ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

大統領と首相、2011年への抱負。

2011-01-04 21:00:20 | 政治
フランスの大統領は、毎年12月31日の夜8時から、テレビとラジオを通して翌年の抱負を語ることが慣例になっています。過去との決別を標榜するサルコジ大統領も、フランス国旗だけではなくEUの旗を並べて背景に掲げるといった新しい試みは導入しましたが、新年へ向けた大晦日の決意表明は止めることなく継続しました。そして2010年12月31日にも、同じように2011年へ向けた、いわば年頭所感を表明しました。その全文が31日の『ル・モンド』(電子版)に掲載されています。

一方日本では、首相が元日付で年頭所感を発表しています。今年も菅首相の年頭の辞が官邸のサイトに掲載されています。

ちょっと(と言ってもちょっと長いのですが)読み比べてみましょう。まずは、サルコジ大統領のメッセージから・・・

「多くの皆さんにとって厳しい年であった2010年が終わろうとしています。3年前に始まった経済・財政危機はまだその終焉を迎えず、その影響で多くの人が職を失い、その危機に何ら責任のない給与所得者がより一層大きな不公平感を抱く状況になっています。しかし、フランス国民の努力、頑張り、適応力、フランス経済の力強さ、そしてフランス社会の整備されたシステムにより、景気の後退は他の国々より厳しさも少なく、期間も短いものとなっています。

来る2011年は希望の年であります。成長が戻ってきます。緒に就いたさまざまな改革がその成果を発揮し始めます。自立した大学はかつてなかった近代化を押し進め、研究者たちは潤沢な資金援助を活用することになります。企業は税制の優遇措置を受け、イノヴェーションを推進します。残業料控除という優遇措置を500万人以上の給与所得者が享受することになり、雇用者である企業ともども、経済危機の渦中にあって購買力が上向くことになります。

破綻寸前であった年金制度は、改革によりすんでの所で危機を脱しました。フランスは初めて暴力や混乱なしに主要なシステムの改革を行うことができました。それは最小サービス(le service minimum:ストなどの際に医療・交通など社会活動を維持する最低のサービスを保証すること)がうまく機能したこと、そして避けられない痛みを分かち合うことを受け入れたフランス国民の責任感に負うところ大であります。フランス国民の成熟度、その知性に改めて敬意を表したいと思います。

経済の嵐に直面し、EUの対応は十分でなく、迅速でなかったかもしれませんが、とにもかくにもEUは倒れることなく、またフランスを守ってくれました。どうか国民の皆さん、ユーロ圏を離脱するなどという意見に耳を貸さないでください。フランスが孤立するなどとは、なんとばかげた話でしょう。ユーロの解消は、EUの終焉であります。ヨーロッパに平和と協調をもたらしたこの60年に及ぶEU建設の努力をないがしろにするような後退論には反対です。私はつねにEUに賛同し、EU加盟各国と力を合わせて域内の産業保護、相互扶助、通商協議での勝利のために戦ってきました。ですから、なおのことEUの後退論には断固反対します。EUこそわれわれの未来であり、アイデンティティであり、価値なのです。

2011年を迎えるにあたっての最大の目標は、われわれの強みを一層強固なものにし、弱点を克服するよう、たゆまぬ努力を続けていくことです。そのためには、競争力を高め、若者の教育水準を向上させ、より良く働き、公共支出と財政赤字を少なくし、われわれの自主独立を危ういものにしないことが大切です。EU内で起きたことを振り返ってみてください。先のことを考えず、分不相応な支出をした国々は大きなつけを払わされることになりました。従って、私がまずやらなければならないことは、フランスが同じ轍を踏まないようにすることです。財政バランスを取りながら政策を実行していくことが大切であり、この点において妥協は許されません。

2012年には大統領選挙という大きな政治日程が控えています。しかしその前年だからと言ってのんびり構えていることは許されません。世界は驚くべき速さで変化しているのですから。2011年がフランス国民にとって充実した年とならなければなりません。国家の利害、国民共通の財産が焦点になっているときに、困難だからと言って尻込みしているわけにはいきません。

私の務めは、あらゆる局面において、国家、国民全体の利害を守ることです。任期が切れる瞬間まで、その務めを全うします。そのためにも、改革は継続します。改革こそが、われわれのモデル、アイデンティティを守るものであり、フランスとフランス国民を守る方法なのです。高齢化の中で一人一人がその尊厳を維持できるよう、その依存状態から国民を守ること。ドイツとの協力により財政バランスを取りながら企業の海外移転を抑制し、国民の職場を守ること。軽罪裁判所での判決を国民から選ばれた裁判人に委ねることにより、繰り返される犯罪、より凶暴化する暴力から国民を守ること。国に困難をもたらすような行動にどのような厳しい態度で臨むのか、それを決めるのは国民なのです。

私が全幅の信頼を寄せるフィヨン首相、そしてその内閣と力を合わせ、今求められている雇用を創出し、フランス人に繁栄をもたらすことができるよう、全力で取り組んでゆきます。皆さんの声に耳を傾け、皆さんと対話をし、時が来たれば、真実と正義の名にふさわしい決断をもって、自らの務めを全うしてゆきます。

務めを果たす際には、共和制の原則、つまり政教分離(la laïcité)と共同体主義の否定(le rufus du communautarisme)に忠実に則ってゆくことは言うまでもありません。ブルカ着用を禁止する法律は国民の心の中にも浸透することでしょう。義務を伴わない権利は存在しないということをそれぞれに思い起こすことになります。学校教育も義務です。ずる休みは許されるべきものではなく、その結果は落第となるのです。法を遵守することは欠くべからざることであり、法律はけっしてないがしろにしていいものではありません。同様に、フランスにやってくる人々にはフランスへの敬意の念を持つべく要求するものです。機会の均等と正義は、平等主義でも自助努力を妨げる支援でもなく、労働を最も大切なこととして再評価することへと私たちを導いて行くのです。そして自由とは、めいめいが抱く他人への尊敬の念を伴うべきものなのです。

今年一年、フランスはG20とG8の議長国という重責を担います。議長国としてフランスはより良くコントロールされ、決して牙をむくことのない世界という考えを支持します。その相互依存の世界では、お互いの意見により真摯に耳を傾けることが大切になります。また、多極主義、人権の擁護、開発のための戦い、地球環境の保護という我らが価値観を手放すことなく、フランスの利益を図っていきます。

皆さんにとって2011年が幸多き年でありますように。苦痛や混乱の中にある人々、特にその解放をぜひとも実現すべき、人質となっている人々、家族から遠く離れ、私たちの価値と自由を守るために命を危険にさらしながら戦っている兵士たち、そうしたフランス国民への思いが消え去ることはありません。

共和国、万歳。フランス、万歳。」

・・・国家は国民を守る。ただし、国民は国家に頼り切るのではなく、自らすべきことはしっかりとなすべきである。権利と義務、機会均等の上での格差、自分の自由と他人への敬意。そして、フランスの価値を守ること、フランスの国益を守ることが政治家の務めである・・・そのようなメッセージなのでしょうね。

次いで、菅首相のメッセージです。

「菅内閣の発足から半年。成長と雇用による国づくりで元気な日本を復活させる。これを内閣の目標に掲げ、補正予算を柱とする経済対策を実施し、来年度に向け「元気な日本復活予算」を取りまとめました。安心と活気を拡大する精一杯の支援を盛り込んでいます。国民の皆様から広く理解と支持をいただき、国会で成立させなければなりません。そこで、年の始まりに当たり、私が目指す国づくりの方針、理念を改めて提示したいと思います。

 一つ目の国づくりの理念、それは「平成の開国」です。新興国の台頭は、安全保障と経済の両面で世界の勢力図を大きく変えています。こうした状況にあって、留学生の減少に象徴されるように、我が国の内向き傾向が懸念されています。世界が地殻変動とも言うべき大きな変化に直面している中、従来の発想に囚われていては新しい展望は開かれません。私は本年を、近代化の途を歩み始めた明治の開国、国際社会への復帰を始めた戦後の開国に続く、「平成の開国」元年にしたいと思います。既に包括的経済連携に関する基本方針を定めました。これに則り、欧州連合や韓国、豪州との交渉を本格化させるとともに、環太平洋パートナーシップについて関係国との協議を行っていきたいと思います。

 この第三の開国には過去の開国にはない困難も伴います。価値観が多様化する中、明確なビジョンを提示し、国民の総意を形成する努力を地道に積み重ねていかねばなりません。例えば、貿易自由化で農林漁業の衰退を懸念する声があります。私は、貿易自由化と農林漁業の存続が相反する目標であるかのような先入観を排し、新しい農林漁業の可能性を追求します。今年前半までに開国と農林漁業の活性化を両立させる政策を提示したいと思います。安全保障面では、東アジア地域に北朝鮮の問題や海洋の問題など不安定で不確実な状況があります。我が国自身が防衛面で努力しつつ、日米同盟を二十一世紀にふさわしい形で深化させ、国民の安心・安全に万全を期します。

 私が掲げる二つ目の理念は、「最小不幸社会の実現」です。この国に暮らす皆さんに夢を存分に追い求めていただくためには、病気、貧困、失業といった不幸の原因をできる限り小さくすることが大前提となります。来年度予算は、子ども手当の拡充、求職者支援制度の創設、年金の安定確保などを盛り込みながら、事業仕分けの拡大により当初設定した財政健全化の目標も守りました。しかし、こうした努力だけで膨らむ社会保障の財源を確保することには限界が生じています。そもそも財政とは、国民が享受すべき生活の保障、活動の支援を分かち合いの精神で実現するためのものです。どのような仕組みがこの国に適しているのか、いよいよ国民的議論を深め、今年半ばまでに、社会保障制度の全体像と併せ、消費税を含めた抜本改革の姿を示したいと思います。

 私が掲げる三つ目の国づくりの理念は、「不条理を正す政治」です。「平成の開国」、「最小不幸社会の実現」のためには、国民の信頼に足る政治が不可欠です。不公正や不条理をきちんと正す政治を行うことにより、政党や政権といったレベルにとどまらない、政治システム全体に対する国民の信頼を得て、大きな変革を推進することができると考えます。昨年、新卒者雇用、待機児童ゼロ、HTLV-1対策、硫黄島の遺骨帰還といった課題で特命チームを設けました。苦しんでいる人がいる不条理を放置するわけにはいかない。この私の政治家としての信条、民主党結党の精神を行動に移したものです。そして、一昨年の政権交代にも、従来の政治がなおざりにしてきた不条理を解消して欲しいという国民の期待が込められていたと思います。残念なことに、政治とカネの問題に対する私たちの政権の姿勢に疑問が投げかけられています。今年こそこの失望を解消し、国民の支持を受けた改革を断行していくことを誓います。

 昨年、京都のジョブパークや新宿のハローワーク、芦屋の高齢者孤立化防止サービス、千葉や山形の若い世代も参加した元気な農業など様々な現場を視察しました。そこには、支え合って困難を乗り越え、夢を追いかけるために奮闘する姿がありました。姫路では、御自身も病気と闘いながら保護司を務めておられる方が「支援した若者が何とか通学し、卒業式を迎える日は我がことのように嬉しい」と語ってくれました。新宿のジョブサポーターは、担当した学生さんが「この方に出会って辛い状況を乗り越え、就職先を見つけることができた」と語る姿に涙を流して喜んでおられました。失業や孤立といった困難から立ち直ろうとする人に身を捧げる尊さ、地域で温かく支える力強さ、相手の視点で地道に応援する謙虚さ。献身的な姿に政権を担当する者として多くを学びました。

 私の掲げた国づくりの三つの理念を結ぶのも、支え合い、分かち合いの絆だと思います。苦しいときに支え合うからこそ喜びも分かち合えるのです。国民の皆様と日本の絆を太く大きく育てる。そのような一年となるよう頑張っていきます。」

・・・平成の開国、最小不幸社会の実現、不条理を正す政治。これらが実際にはどのような施策になり、その政策が国民の暮らしにどのように影響を及ぼすのか・・・まずは、明確なビジョンの提示と、国民の総意形成へ向けたオープンな議論が必要なのでしょう。政権交代から1年半近く。まだまだ新しい政治のスタートが切れていないようです。

・・・フランスの大統領と日本の首相、それぞれが掲げる今年の目標。さすが国際化の時代、共通する課題もありますが、それぞれの国で、どの部分が、どのように実現されていくのか。年頭の目標は実行に移されるのか、絵に描いた餅で終わるのか。しっかりフォローしていこうと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする