原理主義とも言える人々が政治にも影響を及ぼしているアメリカは、ブラジル、イスラエル、ルーマニアと2番手グループを形成しています。自分のアイデンティティにとって重要な位置を占めていると言う人が55%前後、宗教活動に時間を割いている人もほぼ半数になっています。

逆に宗教色の薄い若者と言えば、言うまでもなく日本。ダントツの少なさ。自分の人生に宗教が大切だというのは20%ほど、宗教に時間を割いているのは10%もいません。この傾向は日本人全体に見られるわけで、今の若者に限った話ではありませんね。何しろ、八百万の神々のいる国、一神教の世界とは一線を画しています。

日本に次いで宗教の影響の少ない国は、フランス。他の西欧諸国も同程度で、自分の人生に宗教が重要だという人は20~25%、宗教活動に時間を割いているのは、10~20%。カトリック教徒ではあるが、“pratiquant”(教会へ通っている熱心な信者)ではない、という人が増えています。

ただし、カトリックの総本山・バチカンのあるイタリアとギリシャ正教の国・ギリシャは、ヨーロッパの中では宗教が人生や生活にまだ息づいているようで、ほぼ半数の人たちが宗教は自分のアイデンティティに重要な位置を占めていると答えています。ただし、宗教活動に時間を割いているのは30%程度の人たちに過ぎません。時系列的傾向は分かりませんが、イタリアやギリシャもやがてフランス、スペイン、ドイツなどの後を追うのかもしれませんね。

次の質問は、「政治への信頼」。政府への信頼と議会への信頼を分けて質問しています。政府への信頼の多い順に、トップ3・ボトム3・主要国を列挙してみます。

(左:政府への信頼度)(右:議会への信頼度)
中国   : 71%   68%
インド  : 71%   66%
イスラエル: 60%   54%
モロッコ : 60%   49%
トルコ  : 45%   41%
ブラジル : 35%   27%
ロシア  : 33%   29%
ドイツ  : 30%   31%
アメリカ : 30%   24%
イギリス : 29%   28%
日本   : 26%   20%
南アフリカ: 22%   22%
ギリシャ : 21%   18%
スペイン : 20%   17%
イタリア : 20%   17%
フランス : 17%   17%
メキシコ : 14%   16%

ここでも中国、インドのポジティブな回答が目立ちます。政府も議会もよくやっている(中国の場合は、全人代が議会にあたるのでしょう)。そのお蔭で今の成長がある、ということなのでしょうね。経済が成長し、暮らしが良くなれば、すべて良し。日本も高度成長時代は同じようだったのではないでしょうか。しかし、成長の陰に隠れた問題を見過ごすと、問題の先送りになってしまうことは肝に銘じておかないといけないのでしょうね。日本がいい例です。

その日本ですが、政府への信頼感が26%、議会へは20%。25カ国中、下から9番目の低さです。内閣がコロコロと変わり、政治不信とも言われていますが、その日本より政治不信の強い国がある。下には下がある、ということですね。

財政破綻したギリシャ、しそうなスペイン、イタリア、麻薬取引に絡む汚職や殺人が後を絶たないメキシコ・・・これらの国々での政治不信は目を覆うばかりですが、その中にフランスも。悲観主義のなせる技なのか、政治への関心の強さゆえに辛辣な批判になるのか、それともサルコジ政権への不満の表れなのか。

5番目の質問は、「環境汚染」です。環境汚染は社会にとって大きな脅威となっているかどうか・・・

中国    : 51%
カナダ   : 49%
インド   : 46%
スウェーデン: 46%
ブラジル  : 45%
イタリア  : 45%
フランス  : 40%
メキシコ  : 38%
ロシア   : 36%
アメリカ  : 29%
南アフリカ : 28%
日本    : 22%
イギリス  : 22%
ポーランド : 18%
トルコ   : 16%

ここでも成長著しい中国、インドが上位に来ています。工場からの廃液の垂れ流し、大気汚染、農薬被害・・・急成長に追い付かない環境保護。法制度もですが、国民の意識も追い付いていないのではと思っていたのですが、この調査の対象者は半数とはいえ、それなりに汚染被害の深刻さを認識しているようです。この2カ国の間に、カナダ。雄大な自然が観光のセールスポイントでもある国なのですが・・・実際にひどい環境汚染があるというよりは、環境への関心が強いということなのでしょうね。

環境への関心の高い西欧はイギリスを除いて、30数%から40%ほどの人が脅威になっていると答えています。日本は22%。環境問題への取り組みがすでに十分行われているのか、喉元過ぎればで、関心が薄らいでいるのか。両方なのではないかと思います。

炭鉱の多いポーランドや大気汚染の指摘されたトルコで、環境汚染への不安が少ない。改善されたのか、意識がまだ十分ではないのか・・・

最後は「性に関するモラル」です。婚外の性的関係は認められるべきかどうか・・・性的関係は婚姻関係だけに限定されるべきだという人の多い順に並べると・・・

モロッコ : 85%
インド  : 74%
南アフリカ: 60%
トルコ  : 55%
日本   : 52%
中国   : 45%
アメリカ : 40%
ブラジル : 34%
ロシア  : 22%
EU平均  : 20%

モロッコの1位は宗教色を考えれば頷けますが、2位がインド。『カーマ・スートラ』をはじめ古代3大性典のある国ですが、今日では保守的な国になっているようです。日本の52%は実体に合っているのか、建前優先なのか・・・中国の45%は、そうだと思います。駐在時代ですからもう10年以上も前ですが、朝からバス停で抱き合い、キスをしているカップルもよく目にしました。すでに日本のラブホテル的なものもありましたし、かなり開放的なのかもしれません。

アメリカの40%はどうでしょう。イメージとはちょっと違うような気がしますが、宗教色の強い地域もあるでしょうし、意外とこんなところなのかもしれませんね。EU内では、フランスの10%、エストニアの12%が特に低いそうです。それだけ開放的というか、やはり、フランス人は、というべきか・・・

イメージ通りで、やっぱりという項目もありますし、逆に、へ~、そうだったのという新鮮な発見もあります。ネット上での調査だけに、調査対象者のプロフィールに若干の偏りがあるとはいうものの、それでも、それぞれの国のイメージの強化や修正ができるのは、ありがたいものです。その調査結果はともかく、次の時代を担う若者たちには、ぜひ大きな夢見る力を持ち続けてほしいと思います。そして、先の世代は、若者たちが夢見る力を持ち続けられるよう、社会環境の整備に努めるべきなのではないでしょうか。そう思います。