浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】井出孫六『ねじ釘の如く 画家・柳瀬正夢の軌跡』(岩波書店、1996年)

2017-11-25 10:37:53 | その他
 今朝読み終えた。柳瀬の名は、大杉栄や広島原爆に遭った桜隊の俳優・丸山定夫との関わりの中ででてくる。「ねじ釘」とは、彼が描いた絵にはほとんど「ねじ釘」の赤色のマークが記されていたところから来ている。

 残念ながら私は柳瀬の絵をほとんど見たことはない。今、みたい、みたいという衝動に駆られている。彼の絵が掲載されている本は、浜松市の図書館には一冊しかなく、今借りられている状態だ。

 本書は、柳瀬正夢の伝記である。しかし伝記としては、周辺の取材が少なすぎたのではないかと思う。柳瀬という人物はわかった。しかしその交友関係が充分に調べられているわけではないと思った。ひとりの人間は、様々な他者との交友関係の中でつくられていく、その軌跡がな不十分な気がした。

 ただ、柳瀬に関する文献はそんなに多くはないみたいだから、柳瀬について知るためには便利な本ではある。先に紹介した堀川惠子が書いた『戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(これはとにかくすばらしい!)を読んだときに、八田に大いなる感情移入が私の心に起こったが、この本ではそういう感情がわき起こらなかった。きわめて冷静に、柳瀬の生をたどったように思う。

 柳瀬は、プロレタリア画家(こういっていいのかどうか)として、風刺画などを描いたのだが、本書にはその絵がほとんど掲載されていない。それが残念。

 しかし柳瀬自身は、すばらしい人物だ。特高警察に捕らわれ、当然の如くひどい拷問を受けたが、他の人の情報を一切語ることなく耐えた。それでいて深刻ぶらずに飄々と生きた。

 私も、深刻ぶらずに飄々と生き、死んでいきたい。

 最近、「大日本帝国」の時代に生きた人々の生の軌跡を知りたいという気持ちが強くなっている。今年は、伊藤野枝の軌跡をたどったが、来年はだれにしようか。苦しい時代に生きた人々の生から、生きていくための養分を得たい。

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