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国家債務が雪だるま式に積み上がっている韓国で、「家計や企業の債務が限界を超えた」と経済学者らが警鐘を鳴らした。

文在寅政権の失策が引き起こした住宅価格の高騰を背景に、対GDP比の家計債務比率が主要37ヵ国中1位となるなど、資産市場崩壊を懸念する声もある

元韓国銀行金融通貨委員「家計及び企業負債が限界を超えた」

2022年2月10日から2日間にわたり、韓国で開催された「2022経済学共同学術大会(韓国経済学会・韓国国際経済学会主管)」では、政府と民間の負債をめぐる懸念の声が相次いだ。

韓国ハンギョレ新聞によると、韓国銀行金融通貨委員を務めた延世(ヨンセ)大学国際大学院のハム·ジュンホ教授が大会の事前配布した発表文の中で、

「韓国のマクロレバレッジ(民間・政府負債)水準が、GDP比254%まで拡大した」と指摘したそうだ。

「家計及び企業負債がすでに限界を超えたと推定される上に、政府負債も急速に増えている」とし、早急な対応を呼びかけた。

ソウル大学のキム・インジュン名誉教授が、『韓国経済危機か、機会か』というタイトルの基調演説で反発したのは、国家負債が急増しているにも関わらず、韓国の債務は他のOECD国水準より低いと主張し続ける政府の姿勢に対してだった。

「政府さえ、負債管理に対する長期的な青写真を出せないのは問題だ」と批判した。

米国のゼロ金利政策解除やパンデミックの影響など、マクロ経済環境の変化が顕著になっている現在、概ねの意見は韓国経済の構造的脆弱性を改善すべく、先制的な対応策が求められるとの一点に集中した。

文在寅政権下で家計債務残高が過去最高に

経済学者らが懸念を示すのも、当然である。

文在寅政権の5年間で、韓国の国家債務は過去最高額の400兆ウォン(約38兆2564億円)に膨張した。

韓国経済研究院は、国際通貨基金(IMF)の国家財政データに基づいた報告書の中で、「2026年までに韓国の国家負債比率がOECD(経済協力開発機構)加盟国中最も速く増加する」と予想している。

韓国の経済規模を家計債務が上回ったことを受け、2021年12月には韓国銀行(中央銀行)が警告を発した。

中央日報は、「家計負債規模が経済規模より大きい国は、世界で韓国のみだ」と報じた。

同国の家計債務残高は16年間拡大し続け、2021年4~6月期に過去最高の1,850兆9,000億ウォン(約176兆9,871億円)に達した。

国際金融協会(IIF) の調査によると、対GDP比は104.2%と主要37の国や地域の中で最も高く、増加速度も前年同期比6ポイント(以下、pt)増と最速だった。

韓国に次いで対GDP比家計債務率が高かったのは、香港(92.0%)、英国(89.4%)、米国(79.2%)と続く。増加速度が速かったのは、香港(5.9pt)、タイ(4.8pt)、ロシア(2.9pt)だった。

文在寅政権の不動産政策が引き起こした住宅バブル

韓国が世界1の家計負債大国に陥った最大の要因は、住宅価格の高騰である。

その高騰の元凶となったのは、文在寅政権による不動産政策の失敗だ。

ブルームバーグ紙の試算によると、韓国の住宅価格(インフレ調整後)は2021年12月までの23ヵ月間、継続的に上昇した。

韓国KB国民銀行のデータからは、2017年5月の文在寅政権発足時から2022年1月までの期間、ソウル市のマンション価格が2.2倍に上昇したことが明らかになっている。

「住宅価格の安定」を大統領選の公約に掲げて当選した文在寅政権は、過去4年半で25回もの不動産政策を発令した。

個人の多住宅保有や譲渡に対する税金の引上げや銀行からの貸し出し規制、賃貸事業者の廃止など、あらゆる価格抑制対策を講じたが、さらに価格を高騰させる結果となった。

融資規制の強化や金利引き上げ効果から、2022年2月の銀行家計融資残高は2ヵ月連続で減少したものの、 住宅担保融資の残高は2兆2,000億ウォン(約2,102億4,342万円)増えた。

利上げで家計の負担が増せば、その副作用は避けられない。

消費が冷え込み、経済成長が減速する可能性があるほか、すでに多額の負債を抱えている借り手の負担が増すことになる。

西江(ソガン)大学経済大学院のキム・ヨンイク教授はこのようなリスクを踏まえ、「住宅価格の安定が最優先だ」と、融資規制や利上げは根本的な解決策ではない点を強調した。

経営不振企業も大幅増加 資産市場崩壊への懸念高まる

経営不振企業も目立って増えている。

聨合ニュースや朝鮮日報によると、韓国の産業研究院が2010~20年にわたる製造業の不良兆候を分析した結果、不健全な兆候が見られる外部監査対象企業は32.8%(10.7pt増)、上場企業は30.4%(9.0pt増)へ上昇したという。

これらの企業は政府の支援金や銀行融資の延長で生存し続けているが、それが債務の山をさらに積み上げる原因になっているとの指摘もある。

3月「コロナ金融支援終了」で破たんリスク拡大?

3月には、コロナの金融支援措置が打ち切りとなる。中小企業と個人事業主が対象とはいえ、家計債務にも間接的な影響が及ぶことは間違いない。

2021年11月の時点で、中小企業と個人事業主は総額272兆2,000億ウォン(約27兆2,000億円)の債務を抱えていたという。

一部の専門家は、過剰債務が引き起こす資産市場バブルの崩壊への懸念を高めている。政府と民間の過剰債務、金利の引上げ、インフレなど、市場を揺るがす不安材料はふんだんに揃っている。果たして次期政権は、自国を経済崩壊の危機から救うことができるのだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)