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韓国は「大卒貧困者の割合が世界トップレベル」の社会

2023-04-20 15:37:21 | 日記
「食事は食パンとキムチと水だけ」バイトにもありつけない韓国の若者たち

2020年10月2日(金)16時55分

印南敦史(作家、書評家)


Newsweek Japan
<韓国は「大卒貧困者の割合が世界トップレベル」の社会。BTSや『愛の不時着』が世界でヒットしても、若者たちの「現実」は想像以上だ>
8月末、ポップグループ、BTSのシングル「Dynamite」が米ビルホード「HOT 100」で1位を獲得して話題になった。それに先駆け昨年から映画『パラサイト 半地下の家族』が大ヒットしてもいる。『梨泰院クラス』『愛の不時着』と、ドラマも好調だ。
そんなところからも分かるとおり――少なくとも文化的な面においては――韓国には先進的かつ洗練されたイメージがあると言えるだろう。
ところが、『韓国の若者――なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』(安宿緑・著、中公新書ラクレ)の見解は少し違っているようだ。著者は東京に生まれ、小平市の朝鮮大学校を卒業した後は米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に、日本のメディアで活動を開始したというライター、編集者である。
 2020年2月、韓国映画「パラサイト――半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)がアカデミー賞で作品賞など4つの部門を受賞するという、外国語の映画として初の快挙を遂げた日、筆者はソウルにいた。筆者が現地のバーや露店で若者にその話題を振ると、嬉しくてたまらない、といった様子の人はほとんど見受けられなかった。市井の反応など大体はそんなものであるが、むしろ「それどころじゃない」、そんな心の声が伝わってくるかのようだった。取材を進めていくと、この温度差こそが「パラサイト」が断片的に描き出したリアルであったということを認識するようになった。(「はじめに」より)
理由は、1999年6月以降最多だという失業者数の多さだ。そのうち6割が15〜29歳で、全年齢中最も多かったという。
しかしその一方、大学進学率は70%台で推移しており、国民の約8割が大卒にあたる。ところが大卒者であっても、一握りの者しか入社できない財閥系大企業の正社員になれなければ、30歳で年収2000万〜3000万ウォン、つまり日本円に換算すれば200万〜300万円に留まり、生涯賃金の格差は大きい。
「高学歴貧困者」の数が世界トップレベルにあるため、多くの若者が必然的に大企業を目指しては落ち、人生を浪費するのだ。そう聞くだけでは実感が伴わないかもしれないが、本書を読み進めていくと、想像を超えた韓国の若者の"現実"に驚かされることになる。
 韓国南東部の港湾都市、釜山出身のミン・チュナさん(仮名・23歳・女)は2019年1月に技術系の短大を卒業し、今は仁川で一人暮らしをしている。
 家賃は46万ウォン。卒業と同時に教授の斡旋でウェディングプランナーとして就職できたが、そこは朝10時から夜7時まで働いて月給が80万ウォンという、いわゆる「ブラック企業」だった。
「友達はホテルに就職して月給220万ウォンもらっているのに......。私は家賃とスマホ代だけでカツカツ。これならバイトのほうが倍以上は稼げると思い、昨年10月に退職したんです」(28〜29ページより)

日本の労働市場は人手不足に悩まされているが、韓国で問題になっているのは若者の高い失業率。特に1997年のアジア通貨危機以降は失業率が上昇基調にあり、2000年からはほぼ最悪に近い状態で停滞しているという。
つまり、そんな状態が20年も続いている韓国は、まさに「大卒貧困者の割合が世界トップレベル」という状況に置かれているわけだ。
文政権の最低賃金引上げでアルバイトの競争が激化した
しかも地方在住の若者の場合は、標準的な就職活動のレールに乗ることすら困難だという。就職できたとしても、キャリアアップは至難の技。ソウルの上位大学出身者が地方の職までを奪ってしまうからである。
さらに2017年の文在寅政権の発足以後は、アルバイトすらも激しい競争に晒されている。その原因として指摘されているのは、最低賃金の上昇だ。
文在寅政権は18年に7530ウォンだった最低賃金を、19年には8350ウォンまで大幅に上げた。その結果、競争が激化してアルバイトにさえありつけない若者が増えたというわけだ。
上記のミン・チュナさんも、単発バイトを知人に紹介してもらっていたものの、19年末からはほとんど収入のない状態が続いているという。
「実家からたまに仕送りをもらっていますが、今月はもう家賃が払えない。花屋さんのバイトに何とか受かりましたが、それも週1日だけ。洋服は組み合わせを変えて着まわし、食事はシリアルとヨーグルトを買って毎日少しずつ食べ、それでしのいでいます」
 極貧生活を抜け出すため、今は日本で働くことを希望している。
「10月から日本にワーキングホリデーを使って行く予定ですが、日本のバイトの給料は韓国よりはるかに高いと聞いています。韓国に未練はありません」(32〜33ページより)
内陸にある忠清道からソウルの大学に進学するために上京したという27歳の女性も、大学でTOEIC800点を獲得し、難易度の高いIT系の資格を複数取得したにもかかわらず、就活が円滑に進むことはなかった。
「エントリーシートはもう400枚書きました。それに、たとえば国内業務しかないリフォーム会社でもTOEICの点数が高くないと早い段階で落とされる。ただただ疲弊する毎日です」
 就職活動と単発のアルバイトを掛け持ちし、週4回働いて月に80万ウォン。
「食事はもう何か月も、食パンとキムチと水だけ。もしこの先就職できなかったら、と思うとゾッとしますね」と話す。(33ページより)

若者たちは愚直なまでに勤勉で誠実、実力も高かったが
では就職で勝ち抜くことができれば幸福かといえば、そう簡単な問題でもないようだ。
 日本でも販売されているラーメンなどを製造する大手食品企業で勤続3年目となるオ・テグさん(仮名・38歳・男)。彼は英語、韓国語、スペイン語と中国語の4か国語ができ、IT関連の各種資格を持つハイスペック人材だ。(36ページより)
名門大学を2年間休学して海外を放浪。帰国後は半年ほどかけて就活を行う。エントリーシートを出した50社中、5社は最終面接まで辿り着き、そのうち大企業数社から内定を獲得したというのだから、先の女性と比較するまでもなく恵まれているようにも感じる。だが思いは複雑で、生まれたばかりの子どもには同じような競争は経験させたくないと話す。
「食品業界は社風も保守的で、イノベーションが必要とされないので業務は単調です。ほかに内定していた会社にすれば良かったと悔やまれます。かといって、今辞めても僕の歳ではほかの業種への転職は厳しい」
 人気の大手企業に就職し、活躍する立場にまでなっても、その幸福度は低いようで、「これで良かったのかと逡巡する毎日」と、テグさんは話す。(36ページより)
話を聞いた韓国の若者たちの印象を、著者は「愚直なまでに勤勉で、自他に対し誠実であろうとし、実力も高かった」と記している。本書を通じて彼らの声を知る限り、私も同じような印象を抱いた。
彼らが正しく評価され、各人がその能力を発揮できる韓国社会が訪れてほしいと思う。そして、そんな状況だからこそ、日本の若者の役割も大きいだろう。
近年は日本文化に興味を持ち、日本語を覚え、働きにやってくる韓国の若者も多い。逆も然りで、韓国に魅力を感じ、韓国に定住する日本の若者も少なくない(私の知人にも、ソウルで単身生活を送っている女性がいる)。
少なくとも若者の間では従来の「日高韓低」の構図からフラットで自由な関係への変化が始まっているのだ。しかも現実問題として日本もまた、若者が虐げられる国だ。
いろいろな意味で両国の若者には共通項があるわけで、そのあたりに良好な状態へとつながる突破口があるように思えるのである。



















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