日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2018-01-07 05:00:00
中国経済、「暴風予告」米国が18年3大リスクに掲げた理由?
世界の最大リスクは中国問題
米国を抜くことは絶対にない
世に、「目明千人、盲千人」という言葉ある。世の中の道理が分かっている人がいる反面、道理が分からない人も同数いる、という喩えである。
中国経済について言えば、国際機関がこぞって信用リスクに警鐘を打っている。
それにも関わらず、経済成長率の高さに幻惑されて、「中国経済は底堅い」と見ている向きがいるのだ。
米中関係についても同様な現象が見られる。昨年11月の米トランプ大統領訪中の際、トランプ氏と習氏が親密な関係を見せたので、「米中蜜月」と見るジャーナリストもいる。例えば、次の記事がそれだ。
「トランプ大統領は歴訪中にこの問題(注:インド・太平洋戦略)には積極的に言及しなかった。
それよりも貿易不均衡の解消、米国製品の売り込みに熱心だった。
2500億ドル以上の調達契約を結んだ中国では中国政府が嫌がる話は一言もしなかった。
(中略)中国メディアはトランプ大統領を『セールスマン』と皮肉った。
ワシントン・ポストはトランプ訪中を『台頭する中国のために天が与えた贈り物だ』と総括した」
(『朝鮮日報』12月31日付)コラム「トランプ政権下で強まる中国の対韓圧力」筆者は、同紙の崔有植(チェ・ユシク)国際部長)
この記事は、極めて皮相的な内容だ。
米国は、中国の対応を見るための「演技」をしていたことは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』が、手の内を詳細に報じている。
私のブログでも取り上げた。中国が、米国から「通商法301条」によって、その不正商慣行を暴かれる「被告席」に立たされようとしている。こういう底流の動きをキャッチできなければ、報道に価値がないのだ。
米国は、中国に対して極めて醒めた目で見ていることを知るべきだろう。
昨年10月の19回党大会で、習氏が2050年までに経済力と軍事力の両面において、中国が米国に対抗可能という大演説をした。
これが、痛く米国を刺激したのだ。「ここまでつけあがってきた中国を突き放す」という強い決意をしている現実を認識すべきだろう。
先の『朝鮮日報』国際部長は、米中がさや当てしている現実を詳細に把握すべきだ。
FRB(米連邦準備制度理事会)は、16年の政策金利引き上げの際、中国経済への影響を考慮して利上げを見送ったことがある。
この時点では、中国があからさまに米国へ対抗意識を持っているとの認識がなかったのだろう。
あえて、「中国を救う」という経済覇権国としての度量を見せたのだ。今後も、そういう計らいがあるかと言えば、否定的に見ざるを得ない。
「中国叩き」の一環として、米国だけの立場から金融政策を遂行するであろう。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、米国が「ジャパン・バッシング」(日本叩き)で日本経済を追い込んでいった、あの手荒い米国の手法を思い起こすべきだ。
世界最大リスクは中国問題
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月22日付)は、「投資家が知るべき2018年3つのリスク」の一つとして中国問題を挙げた。
この記事では、米国投資家のリスクとして
①米国の金融引締め、
②中国、
③株と債券の3つを上げている。これを見れば分かる通り、①と③は、純粋な米国の金融動向である。
そこへ中国問題が顔を出しているのだ。しかも、2番目にランクされている事実を楽観してはなるまい。ここでは、中国問題だけを取り上げる。
(1)「世界の株式相場が10%超下落したのは、直近では15年の夏と16年の初めだ。いずれも中国に対する懸念が引き金になった。
危険は相変わらずであるにもかかわらず、市場は懸念しなくなった。
このリスクは何年にもわたって議論されている。中国はあまりに多くの債務を抱え、存続できないプロジェクトの資金に充てている。
同国が取り得る対策として、人民元の切り下げ(15年には世界同時株安を引き起こした)、不良債権の再構築、債務増加を上回るペースでの経済拡大に向けた成長モデルの変更がある。
最初の2つには痛みが伴う上、成長モデル変更については、他の急成長国が試みた際にはリセッションを招くのが典型的なパターンだった」
中国経済は、抱えきれないほどの問題に直面している。
不思議なことに、専制国家の中国では、政府が上手く経済的難題を処理してくれるのでないか。
そういう、非現実的な期待を寄せている人々が多い。
かつて、中国を礼賛した社会主義経済学者も、一様に同様の主張をしていたが、もはやこうした「勇気ある主張」を聞くこともなくなった。
事態は、それだけ深刻なのだ。
中国が今後、取り得る対策は3つあると指摘する。
1,人民元の切り下げ。
2,不良債権の再構築。
3,債務増加を上回るペースでの経済拡大に向けた成長モデルの変更。
1と2は、実行すれば痛みを覚悟することだ。人民元切り下げは、大量の外貨流出を招くので外貨準備高3兆ドル台維持は不可能である。
不良債権の再構築では、デレバレッジ(債務削減)の促進である。
企業の資金繰りが逼迫化し市場金利の上昇を招くので、新規投資は見送られる。経済成長のエンジンが止まりかねず、GDPを著しく押し下げる。
3は、経済成長モデルの変更(投資主導から消費主導への切り替え)であるからリセッションを伴う。GDPに占める投資比率の引き下げは、一時的にGDPを急速に落ち込ませる。
消費がそれをカバーできないからだ。これまでの無軌道経済運営のツケが100%襲ってくるのだ。
要するに、1,2,3いずれの対策を取っても無傷ではあり得ない。
この認識について、これまで誰も真面目に考えていないことが最大の問題であろう。
民主主義国であろうと、専制主義国であろうと、過剰債務を積み上げた投資主導経済は、手術台での痛みに耐えなければ、経済が正常化しないのだ。
習氏は、その手術台での痛みを一日延ばしにしで逃げ回っている。一方では、世界覇権に挑戦するなどと「大言壮語」だけは勇ましいのだ。
(2)「習氏の思想は、成長のペースではなく質を重視することだ。それは完全に理にかなっている。
遅くても持続可能な成長は、債務主導の好景気とその後の破裂よりいい。
ただ古い産業をつぶすことなく経済を切り替えるのは難しい。
それは彼らの債務に対処し、その労働者に新たな仕事をあてがうことを意味する。
さらに悪いことに、資金供給の伸びが経済に及ぼす影響は遅れて表れるため、今年の拡大鈍化の影響は18年になってから感じられるかもしれない」
17年のマネーサプライ(M2)は、当初予想の約12%を大幅に下回って10%を割り込むのは確実である。16年が13%であった。
このM2の縮小は、当局の意図的な引締めでなく信用崩壊という現象だ。金融機関が、信用不安の相手へ貸し渋っているのが理由である。
回収不安のある企業に融資するはずがない。中国の末端では、信用不安が広く起こっていることに目を瞑ってはならない。
フリードマンの新貨幣数量説では、M2の変動がタイムラグ(時間の遅れ)をおいて実体経済に影響する。
かつての日本でも、随分と経済論争の的になった。
中国では、M2の減少が1年以上のタイムラグを伴ってGDPに現れるであろう。
中国での新規貸出しの過半は、ずっと住宅ローンである。企業貸出しは極端に減っているのだ。
不動産開発が下火になれば、中国経済を支える主要産業は消える運命である。
こうした状態では、古い産業(重厚長大)は消えていくが、新産業は生まれるはずがない。
中国では、スマホを使った新ビジネスが登場している。
決済やシェア・ビジネスが花盛りだ。P2Pという銀行を介さない資金貸借まで登場している。
だが、シェア・ビジネスの自転車業は乱立しており、証拠金を返済できないで倒産するケースが頻発。
P2Pも資金返済ができずに当局の規制対象となった。
中国の新ビジネスとは、こういう手軽なものばかりである。本当のサービス業は、高度に発展した製造業の中から生まれるのが普通である。
だが、中国製造業は外資によって完全に支配されている。
自前での高度サービス業は生まれにくい状況だ。中国では、北京大や精華大というブランド大学の卒業生が就職難である。
日本へ帰化した人から、「私の友人は仕事がなくて、日本で就職したがっている」と苦衷のほどを話してくれたほどである。
(3)「中国の投資家は、習氏が貯蓄中心の経済から消費経済への移行を成功させることに大きな賭けをしてきた。
15年の時点では、投資家は中国共産党の独裁体制が経済を支配しているため失敗はあり得ないと信じていた。
そのため小幅な(人民元)切り下げが市場に大きな影響を与えた。現在は信頼感が減退している。
バンクオブアメリカ・メリルリンチ(BAML)の投資信託マネジャー調査では、18年最大の投資リスクは中国の債務危機だとの回答が14%に上った。
投資家は、共産党の官僚組織が消費に基づく資本家へのリターンをもたらすとの考えを変えていない。その信仰ぶりは感動ものだ」
中国共産党は、しきりと中国経済が消費主導になったと喧伝している。だが、対GDP比の個人消費は39%(2016年)である。
共産党は、政府消費を含めて50%を上回ったと言っているが誇大宣伝である。
バンクオブアメリカ・メリルリンチの調査において、18年最大の投資リスクは中国の債務危機とする回答が14%に上った。
「君子危うきに近寄らず」だ。中国経済が魔法の杖を持っていたとしても、もはや全てを使い果たした状況に追い込まれている。
習氏が、奥の手を持っているはずがない。
米国を抜くことは絶対にない
私は、中国経済の衰退を一貫して指摘している。いささかの変化もないどころか一層、確信を深めている。
習氏は、「2050年に中国の覇権確立」と得意げに発言している。
だが、自前の技術を持たず、先進国から窃取している中国が、製造業の最先端に立てると信じていることを不思議に思う。
もう一つ、決定的な弱点は、人口動態統計から見て、中国の世界覇権はあり得ないどころか、「中国沈没」が確実であることだ。
人口動態と言えば、生産年齢人口比率がその代表的な指標である。
総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)の比率だ。中国は健康寿命が短く65歳まで働けず、最大限60歳定年制である。
平均値では55歳定年だ。
中国の人口総数は世界一だが、その中身は空洞だらけである。「レンコン」状態なのだ。
日本は「竹」のように節はあってもスーと伸びている。
日中の生産年齢人口は、「レンコン」と「竹」に喩えられるだろう。
日本では、65歳定年でも、まだまだ元気に働けるのだ。
労働力人口(働く意志と能力のある人)は、2025年まで増え続けるという予測まで出てきた。
日中ではこれだけの差がある。
中国は、空洞だらけの生産年齢人口である。
その穴だらけの生産年齢人口比率は、国連推計によると2010年を100として、2050年に80にまで低下(20%減少)する。
実態は、もっと厳しい減少率のはずだ。一方の米国は2050年に113へ上昇(13%増加)となる。
こういう鋏状の真逆の関係を確認すると、中国が2050年に米国経済を抜くという話はおとぎ話である。
中国は6.5%成長を、米国は2.5%成長を継続する。
この仮定に立てば、2029年に中国は米国を抜く計算になる。
だが、日本経済研究センターの推計によれば、中国は2030年にかけて2.8%成長へ減速する。
この時点で、米中の経済成長率は横並びになるだろう。
これでは、習氏による「2050年世界覇権説」はうたかたのごとく消え去るのだ。根拠のない法螺話もほどほどにすべきだろう。
(2018年1月7日)