ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

悪化の一途をたどるフランスの貧困、しかし救う神あり。

2010-11-16 21:08:08 | 社会
経済危機の影響は、社会的弱者の上により重くのしかかっているようです。ウォール街の給与やボーナスはすでに危機以前のレベルに戻っているとか言われていますが、フランスで社会の底辺に生きる人々には、まだ明るい日射しは戻っていないようです。9日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

貧困や疎外の改善、社会正義の推進を目的としたNPO“le Secours catholique”(カトリックの救済)。1946年にジャン・ロダン神父(l’abbé Jean Rodhain)によって設立された団体ですが、活動の一環として、貧困など社会問題の現状をまとめた年次レポートを発表しています。その2010年版が9日に公表され、2009年の状況が明らかになりました。

2009年一年間に、“le Secours catholique”の63,000人に及ぶボランティアが支援の手を差し伸べたのはおよそ150万人で、経済危機の影響で対前年比2.1%プラスと、2年連続の増加になった。しかも、失業者や無収入の外国人といった以前から支援を必要としていた人々だけではなく、職に就いている人たちまでが援助を求めてやってきた。救いを求めて来た人たちに共通するのは、収入がないか、非常に少なく、日常の生活費や臨時の出費に対応できない人たちだ。働く気がないのではなく、職がない、あるいは低賃金の職しか得られない人々であり、こうした人たちを見捨てることは大問題だ。

経済危機が就労に与えた影響は大きく、生活を改善させる可能性はさらに小さくなり、貧困層の暮らしをより一層不安定なものにしている。特に、子供のいる家庭、フランス人、あるいは正規の滞在許可証を持った外国人で40歳以下、しかも働いている人たちの中に、援助を求めてくる人たちが増えている。“le Secours catholique”のドアをたたいた人の62%が、職に就いている、あるいは求職中だった。しかも、その割合は年々増えている・・・

“travail pauvre”・・・日本で言うところのワーキング・プアが増えているそうです。以前のRMI(le revenu minimum d’insertion:社会復帰最低収入手当)では、仕事が見つかると手当が減額されるため、働くより手当てを選ぶ人が多かったようですが、そうした傾向を解決すべく、「貧困と青少年に対する積極的連帯担当高等弁務官」というポストに2007年から就いていた、Emmaüs(エマウス:フランス人に最も愛されたフランス人、l’abbé Pierre・ピエール神父によって創設された慈善団体)の前会長、マルタン・イルシュ(Martin Hirsch)の提案によるRSA(le revenu de solidarité active:積極的連帯所得手当)が2009年6月から実施に移されました。この制度では、パートやアルバイトなどの職についても、給与が月880ユーロ(約10万円)以下なら、手当を引き続き受け取ることができ、働かずに生活保護を受けるよりは、少しでも働いた方が収入が増えることになります。このRSA、実施に移されて1年になる今年の6月時点で、申請したのは174,000人。60万から70万人はいるだろうと思われていたそうで、“le Secours catholique”も申請できる人の半分しか登録していないのではないかと見ているそうです。こうした制度自体を知らないのか、申請の仕方がわからないのか、働いているからとRSAを申請していない結果、働いているにもかかわらず、生活が苦しく、慈善団体の支援が必要な人が増えてしまう。

ところで、マルタン・イルシュ氏、貧困問題に取り組むNPOの代表で、その活動を政策に反映させるべく、請われて政権内に。このあたり、日本の湯浅誠氏のフランス版のようですね。というより、2007年から政府で活動していたわけですから、湯浅氏の先輩格に当たるのでしょうか。多くの国で、貧困支援の現場の声を政策に反映させようという動きはあるようです。しかし、それが政策として実行に移されるかどうかは、国によって異なるようです。

さて、記事に戻ると、RSAの実施により働くことが魅力的になったにもかかわらず、働き口が見つからない人が今でも多いままだ。2009年、物価は安定していたが、それ以前の物価上昇をカバーできるほどには社会的弱者の収入は増えていない。“le Secours catholique”にやって来た中で、極度の貧困、赤貧洗うが如しという家庭を除く1,163世帯について調べたところ、平均収入は住宅手当を除いて759ユーロ(約85,000円)。そこから、家賃・電気・水道・保険・税金・交通費・教育費など削減できない支出515ユーロと、食料・衣料にかかる費用265ユーロを差し引くと、すでに21ユーロの赤字になってしまう。

しかも、医療費・住まいの修繕費・娯楽などの支出もあり、毎月平均141ユーロ(約15,000円)の赤字になっている。従って、多くの家庭が累積債務を抱えており、その額は増え続け、悪循環から抜け出せずにいる。特に地方では、働きに出るにもクルマが必要で、その分状況は一層困難なものになっている。

“le Secours catholique”はレポートの中で、託児所のある職場や地方における公共交通の充実などといった環境整備や、最低保証額の引き上げ、住宅支援の強化、正規雇用の増大、若者の教育などを改善策として提示している・・・

教会へ行くフランス人の割合は減り続けていますが、それでもキリスト教慈善団体の支援活動はしっかりと行われているようです。貧困問題は日本にとっても決して他人事ではありません。しかも、八百万の神がいると言われる日本。さらに多くの支援活動があってもいいのではと思うのですが、社会が違えば、活動も異なるのでしょう。人が違う、社会が違う、国が違う・・・どこにも、良いところと直すべきところがあります。それだからこそ、他の良い所は堂々と取り入れるべきだと思います。特に内田樹氏言うところの辺境国家・日本は、学ぶことにかけては天下一品なのですから。
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