ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

内閣改造の陰で、垣間見える2017年。

2010-11-15 21:47:20 | 政治
メディアがすでに伝えているように、サルコジ大統領は14日、フランソワ・フィヨンを首相に再任。その夜、第三次フィヨン内閣の閣僚が発表になりました。概略を下にまとめておきますが、この改造によってより鮮明に見えてきたのが、2017年、つまり次の次の大統領選へ向けた動きです。14日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

・首相:フランソワ・フィヨン(François Fillon)再
・国防・退役軍人大臣:アラン・ジュペ(Alain Juppé)新
・外務・ヨーロッパ問題大臣:ミシェル・アリオ=マリー(Michele Alliot-Marie)横
・エコロジー・持続可能開発・運輸・住宅大臣:ナタリー・コシウスコ=モリゼ(Nathalie Kosciusko Morizet)昇
・国璽尚書、司法・自由大臣:ミシェル・メルシエ(Michel Mercier)横
・内務・海外県・海外領土・地方自治体・移民大臣:ブリス・オルトフー(Brice Hortefeux)再
・経済・財政・産業大臣:クリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)再
・予算・公務員・国家改革大臣兼政府報道官:フランソワ・バロワン(François Baroin)再
・労働・雇用・厚生大臣:グザヴィエ・ベルトラン(Xavier Bertrand)新
・国民教育・青少年大臣:リュック・シャテル(Luc Chatel)再
・高等教育・研究大臣:ヴァレリー・ペクレス(Valérie Pécresse)再
・農業・食料・漁業・農業地域・国土整備大臣:ブリュノ・ル・メール(Bruno Le Maire)再
・連帯・社会統合:ロズリーヌ・バシュロ(Roselyne Bachelot)横
・文化・通信大臣:フレデリック・ミッテラン(Frédéric Mitterrand)再
・スポーツ大臣:シャンタル・ジュアノ(Chantal Jouanno)昇
・都市政策:モーリス・ルロワ(Maurice Leroy)新
*再=再任、新=新任、横=閣内で横滑り、昇=担当大臣や副大臣からの昇格
*他に担当大臣が7人、副大臣が8人
*閣外に去ったのが14名(担当大臣、副大臣も含む)

さて、この組閣により、自分の将来を確固たるものにしたと言われているのが、ジャン=フランソワ・コペ(Jean-François Copé)。しかし、上記の閣僚リストに見当たりません。では、どうして明るい展望が持てたと言えるのでしょうか・・・

労働・雇用・厚生大臣に新任されたグザヴィエ・ベルトランは、与党・UMP(Union pour Mouvement Populaire:国民運動連合)の総裁。何しろ政権与党の総裁だけに、その権力のほどは想像つきますね。シラク前大統領が創設した政党で、総裁にはアラン・ジュペ(元首相、今回の組閣で国防大臣に就任)、ニコラ・サルコジ、ベルトランが就いてきました。権力トップへの一里塚ともいえます。

UMPで国民議会(下院)幹事長に就いていたコペは、どうしてもベルトランに取って代わって与党トップの地位に就きたかった。それが2017年の大統領選をめざすには、どうしても必要だったわけです。

コペは『ル・モンド』のインタビューに答えて、党の団結維持をより重視するため、内相就任の要請を断り、党務に専念することを選んだ。大統領からも、信用しているから、頑張ってくれ、と承諾をもらった。こう述べていますが、実際はそんな牧歌的な状況ではなかっただろうと『ル・モンド』は述べています。

2017年をめざすこととUMPのトップの座に就くことを、事あるごとに表明してきたコペは、大統領周辺からあまりよく思われていなかった。しかし、議員の間での評判は良かった。ブルカなど全身を覆う服の公共の場での着用を禁止する法案の提出など大統領の意向に反する行動を取る一方、サルコジ大統領への忠誠を繰り返し述べるなど、絶妙なバランスを取ってきたからだ。また、ハイパー大統領のもとでは、議会の共闘、ハイパー議会が必要だというコペのコンセプトはUMP所属の議員たちに支持されている。

自らの野望を明確にし、しかも言うべきは言い、行うべきは行うというコペの態度は、2007年の大統領選を前にしたサルコジ大統領を彷彿とさせる。しかし、同時に、グザヴィエ・ベルトランとの対立をあからさまにすることになった。夏以降、コペのグループは、ベルトランら党の指導部批判を始めた。曰く、眠ったような党だ、提案することを忘れ、内閣に追随するだけの党になってしまっている・・・激しい党内抗争になった。

9月に入ると、コペは他の3人のシラク派(予算相のバロワン、農相のル・メール、元公務員相のジャコブ)とともに、結束を固めた内閣と再活性化した党が必要であり、この二つが2012年の大統領選に勝利をもたらすものだという論陣を張った。UMPは公開討論を何ら恐れることはないし、むしろ議論を躊躇することは下野する与党に見られる態度だ、とベルトランに対して筆を執った。

こうした行動力と野心は報われたことになる。サルコジ大統領はUMPをコペに任せることにした。ベルトランは閣僚に転じ、コペが与党の舵取りをすることに。右派の権力ある政治家としての地位を確立したことになる。後は、下院幹事長のポストをどうするかだが、取り巻きのジャコブ(Christian Jacob)に渡すのではないかとみられている・・・

閣僚の椅子に汲々とする、あるいはしがみつく政治家が多い中で、内閣に入るよりも政権与党内で権力を握ることを優先する。日本にもいそうですが、さて、フランス政界では、うまくいくのでしょうか。サルコジ大統領は、内相として治安回復に取り組み、その剛腕ぶりが国民の期待を集めました。その後、大統領選の2年半ほど前に与党のトップの座について選挙戦を戦ったのですが、コペ氏は2007年にサルコジ大統領が誕生してからは一度も入閣していません。このまま2017年まで行ってしまうと、10年もの間党務だけを行ってきたということになってしまいます。国民の期待はどうなるでしょうか。閣僚としての政策遂行能力と、政治的手腕が問われる党務。そのバランスと、タイミング。2017年をめざすジャン=フランソワ・コペの道、はたして無事ゴールにたどり着くことができるでしょうか。