ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

社会党は政権をめざす、ことはない?

2010-11-12 20:14:38 | 政治
高校生のころ読んだ、五木寛之の『青年は荒野をめざす』。同名の曲がザ・フォーク・クルセダーズによって歌われていたようですが、残念ながらこの歌は記憶にありません。同じ五木寛之の『さらばモスクワ愚連隊』にしろ、1960年代後半から70年代前半、荒野をめざせとばかりに、海外へ放浪の旅に出た若者もそれなりの数、いたようです。ヒッピー、反戦、フランスでは五月革命・・・左翼運動がピークを迎えた時期でもありました。

そして今日、40年の歳月が過ぎてしまえば、かつての盛り上がりはどこへやら。フランスの社会党では、2012年の大統領選へ向けて、候補者がいない可能性すら出てきている! 1日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

2年前、リーマン・ショックによる経済危機が発生するや、フランス、そしてヨーロッパの社会党あるいは左派はどのようにこの危機を利することができるのだろうか、と大きな関心を集めた。彼らの主張する市場のコントロール、抑制のきいた資本主義が正しかったと認められた訳であり、追い風を受けて順風満帆であっていいはずなのだが、まったくそうはなっていない。ヨーロッパの多くの国々で、社会民主党は廃れた活気のない社会を作り出すことはできても、世界規模での経済危機から脱出させることはほとんどできないと見られてしまっている。

フランスでは、経済危機以外の局面でも、同じようなことが起きている。この2カ月、年金改革に対して左派陣営は間断なく反対運動を続けてきた。サルコジ大統領の支持率は30%を切り、来週にも予定されている大幅な内閣改造を前に、フィヨン内閣は浮足立っており、失業者は400万人に達し、将来への不安は若者を中心に各世代にわたって広がっている。

しかし、左派陣営、特に社会党からは何ら対応策が提示されていない。世論調査は、経済危機の今日、たとえ社会党が政権にあったとしても、今より良い対応ができるとは思えない、という意見が大勢を占めてしまっている。また、2012年の大統領選挙でサルコジ大統領と相対すると思われる社会党の中心人物たちも、支持率は上げることはできても、国民の信頼を勝ち取るまでには至っていない。

調査会社、ソフレス(la Sofres)の世論調査にも如実に表れている。下記の社会党政治家に将来重要な役割を演じてほしいか、という質問に対し、期待しているという答えは、第一書記のマルチーヌ・オブリー(Martine Aubry)の場合、9月に44%だったのが、10月には39%へダウン、2007年の大統領選挙候補者だったセゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)は30%で足踏みを続けており、前第一書記のフランソワ・オランド(François Hollande)は30%を超えられずにいる。最も大きな期待を集めているIMF専務理事のドミニク・ストロス=カーン(Dominique Strauss-Kahn)ですら45%前後で頭打ちになってしまっている。

しかも、悪いことに、党内がまとまっていない。さまざまな意見が出されており、社会党の意見として集約することが難しくなっている。例えば、年金改革について、オブリー第一書記は、年金保険料の支払い期間の延長は認めても、60歳定年は譲れない、と言っていたが、ストロス=カーンは60歳という年金受給開始年齢は絶対的なものではないと発言し、また、社会党の報道官であるブノワ・アモン(Benoît Hamon)は年金保険の支払い期間延長について再検討する必要があると口を滑らせてしまった。ロワイヤルは60歳堅持派で、オランドは左派の現実主義を訴えている。これでは、党としてのありようを疑われても仕方がない。党内不一致は、経済問題でも顕著になっている。

2012年春の大統領選へ向けて、社会党の候補者選びは来年の秋にスタートするが、1回の投票で誰かが過半数を獲得するとは思えない。出馬表明にしても、2012年秋までIMF専務理事の任期があるストロス=カーンはできるだけ遅くしたいだろうし、オブリーは拙速な出馬表明は避けるだろう。すると、誰も積極的に大統領の座を狙っていないのではないかと見られてしまう。一方、現職のサルコジ大統領は、再選への決意をことあるごとに表明している。これはボディ・ブローのように効いてくる。

左派として大統領選で勝利するには、社会党以外の政党と共闘を組まなければならないが、極左だけでなく、緑の党(les Verts)をはじめとする他の左派政党との関係もぎくしゃくしている。

現状はつまり、社会党の候補者と見られる政治家たちは、本気で大統領選を戦う意欲がなく、党内の親善試合で満足しているように見えてしまう。これでは、2012年の選挙、社会党候補はどこへ行った、になってしまいそうだ・・・

社会党候補はどこへ行った、と言えば、反戦歌の『花はどこへ行った』を思い出しますね。60年代、PPM(ピーター・ポール&マリー)のカバーでヒットしました。『社会党候補はどこへ行った』・・・サルコジとの戦いは回避したいという社会党の反戦歌になってしまうのでしょうか。

なお、調査会社・IFOPが行った社会党政治家に対する別の調査結果が8日の『ル・モンド』(電子版)に簡単に紹介されていました。

・左派の考え・価値観に最も忠実なのは・・・
マルチーヌ・オブリー(30%)
フランソワ・オランド(16%)
ドミニク・ストロス=カーン(14%)
セゴレーヌ・ロワイヤル(7%)

・大統領選挙で勝利を得ることができそうなのは・・・
ドミニク・ストロス=カーン(52%)
マルチーヌ・オブリー(12%)
フランソワ・オランド(5%)
セゴレーヌ・ロワイヤル(5%)

・共和国大統領としての資質に最も優れているのは・・・
ドミニク・ストロス=カーン(52%)
マルチーヌ・オブリー(8%)
フランソワ・オランド(4%)
セゴレーヌ・ロワイヤル(4%)

圧倒的にストロス=カーンへの支持が高いのですが、問題は、社会党っぽくない! サルコジ大統領の推挙でIMFの専務理事に就任したことが尾を引いているのでしょうか。あるいは政治理念自体が中道、右寄りに見られているのでしょうか。選挙に勝つ可能性に賭けるのなら、ストロス=カーン。しかし、それでは社会党が望む政治の実現につながらないかもしれない・・・悩める社会党。「みんな悩んで大きくなった」という昔のCMのようには、簡単にいかないようです。現実は厳しい。
コメント
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