覚えていますか、マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』(Les enfants du Paradis)。ドイツ軍占領下で制作され、1945年の公開。主演は、アルレッティと希代の名優ジャン=ルイ・バロー。脚本は、シャンソン『枯葉』(Les Feuilles mortes)の作詞でもおなじみのジャック・プレヴェール。映画史上に燦然と輝くこの名画は2幕構成。その第1幕が、「犯罪大通り」(Le Boulevard du Crime)です。犯罪大通りで繰り広げられる犯罪と恋愛。人生のショーケース・・・
その犯罪、それも暴力行為が今フランスで増えているという調査結果が公表されました。発表したのは、ONDRP(l’Observatoire national de la délinquance et des réponses pénales:国立軽罪処罰監視機構)。概略を21日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。
INSEE(l’Institut national de la statistique et des études économiques:国立統計経済研究所)と共に2009年に、14歳以上の男女、16,500人を対象に調査を行い、その結果からフランス全土でどれくらいの犯罪被害者がいるかを推定しています。
対象者の20.5%が治安に不安を感じており、2008年より1ポイント増。2007年から急に増加している。(治安が国民の間では大きな関心事、解決すべき課題になっているようです。)
盗難およびその未遂の被害者が470万人、身体的暴行・性的暴行の被害者が120万人近くに達している。(フランスの人口は6,500万人ですから、盗みの被害にあった、あいそうになったという人は7.2%、14人に1人の割合。暴行の被害者は1.8%で、54人に1人! すごい確率ですね。)
こうした数字は、政府が発表するものよりもはるかに多い。盗難及びその未遂被害に関しては、政府発表は警察への届け出に基づいており、150万人と発表されているが、今回の調査結果からの推計はその3倍に達している。身体への暴行や性的暴行の被害者は、政府発表では20万から25万人で、ONDRPの発表はその4~5倍になる。
ONDRPは、自らの調査結果は政府発表の数字を補完するものであり、どちらが正しいか比較することに意味はない。それよりも、ふたつの統計数字が、同じトレンドを示していることに注目すべきだと述べている。数年前から盗難は減少している一方、暴力行為が増加している、という傾向だ。(閉塞感、イライラ、そのような気分がフランス人の間にも広がっているのでしょうか。)
2009年におよそ350万人が何らかの破壊行為の被害に遭っており、そのうち210万人が乗用車に対する被害だ。(大都市の郊外を中心に、毎晩かなりのクルマが放火され、炎上しています。また最近では、高速道路での渋滞中に、ドア越しにバッグなどを強奪していく犯罪が急増しています。)また、脅迫の被害にあっているのは、170万人。
一方、家庭内の暴力では、18歳から75歳までの女性、30万5,000人がその被害にあっている。家庭内暴力は、被害者も多く、しかもなかなか解決しない問題になっている。ONDRP関係者は、多くのフランス国民が抱いている治安への不安の一因は、経済危機かもしれないが、このことについては精査する必要がある、と述べている・・・
こうした記事を読んでいて思い出すのは、「日本人は水と安全はタダだと思っている」。確か、『日本人とユダヤ人』の中で山本七平氏が言っていたと思いますが、確かに、安全はタダではない。国家間はもちろんですが、個人の問題でもそうです。一歩海外に出れば、ボーっとしていると貴重品まで盗まれてしまう。私は、自慢ではありませんが、クレジット・カードとデジカメを盗まれたことがあります。それ以来、余分なバッグ等は手に持たず、財布はズボンの前ポケットに入れています。
そして、この記事にあるように、フランスも例外ではない。ないどころか、観光地ゆえ、スリは非常に多い。特にエスカレーター付近や、メトロの乗降口付近。二人組のスリが多く、一人がカモの前で突然しゃがみこみ、狙われた観光客があれ何をしているのだろうと下を向いている間に、もう一人が後ろからポケットやカバンの品物を盗み取る。
また、一般家庭への空き巣も多い。特にヴァカンスなどで多くの家庭が留守にするシーズンは、空き巣の稼ぎ時。二日以上留守にする際は、必ず鎧戸を占めていくようにと、大家さんにしっかり忠告されたことを思い出します。
花の都、パリは、実は犯罪大通りでもある! そうしたことも一因となり、パリに住み始めて、がっかりした、パリがこんな街だとは思わなかったと、失望の日々を送ることになる日本人も多いようです。あるフランス人女性が言っていました。日本人はみんなフランスが地上の楽園のように思って来るみたいね。でも、住み始めれば、嫌なところも見えてくるでしょ。それでがっかりしてしまうのでしょうけれど、どうして地上の天国だなんて思いこんで来るのかしら・・・
確かに、不便なところがたくさんあります。深夜電力利用の給湯器なので、シャワーの途中で水になってしまうこともある。トイレのパイプが詰まってしまうこともある。しかも、修理を依頼しても、4日も5日もかかったりする。人種差別に合うこともある。あの雑誌で見たパリジェンヌの優雅な生活はどこへ行ってしまったの? テレビで見たパリのおしゃれな暮らしはどこにあるの?
フランスには、犯罪大通り(Le Boulevard du Crime)がいっぱい。間違っても、地上の楽園(un paradis terrestre)ではない。“Paradis”と言うなら、天井桟敷(le paradis)から芝居を見る程度にとどめておいた方がよいようです。もちろん、良い所もたくさんありますが。
その犯罪、それも暴力行為が今フランスで増えているという調査結果が公表されました。発表したのは、ONDRP(l’Observatoire national de la délinquance et des réponses pénales:国立軽罪処罰監視機構)。概略を21日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。
INSEE(l’Institut national de la statistique et des études économiques:国立統計経済研究所)と共に2009年に、14歳以上の男女、16,500人を対象に調査を行い、その結果からフランス全土でどれくらいの犯罪被害者がいるかを推定しています。
対象者の20.5%が治安に不安を感じており、2008年より1ポイント増。2007年から急に増加している。(治安が国民の間では大きな関心事、解決すべき課題になっているようです。)
盗難およびその未遂の被害者が470万人、身体的暴行・性的暴行の被害者が120万人近くに達している。(フランスの人口は6,500万人ですから、盗みの被害にあった、あいそうになったという人は7.2%、14人に1人の割合。暴行の被害者は1.8%で、54人に1人! すごい確率ですね。)
こうした数字は、政府が発表するものよりもはるかに多い。盗難及びその未遂被害に関しては、政府発表は警察への届け出に基づいており、150万人と発表されているが、今回の調査結果からの推計はその3倍に達している。身体への暴行や性的暴行の被害者は、政府発表では20万から25万人で、ONDRPの発表はその4~5倍になる。
ONDRPは、自らの調査結果は政府発表の数字を補完するものであり、どちらが正しいか比較することに意味はない。それよりも、ふたつの統計数字が、同じトレンドを示していることに注目すべきだと述べている。数年前から盗難は減少している一方、暴力行為が増加している、という傾向だ。(閉塞感、イライラ、そのような気分がフランス人の間にも広がっているのでしょうか。)
2009年におよそ350万人が何らかの破壊行為の被害に遭っており、そのうち210万人が乗用車に対する被害だ。(大都市の郊外を中心に、毎晩かなりのクルマが放火され、炎上しています。また最近では、高速道路での渋滞中に、ドア越しにバッグなどを強奪していく犯罪が急増しています。)また、脅迫の被害にあっているのは、170万人。
一方、家庭内の暴力では、18歳から75歳までの女性、30万5,000人がその被害にあっている。家庭内暴力は、被害者も多く、しかもなかなか解決しない問題になっている。ONDRP関係者は、多くのフランス国民が抱いている治安への不安の一因は、経済危機かもしれないが、このことについては精査する必要がある、と述べている・・・
こうした記事を読んでいて思い出すのは、「日本人は水と安全はタダだと思っている」。確か、『日本人とユダヤ人』の中で山本七平氏が言っていたと思いますが、確かに、安全はタダではない。国家間はもちろんですが、個人の問題でもそうです。一歩海外に出れば、ボーっとしていると貴重品まで盗まれてしまう。私は、自慢ではありませんが、クレジット・カードとデジカメを盗まれたことがあります。それ以来、余分なバッグ等は手に持たず、財布はズボンの前ポケットに入れています。
そして、この記事にあるように、フランスも例外ではない。ないどころか、観光地ゆえ、スリは非常に多い。特にエスカレーター付近や、メトロの乗降口付近。二人組のスリが多く、一人がカモの前で突然しゃがみこみ、狙われた観光客があれ何をしているのだろうと下を向いている間に、もう一人が後ろからポケットやカバンの品物を盗み取る。
また、一般家庭への空き巣も多い。特にヴァカンスなどで多くの家庭が留守にするシーズンは、空き巣の稼ぎ時。二日以上留守にする際は、必ず鎧戸を占めていくようにと、大家さんにしっかり忠告されたことを思い出します。
花の都、パリは、実は犯罪大通りでもある! そうしたことも一因となり、パリに住み始めて、がっかりした、パリがこんな街だとは思わなかったと、失望の日々を送ることになる日本人も多いようです。あるフランス人女性が言っていました。日本人はみんなフランスが地上の楽園のように思って来るみたいね。でも、住み始めれば、嫌なところも見えてくるでしょ。それでがっかりしてしまうのでしょうけれど、どうして地上の天国だなんて思いこんで来るのかしら・・・
確かに、不便なところがたくさんあります。深夜電力利用の給湯器なので、シャワーの途中で水になってしまうこともある。トイレのパイプが詰まってしまうこともある。しかも、修理を依頼しても、4日も5日もかかったりする。人種差別に合うこともある。あの雑誌で見たパリジェンヌの優雅な生活はどこへ行ってしまったの? テレビで見たパリのおしゃれな暮らしはどこにあるの?
フランスには、犯罪大通り(Le Boulevard du Crime)がいっぱい。間違っても、地上の楽園(un paradis terrestre)ではない。“Paradis”と言うなら、天井桟敷(le paradis)から芝居を見る程度にとどめておいた方がよいようです。もちろん、良い所もたくさんありますが。