ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

クロマグロをめぐる駆け引き・・・闇の舞台裏。

2010-11-11 20:38:44 | 社会
3月にカタールのドーハで行われたワシントン条約締約国会議、覚えている方も多いと思いますが、クロマグロの禁輸が採決されるとあって、日本でも大きな関心を呼びました。乱獲によって個体数が激減していると言われる地中海を含む大西洋産のクロマグロを絶滅危惧種に認定し、その商取引を禁止しようというモナコの提案。EUも一部修正した案を提案しました。しかし、両案ともに採決の結果、否決されました。日本を中心とした反対の国々の働きかけが功を奏して、モナコ案は、賛成20、反対68、棄権30という大差での否決でした。

地中海・大西洋で獲れるクロマグロの80~85%が日本へ輸出されているそうです。これが禁輸になったら日本への影響は大きかったですが、とりあえずそうした事態は回避されました。しかし、個体数はどうも減少しているようで、毎年、漁獲枠が決められています。いくら獲ってもいいという訳ではないのですが、しかし、日本への輸出は、儲かる! そこで、割当量を上回る漁獲が行われ、こっそり輸出されている。しかも、その実態を輸出国の政府が認識している上に、隠し立てまでしている。それも、禁輸の修正案を提出したEUの国々の政府が・・・「クロマグロ」の暗い舞台裏、7日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

調査報道機関である「国際調査ジャーナリスト協会」(ICIJ:International consortium for investigative journalists)が7カ月にわたって、クロマグロの漁獲を行っている10カ国の実態を調査。その結果を公表しました。それによると・・・

1998年から2007年までの10年間で40億ドル(約3,240億円)相当のクロマグロが漁獲枠を超えて獲られている。しかもいくかの国の政府が、その協定違反に大きな役割を演じている。その中でも特にひどいのがフランスだ。

2007年にフランス政府が漁獲枠のほぼ2倍に当たる1万トンのクロマグロを漁獲したことを公表したことが、地中海・大西洋のクロマグロの個体数激減が問題視される直接のきっかけになったのだが、その後もフランスは改善を行っていない。改善していないどころか、フランス政府は漁業団体とぐるになって、漁獲量を改ざんすることすら行っている! そして、輸出によって大きな利潤をあげている。

ICIJのウィルソン(Kate Willson)さん曰くは、クロマグロ取引を継続的に監視するシステムは機能していないと認めざるを得ない。漁業関係者は漁獲枠を超えて漁獲し、政府関係者は見て見ぬふりをしている。状況がどう改善されたかを知る術がないので、政府を信じるしかないのだが、現状の説明を求めてもフランスの食料・農業・漁業大臣(Bruno Le Maire:ブリュノ・ル=メール)は回答を拒否している。

毎年の漁獲枠は「大西洋マグロ類保存国際委員会」(ICCAT:フランス語表記はla commission international pour la conservation des thonidés de l’Atlantique)が決めており、例えば2010年の地中海における漁獲量は13,500トンだった。専門家によると、決められた漁獲枠をきちんと守っていけば、クロマグロが絶滅する心配はないのだが、今までは必ずしも守られてこなかった。今年の6月に、EU委員会は割り当てられた枠内に戻るまで、一時的に大型船による漁獲を禁止したが、沿岸漁業は引き続き認められている。

EU委員会は地中海における2011年の漁獲枠を10年の12,500トンから6,000トンに引き下げようとしているが、フランスを含むEU加盟の地中海沿岸諸国がこぞって反対を表明。来年の漁獲枠を決めるICCATの会議が今月の17日からパリで行われるが、それまでにEU共通の立場を明確にしておく必要がある・・・

拡大するEU。しかし、加盟国が増えれば増えるほど、政策をめぐる調整が大変になってきているようです。総論賛成、各論反対。クロマグロの絶滅は防がねばならない。このことに異を唱える国はないでしょう。そのために漁獲枠をきめ、しっかり守っていく。しかも個体数の調査により、必要であれば、漁獲枠を大幅に引き下げることもある。しかし、このことには漁業国が反対する。なぜなら、漁業者への支援をどうするのか。もし漁業者が割当量を超えて漁獲し、政府の補助がなくても生活できる収入を得られれば、政府の支出も増えずに済む・・・そんなところでしょうか。

それにしても、漁獲量を改ざんまでして、自国の都合を優先する。どんなにきれいな理念を叫んでいても、内実はこの通り。フランスはきたない、と取るか、フランスはしたたかだ、と取るか。意見が分かれるところでしょうが、大切なのは、世界にはこうした国々が多いということを認識することだと思います。しかも、国際化の時代、こうした国々と交渉していかなければならない。競争をしていかなくてはならない、ということを肝に銘じることが大切なのではないでしょうか。好むと好まざるとにかかわらず、島国にこもっていれば済む時代ではないのですから。