いま右翼雑誌や商業メディアに叩かれている朝日新聞社発行の雑誌。
「従軍慰安婦」問題に関する朝日新聞攻撃は、一般週刊誌も加わり、その勢いが増しているような気もする。こう書いていても、ボクはそうした雑誌を読んでいないので、詳しいことはわからない。ただし、右翼の攻撃手法、「一点突破・全面否定」という手法を、一般週刊誌もとりはじめたということだけは指摘しておきたい。
「一点突破・全面否定」とは、公表された研究論文や調査報道に「一点」でも不十分な箇所や間違った記述があると、それを攻撃することにより、すべてを消し去ろうというものだ。「慰安婦」問題について言えば、吉田清治という人が書いたものに記されていたところの朝鮮半島での「強制連行」がなかったのだから、「慰安婦」はなかったという主張である。しかしこの点で言えば、朝鮮半島で吉田が記したようなことはなかったかもしれないが、他の地域では強制的に「慰安婦」とした事例は存在するのである。それだけではなく、「慰安婦」問題は、以前にも書いたが、吉田が記した「強制連行」があろうとなかろうと、問題とされる歴史的事件なのだ。
いや今日は、これについて書こうとしたわけではない。今月号のJournalism9月号について書こうとしているのだ。
今月号は、多彩な方々による、ジャーナリスト(そしてその予備軍)に宛てた読書の手引きである。「反知性主義に抗うために」というテーマのもとに、10冊の本をそれぞれが紹介しているのだ。全部で18人。オーソドックスな内容のもの、ユニークな内容のものがあるのだが、後者の方が面白かった。
まず憲法学者木村草太の文は、流れるような内容で面白かった。まっ先に高野秀行の本をあげて論じ始めたことが功を奏している。佐藤優というもと外交官は、ボクは、彼の本を読んだ上で言うのだが、好きではない。だからかもしれないが、彼が薦める本に関心は湧かない。ただし推薦した本に『民族とナショナリズム』(岩波書店)があったが、これは読むべきだ。つぎ柏倉康夫、もとNHKの人。主張の全体は意義深いもので、読みたいものが何冊か出てきた。田所真幸の紹介する本は、読もうという気が起こらなかった。落合恵子の本も、彼女の関心とボクのそれとは重ならないことがわかった。松原隆一郎は、個人的な探究に関わって読んだ本を紹介しているが、これはまあ内容的にはきわめて個人的な本ばかり。森達也は予想通りと思うような選択。山口二郎には以前から不信感があるので、「あーそうですか」。山口が推薦するものは、ほとんど読了済み。毎日新聞の西川恵の推薦図書は読みたいものが多い。ただし朴裕河の『和解のために』については、ボクは賛同できない。トニー・ジャケット『ヨーロッパ戦後史』上下(みすず書房)はすぐにでも読みたくなった。渡辺武達では『ベラ・チャフラフスカ』(文春文庫)を読みたいと思った。橋本五郎の推薦図書は「あっそう」で終わり。慶應大学の山腰修三の推薦図書は、読んだ本もあるけれども読みたい本もある。『民主主義の逆接』(以文社)は読みたくなった。
五野井郁夫の文は面白く、推薦されたものも読みたくなった。『金枝篇』(岩波文庫)は読んでいないので、読まなければならなかったと後悔。『スペクタクルの社会』(ちくま学芸文庫)も読みたい。何年か前、『現代思想』で、「スペクタクル社会」の特集があったことを思い出した。もと共同の青木理が推薦する本は、ほとんど読んでいる。興味関心が重なるということだ。生井英考の推薦図書も、知らなかったものが多く、いずれ読みたいと思う。TBSの金平さんの推薦する『ニュース報道の言語論』(洋泉社)は読みたくなった。金平さんのは、そうだろうなと思うような選定である。根本かおる推薦の陳天璽『無国籍』(新潮文庫)、高野秀行『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)も読みたい。仲俣暁生の文はとてもよくて、そこで紹介されている本は、読んだものを除き、すべて読みたくなった。井田真木子という人は知らなかった、片岡義男『日本語の外へ』(角川文庫)、大野更紗『困ってるひと』(ポプラ文庫)。
ボクはものすごくたくさんの本を読んでいるが、知らなかった本が多い。こういう特集があるとさらに本が増える。最近は図書館で借りるようにしているが、ボクは赤鉛筆で線を引いたり書き込みをする習性があるので、買うしかなくなるのだ。
金平さんは、最近の若いメディア関係者には、好奇心が足りないようなことを記していた。ボクは高校生の頃から、世界のすべてを知りたいと思って生きてきた。だから好奇心が旺盛で、さまざまな分野の本を読んできた。いまは歴史や政治に関係する本を読むことが多いが、大学生の頃までは自然科学や児童文学の本もたくさん読んだ。そこで獲得した知識がいまも活躍している。
自分自身の人生の軌跡はあまりに細い、せめて本を読んでその線を太くしたい。
『朝日』のTさん、この人選はよかったと思います。知的刺激を大いに受けました。
「従軍慰安婦」問題に関する朝日新聞攻撃は、一般週刊誌も加わり、その勢いが増しているような気もする。こう書いていても、ボクはそうした雑誌を読んでいないので、詳しいことはわからない。ただし、右翼の攻撃手法、「一点突破・全面否定」という手法を、一般週刊誌もとりはじめたということだけは指摘しておきたい。
「一点突破・全面否定」とは、公表された研究論文や調査報道に「一点」でも不十分な箇所や間違った記述があると、それを攻撃することにより、すべてを消し去ろうというものだ。「慰安婦」問題について言えば、吉田清治という人が書いたものに記されていたところの朝鮮半島での「強制連行」がなかったのだから、「慰安婦」はなかったという主張である。しかしこの点で言えば、朝鮮半島で吉田が記したようなことはなかったかもしれないが、他の地域では強制的に「慰安婦」とした事例は存在するのである。それだけではなく、「慰安婦」問題は、以前にも書いたが、吉田が記した「強制連行」があろうとなかろうと、問題とされる歴史的事件なのだ。
いや今日は、これについて書こうとしたわけではない。今月号のJournalism9月号について書こうとしているのだ。
今月号は、多彩な方々による、ジャーナリスト(そしてその予備軍)に宛てた読書の手引きである。「反知性主義に抗うために」というテーマのもとに、10冊の本をそれぞれが紹介しているのだ。全部で18人。オーソドックスな内容のもの、ユニークな内容のものがあるのだが、後者の方が面白かった。
まず憲法学者木村草太の文は、流れるような内容で面白かった。まっ先に高野秀行の本をあげて論じ始めたことが功を奏している。佐藤優というもと外交官は、ボクは、彼の本を読んだ上で言うのだが、好きではない。だからかもしれないが、彼が薦める本に関心は湧かない。ただし推薦した本に『民族とナショナリズム』(岩波書店)があったが、これは読むべきだ。つぎ柏倉康夫、もとNHKの人。主張の全体は意義深いもので、読みたいものが何冊か出てきた。田所真幸の紹介する本は、読もうという気が起こらなかった。落合恵子の本も、彼女の関心とボクのそれとは重ならないことがわかった。松原隆一郎は、個人的な探究に関わって読んだ本を紹介しているが、これはまあ内容的にはきわめて個人的な本ばかり。森達也は予想通りと思うような選択。山口二郎には以前から不信感があるので、「あーそうですか」。山口が推薦するものは、ほとんど読了済み。毎日新聞の西川恵の推薦図書は読みたいものが多い。ただし朴裕河の『和解のために』については、ボクは賛同できない。トニー・ジャケット『ヨーロッパ戦後史』上下(みすず書房)はすぐにでも読みたくなった。渡辺武達では『ベラ・チャフラフスカ』(文春文庫)を読みたいと思った。橋本五郎の推薦図書は「あっそう」で終わり。慶應大学の山腰修三の推薦図書は、読んだ本もあるけれども読みたい本もある。『民主主義の逆接』(以文社)は読みたくなった。
五野井郁夫の文は面白く、推薦されたものも読みたくなった。『金枝篇』(岩波文庫)は読んでいないので、読まなければならなかったと後悔。『スペクタクルの社会』(ちくま学芸文庫)も読みたい。何年か前、『現代思想』で、「スペクタクル社会」の特集があったことを思い出した。もと共同の青木理が推薦する本は、ほとんど読んでいる。興味関心が重なるということだ。生井英考の推薦図書も、知らなかったものが多く、いずれ読みたいと思う。TBSの金平さんの推薦する『ニュース報道の言語論』(洋泉社)は読みたくなった。金平さんのは、そうだろうなと思うような選定である。根本かおる推薦の陳天璽『無国籍』(新潮文庫)、高野秀行『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)も読みたい。仲俣暁生の文はとてもよくて、そこで紹介されている本は、読んだものを除き、すべて読みたくなった。井田真木子という人は知らなかった、片岡義男『日本語の外へ』(角川文庫)、大野更紗『困ってるひと』(ポプラ文庫)。
ボクはものすごくたくさんの本を読んでいるが、知らなかった本が多い。こういう特集があるとさらに本が増える。最近は図書館で借りるようにしているが、ボクは赤鉛筆で線を引いたり書き込みをする習性があるので、買うしかなくなるのだ。
金平さんは、最近の若いメディア関係者には、好奇心が足りないようなことを記していた。ボクは高校生の頃から、世界のすべてを知りたいと思って生きてきた。だから好奇心が旺盛で、さまざまな分野の本を読んできた。いまは歴史や政治に関係する本を読むことが多いが、大学生の頃までは自然科学や児童文学の本もたくさん読んだ。そこで獲得した知識がいまも活躍している。
自分自身の人生の軌跡はあまりに細い、せめて本を読んでその線を太くしたい。
『朝日』のTさん、この人選はよかったと思います。知的刺激を大いに受けました。